4月
入学式を迎える3人

「まさか3人同じ高校になるとは夢にも思わなかったわ〜」

優希也がわざとらしく嫌味たっぷりな言い方で話す

「そんなに嫌なら転校したらいいじゃない！転校するなら東京の学校選んでね〜、会わないで済むから〜」
「お前、それさすがに酷すぎだろ！」
「ははは。」

3人の漫才のようにテンポのいい会話は小学生の頃から変わらない。
3人は地元の県立高校を選んだ。
学校の場所は各自の自宅から徒歩で15分ほどの距離にあるので、近くの公園で集まってから揃って歩いて学校へ向かっている。
それ程近い高校のため近くを通りかかったことは数えられないくらいある。
しかしいざ入学となるとそれぞれ緊張の面持ちで少し強張っていていた様子なのがわかったが、馴染みの顔を見たらホッと表情を緩ませた。
やはり一緒にいられる安心感は何ものにも変え難いモノだ。

ーーーーーー

学校に到着

新入生はクラスを確認する前に体育館に集められ着席を促され、入学式がはじまった。
学校長やPTA会長のあいさつが行われている真っ只中で優希也はあからさまに退屈そうな顔をしているのだが、それに気づいた里奈が注意を促す(かなり強烈な肘打ちだ)
克己は表情こそ変えなかったが『あれは痛い』と思いながら横目で優希也の顔を確認する。
優希也は涙目になっていた。
なんやかんやあったがそれ以外は無事入学式が終わった。
最後に、体育館出る前にクラス分けのボードがあるので各自確認してそのまま教室に行くようにと言われ、3人はクラス毎に名前が貼られているボードを確認しに行く。

「お前、アレはねぇぞ！」
「優希也が悪いんでしょ！あんなあからさまな態度して！私は助けたんだから感謝されてもいいくらいなんだからね！」
「モノには限度ってモンがあるだろうがっ！」

などと言い合ってるうちにクラス分けのボードにたどり着く。
各々が自分のクラスはどこだ？と、くまなく探す。

あった！と、指を差した先は………

「もうこれ腐れ縁ってレベルじゃねぇな」
「まさか同じクラスになるなんて…」
「こんなこともあるんだねぇ〜楽しくなるね。」

全員同じクラスだった。
開いた口が塞がらない様子の優希也と里奈だったが、克己の笑顔を見て我にかえる。
お前ってヤツは……
そう言いかけたが笑ってごまかす優希也

今年の新入生はA組からK組までの全11クラス
例年なら8クラスほどのため、今年の新入生は一際多いのがわかる。
優希也たち3人はB組に配置された。
席は名前順座るようになっていたため、ここでは3人バラバラの席に着くことになる。
しばらくしてから

ガラガラガラッ

先生が入ってきた。

「は〜い、皆さん注目〜〜〜。」

気怠そうな声が教室に響く

「これから一年間担任になった盛田です。どうぞよろしく〜〜。」

見た目はシュッとした一見さわやかな風貌だか、クラスの全員がツッコミたくなるくらい気怠そうな雰囲気と振る舞いの先生だ。
そんな担任を克己は不思議な感覚を覚え、ボーっと担任を見続ける。
そのことに気づいた優希也は頭の中にクエスチョンマークが浮かんでる。

「んでだっ。自己紹介とかやろうかと思ったんだが、時間もねぇし面倒くせぇから今日はなしっ。今度やるわ〜……まぁやるっていう保証しねぇけどなぁ〜〜」

担任の盛田がそう言い終わるとクラス中、クスクスと笑いが起きた。
盛田は気怠そうな表情のまま、ため息混じりにふぅーと息を吐いて

「はい、じゃあ明後日の週明け月曜日に戻ってこい。サボんなよ？後々処理が面倒くせぇんだから。わかったな？？では解散！」

そういうなりそそくさと盛田は教室を出る。
一同唖然として、教室はしばらく静寂に包まれたのち

ははははは
なんだあれっ
うそだろっ

笑う者、驚く者、項垂(うなだ)れる者など多種多様な反応を見せる。
クラス全員がはじめて出会ったタイプの先生に戸惑いを隠せない様子で、そのせいもあり好意的に見る方が圧倒的に少ないが、あからさまに毛嫌いしてる表情の生徒はいない様子。
学校のシステムとして進級した際の2年と3年はクラスメイトと担任は同じになる。
なので1年のときに例えどうしようもない先生だとしても2,3年時に当たらなければ問題とも言える。
2,3年は進学・就職など進路が関わってくるので盛田先生のような感じでは困ると思う生徒や親御さんは少なからず出てくるからだ。

3人は学校を後にする
校門を出るか出ないかのところで優希也は思わず口を開く

「なんかすげぇ先生だったな！」
「1年の担任で良かったー！これが2年だったらあの先生に進路相談するとか……考えられないわ！」
「それは言いすぎじゃない？」
「克己、アンタちゃんと見てた？！あんな怠そうにしててヤル気なんかあるわけないじゃない！！来年以降担任とかになったら絶対苦労するわよ。」

捲し立てるように話す里奈をなだめる克己
それを見た優希也が思い出したかのように

「そういやぁ、潮鶴川沿いに新しくハンバーガー屋ができたの知ってる？」
「えっ？そうなの？」
「知ってる。母さんがチラシ見てなんか言ってた。たしか4月1日Openって。」
「そうそれ！ちょっと帰るには遠回りだけど、せっかくだから行ってみねぇ？」
「いいね。」
「賛成ー！」
「OK、じゃあ決まり！！」

3人は帰宅路とは違う道を通ってハンバーガー屋へ向かう。
里奈の足取りは軽く、2人を先導するように歩く。
機嫌が直ったことを確認し、2人は安堵して里奈の後を追うように向かう。