嶋真嗣

脳の皺に豚が走る

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消滅おっぱい

三つ単語貰って書いた短い物語。 「筋肉」「エスパー」「喫茶店」「ハルコー!起きなさい。早くしないと店開けれないでしょう」 うるさい。ケータイのアラームよりうるさい金切り声でママが叫んでいた。今日も5時起きか。私は毎朝5時に起きて、寝癖ボーボーのまま、離れの小屋にいる牛の乳搾りを無理矢理させられている。断ったらあとが大変。そしたらママはごはんも作ってくれないし、お小遣いもくれないし、私が一番コンプレックスに思っている貧乳をひたすらバカにしてくるんだもん。 「ハルコ、今何歳だっ

    • てめってめっ

      三つ単語を貰って書いた短い物語です。 「鏡」「穴子」「ノート」山本家では今日も長男の一郎が威張っていた。 「おい。二郎。早くバスタオルを持ってこい。じゃないと俺が風邪を引いてしまうじゃないか」 一郎は風呂から上がってびしょ濡れのまま、裸一貫廊下に大の字で横たわり、二郎に大声で命令していた。 「なんで僕がそんな事をしなければいけないんだ。兄さんがたかが十歩も歩けば取れるところにバスタオルがあるじゃないか」 「五月蝿えんだよ。俺は疲れたんだよね。一歩も動けねえんだよね。こうして

      • あなたに伝えたいことがあります

        三つ単語を貰って書いた短い物語です。 「地元」「世界」「味噌」何故おれはこいつと殴り合っているのだろうか。おれは他人事のように、目の前の黒人に殴られながら、ぼんやりしていた。 「ガード下げるな!右くるぞ、右!」 会長の声で目が覚めた。おれは今、ボクシングの世界タイトルマッチで闘っていたんだ。鬼の形相で迫ってくる相手の攻撃をクリンチしてどうにか逃げた。あと何秒残っているんだ?早くゴングが聞きたかった。このラウンドは相手のいいパンチを貰いすぎてしまった。右目の上がパックリ開いて

        • メイドへ送る

          三つ単語を貰って書いた短い物語です。 「スマホ」「マグカップ」「ココア」「ちょっと私の部屋に来なさい」 私はご主人様の大切にしていたスマホの画面をひびだらけにしてしまいました。このお家に家政婦として入ってから何回目のミスだろうか。 「おまえは何回注意しても直らない。罰としてここに置いてある土をお湯で割ったマグカップの中身を全て飲み干しなさい。できないとはいわせない」 私が悪いんだ。目を見開き瞬き一つせず私を見下ろすご主人様に逆らう事は到底できず、私はマグカップに唇を当てまし

        消滅おっぱい

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        • 短編小説
          9本

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          大馬鹿野郎

          三つ単語のお題を貰って書いた短い物語です。 「ごはん」「鹿」「花火」静かな町に悲鳴が響き渡っていた。また、この季節がやってきた。窓を少し開けて、外の様子をうかがってみると、町はパニック状態に陥っていた。 鹿が暴れまわっていた。いや、あれは鹿なのだろうか?奈良動物公園にいる鹿を全匹合体させたような馬鹿でかい鹿。山からあいつがまた私の町に降りてきた。何を食べたらあんなにでかくなるんだよ。知ってるよ。人だよ。 去年、私のお父さんはあの大鹿に食い殺された。あのおぞましい記憶が脳内に

          大馬鹿野郎

          忘れられない一日

          三つ単語のお題を貰って書いた短い物語です。 「誕生日」「友達」「ケーキ」 明日は特別な日!明日はあたしの大好きな恋人のたっちゃんの誕生日。そして、あたしとたっちゃんが付き合って一年記念日。たっちゃんの誕生日はあたしたちが付き合った記念日と一緒の日なの!明日はあたしが生きてきた人生の中で一番幸せな一日にするって今からやる気満々なの! 大好きなたっちゃんのためにどんなお祝いをしてあげようかって、ちょっぴり早いけど、あたしは二ヶ月も前から準備してたの。あたしはドジでマヌケでちょ

          忘れられない一日

          私はキジムナー

          彼が浮気した。確実に。合鍵で彼のアパートに入ると私は発見した。つけまつ毛を。彼の部屋の床にぴったりとくっついている、つけまつ毛を。私が普段使っているものとは明らかに別物の、毛虫みたいな、埃にまみれまくった、つけまつ毛を。 私は佇んでいた。彼が大好きなアサヒの瓶ビールが何本も入った重いスーパーマーケットのビニール袋を両手にぶら下げたまま。ビニール袋が手に食い込んで痛かった。でも、それよりも痛いところがあった。何処だなんて言わねえよ。だいたいわかるだろ。心だよ。結局言っちゃ

          私はキジムナー

          幻とのつきあい方

          三つ単語のお題を貰って書いた短い話 「りんご」「森」「部屋」あれはわたしが人生で一番泣いた日だった。 おじいちゃんが死んだ日だった。大好きなおじいちゃんだった。おじいちゃんは空手の先生だった。強くて、厳しくて、でも、とびきり優しくて、自慢のおじいちゃんだった。 おじいちゃんは病院で最期を迎えるのを嫌がった。お医者さんの反対を押し切り、病院を飛び出して、家で最期の時間を過ごした。 おじいちゃんが亡くなってしまう最期の日。わたしはおじいちゃんの側にずっとつきっきりでいた。

          幻とのつきあい方

          何もすくえないスプーン

          【三単語ショートショート】 三単語ショートショートとは、三つ単語を貰って書いた短い物語である。 **「動物」「スプーン」「パトカー」 **ぼくの家は牧場を経営している。田舎のとても小さな牧場だけど、一人っ子のぼくにとっては、どの動物たちもみんな可愛くて、頼りになる友達のような、いや兄弟みたいな存在なんだ。だから、ぼくは一人っ子なんかじゃなくて大家族の一員なのだ。 この大家族の中でも、特に仲がいいのがブタのプニ太郎。時々、牧場に遊びに来た学校の友達にプニ太郎を紹介するのだけ

          何もすくえないスプーン