第22話 例えやる気があっても結果は必ず良い方に転ぶわけではない

ゴールデンウィーク


鶴崎高校はグランドの質や広さがしっかりしている。
それは地区大会の公式戦でも試合会場として使われることもあるくらいのレベルのため、練習試合を申し込まれることが比較的多い。
特に多いのは地方の強豪校が遠征で神奈川県に来るときだ。
近年では目ぼしい活躍はしていない鶴崎高校だが、やはり過去に甲子園行った実績は申し込まれる大きな要因であった。


高木ら首脳陣も選手たち自身も
チームが活気に溢れ、充実した練習を繰り返していることに確信を得ている。
"楽しければいい"
"自分が活躍できたらいい"
これまではどこかそういう空気感に支配されていたが、一つのきっかけで大きな変貌を遂げつつあるのは紛れもない事実
しかし…それだけで思うように事が運ぶ程、野球は簡単なスポーツではなかった。


連戦連敗…


何とか最終試合で1つ引分けたが、散々な結果なのは誰の目にも明らかだった。
キャプテンの遠藤がまだ復帰できていなかったのは痛手ではあるが……


ゴールデンウィーク最終日
終わりの円陣にて


「これが現実だ」


鋭い視線を飛ばしながら選手に向けて発した言葉は厳しいモノだった。


「たしかに遠藤がいなかったのは大きな痛手だ。しかしたった一人いないだけで覆せる程の戦力差じゃなかった。それにこの先に控えてる夏の大会に全員が万全の状態のベストメンバーで戦える補償はどこにもない」


ほとんどの選手たちは悔しさの表情を浮かべる


「夏の大会を勝ち上がるには全員の力が必要になる。そこに試合に出る出ない関係ない。しかし全員が試合に出ることもできなければ、ベンチ入りすることもできない。ここで改めて言う。上も下も関係なく全員横一線だ。だらしなかったら3年も容赦なく(ベンチから)外す。覚悟しておくように。」

「「「はい!」」」


➖➖円陣後の職員室➖➖


帰宅準備をしてる三浦に高木が話しかける


「三浦」
「はい!」
「これからの練習、試合でアイツら中心で行くぞ」
「はい!」
「確認だが桑原はキャッチーやるんだよな?」
「はい、やります」
「わかった。そしたらこれが現時点でのメンバー表だ。当面の間はこれで進めていくが、順次変えてくつもりだ。目を通しておいてくれ」
「はい、確認します」


1 田代 三年
2 大野 三年
3 森  一年
4 欠端 三年
5 新浦 三年
6 知野 一年
7 山本 二年
8 牧  一年
9 井手 二年
10 遠藤 三年
11 加藤 三年
12 桑原 一年
13 佐々木 二年
14 川村 二年
15 五十嵐 二年
16 山崎 三年
17 万永 二年
18 進藤 二年
19 石井 二年
20 堤  二年

21 須藤 三年
22 屋敷 三年
23 川端 二年
24 伊勢 一年
25 今永 一年


※番号は背番号順


「えっ…」


三浦は呆気にとられた。
ある程度変化が見られることは想像できてた。
特に"アイツら4人"がメンバー入り(背番号20番までの中に入ること)はわかっていたし、レギュラーナンバー(背番号一桁)を獲る可能性もあると踏んでいた。
しかし…
三年が2人もメンバーから外れること
二年の指導員の2人(石井・堤)がメンバー入りすること
この二点は想像すらしてなかったのだ。


「何か不服か?」
「いえ、不服というわけではありませんが…驚いたのは事実です」
「ふむ…石井と堤か?」
「はい、そうです」
「あの2人はランナーコーチャーをやらす」
「えっ?」
「ランナーコーチャーとして鍛え上げる。そのためのベンチ入り"でも"ある」
「(でも?)なるほど、了解しました!」
「徹底的に俺から教え込む。だがお前も気づいたことがあったら何でも言ってやってくれ」
「はい!」
「あと何かあるか?」
「はい。あの、これはまだ決定ではなく現時点のメンバーリストで間違いないでしょうか?」
「……あぁ、そうだ」
「ありがとうございます!」


納得言った表情を浮かべ、高木に一礼をしてから自分の机に向かう三浦
そのときは疑問に抱いたことは忘れ去られていた。
高木は一つ溜め息をついて
『アイツにももっと教え込まなきゃ駄目だなこりゃ…』
そうつぶやくと天を仰いだ。


ゴールデンウィークの計12試合
一年生が入部してからのチームの活気とは裏腹に結果は散々なモノだった。
しかし克己、牧、森、桑原の4人は上級生の試合にも初起用され、其々インパクトのあるデビューとはならなかったがまずまずの成果を収めた。
新たな息吹が吹き込んでいるのは間違いなかった。

▼上級生試合

計8試合 0勝7敗1分

▼一年生試合

計4試合 1勝3敗

克己の個人成績

▼上級生試合
・打者成績(3試合出場)
8打席 7打数 1安打 1二塁打 2打点 1四球 1得点
・投手成績(2試合出場)
2イニング 0失点 1奪三振 0被安打 0四死球

▼一年生試合
・打者成績(2試合出場)
7打席 7打数 2安打 1三塁打 4打点 1盗塁 1得点
・投手成績(2試合出場 うち1先発)
9イニング 2失点 5奪三振 4被安打 1四球

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