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広報・PR 目的とKPI設計 入門ガイド

2022.1225日更新

広報担当者の悩みゴトに、KPI設定を挙げる人が多いようです。またその上司、経営者の方からも、広報の評価指標が分からない、という話を聞きました。

広報のKPI設定が難しいと言われるのは、営業部やマーケティング部と連動する業務でありながら、管理部門のような「成果を数値化しづらい」業務だからだと思います。

そこで、私がPR代理店とBtoBスタートアップで計10年間PRに従事した経験と、多方面の広報・PR担当者さんから学んだ具体的な目的・KPIの設定方法について、ここにまとめようと思います。


広報・PRの目的とKPI設定でありがちな失敗

広報・PRのKPI設定の方法を解説する記事は多くありますが、なかなか概念通りに設定できず悩む広報さんが多いようです。
よく聞く失敗談は以下などです。

  • 他社広報さんの経験談や解説記事を参考にしても、自社の広報・PRのフェーズ、成熟度、ドメインが異なり上手くいかない

  • 目的に設定した「認知獲得」「経営に資する広報・PR」が計測しづらい

  • KPIをアクション数(プレスリリース配信数、メディアキャラバン数、オウンドメディア記事数、SNS投稿数など)にした場合、そもそもの目的を見失いやすい、または目的との関連付けが難しい。

  • KGIを指名検索数や問合せ数、採用エントリー数に設定した場合、広報のアウトプットとの相関が小さく、低評価になりやすい

目的・KPI設定のポイント

上記の失敗を解決するには、
曖昧な目的を設定しない
②自社のフェーズ・自身のスキルに合わせた目標・KPIを立てる
③企業ドメインごとに合う手法を理解しておく
だと思います。

活躍していると言われる広報・PRさんは、「自社のフェーズを理解する」「自社の勝てる領域・手法」で目的・KPIを設定しています。

OKRから考え、Howを意識する

通常、KPIを設定するときは、OKR/KGIから落としていくべきとされています。
ただその際も、企業ドメインごとに合う手法を理解しておく必要があります。「自社の勝てる領域・手法」です。具体的に言えば「メディア露出しやすいしにくい」「SNSが合う合わない」などです。

KGI(アウトカム)とは

KGIは「Key Goal Indicator」の略語で、「重要目標達成指標(目指す数値)」と呼ばれており、企業、組織、事業などで設定した目標を達成しているかを計測するための指標です。

広報・PR界隈では「アウトカム」とも言われます。
このKGI(アウトカム)をどう設定するかが、KPI設定の成否を握っています。

KPI(アウトプット)とは

KPIとは「Key Performance Indicator」の略語で、「重要業績評価指標」あるいは「重要達成度指標」などと呼ばれています。目標達成のための各プロセスにおいて、達成度合いの計測と評価をするための指標です。

広報・PR界隈では「アウトプット」とも言われます。KPIは多くの場合、2、3個設定されることがあります。
広報・PR担当者のスキルによって、何を設定するかが変わってきます。

OKR(インパクト)とは

OKRは「Objectives and Key Result」の略称で「目標と主な結果」と訳されます。
KPI、KGIは、具体的なアクションは明確になりますが「そもそもの目標・目的はなんだったのか?」を見失ってしまうことが問題視されます。

OKRは、定量化・数値化できないものでも良く、100%の努力をしても達成度は60点から70点くらいになってしまいそうな高いところにゴールを設定するのがポイントです。KGIよりも長期的、かつ野心的な管理手法です。

広報・PR界隈ではアウトカム(KGI)がもたらす社会的な変化や効果、つまり理想の姿を指し、「インパクト」とも言われます。

ステップ①KGI(アウトカム)を設定する

自社のフェーズ・自身のスキルに合わせて目標を立てます。

KGI(アウトカム)の例


例①会社のミッション達成を目的にする
経験値の高い方は、「会社のミッション達成」を掲げることがあります。難易度が高くまた計測しづらいですが、それが「経営に資する広報」だと言えます。

仮にミッションが「子どもたちを笑顔に」を掲げてサービス展開する企業であったとします。当該企業のサービスの普及はミッション達成の1つの手段です。そのサービス普及を後押しするために様々なアクションを行うことができます。

  • 法の規制があればその緩和に動く

  • こども家庭庁に第三者推奨をもらえるようロビーイングをする

  • マスメディアに取り上げられて広く知っていただく

またはサービスとは関係なく、「子どもたちが笑顔になるイベントの開催」をしてもいいかもしれませんし、同じ想いの人材を同志として採用することかもしれません。
要は企業としてのミッション達成のためになにを取り組んでもよいのです。

例②社内への貢献を目的にする
広報・PRの役割を他部署(営業部、マーケティング部、人事部など)への貢献とする目的です。

具体的なアクティビティで言えば、マーケティング部のリード獲得のためにセミナー前後でコンテンツの発信を協力したり、SNSで盛り上げたり、専門家やアワードでの受賞などの第三者からの権威付け、人事部が採用したい職種用の取材やコンテンツ発信などなどです。

例③定量で計測しやすいことを目的にする
例②に近いですが、より範囲を絞って、指名検索数や問合せ数、採用エントリー数、発信するコンテンツ数などを目的にします。

注意点としては、計測しやすい反面、想定の範囲内のアクションしか生まれづらくなります。

例④メディア露出を目的にする
広報・PR=メディア露出が期待されていれば、それを目的にし特化する考え方もあります。具体的に取り上げられたいメディア名を挙げたり、掲載メディア数、広告換算値などが目的になるでしょう。

KGI(アウトカム)を具体的にするときのポイント

KGI(アウトカム)を上手に設定するには、「SMART」で考えます。

  1. Specific:具体的、分かりやすい

  2. Measurable:計測可能、数字になっている

  3. Achievable:達成可能な

  4. Relevant:関連性があり

  5. Time-bound:期限が明確

KGI(アウトカム)の設定が曖昧だと、KPIが上手く設定できません。
どこかに出掛けるときに目的の場所が決まれば、ルートや交通機関、到着時間は決まります。行き先が曖昧ではどこに行けば良いか分かりません。

良い目的とは期限や目標数字が設定され、曖昧さがないものだと、元P&Gのマーケター音部大輔さんは著書『なぜ「戦略」で差がつくのか』で語っています。

KGI(アウトカム)を具体的にするときの注意点

KGI(アウトカム)を定量化、具体化するときに意識したいのは、必ずしも「説明責任のためだけの定量化ではない」ということです。

  1. 説明責任のため:売上等への関与を評価しやすくなる。他部署との共通指標になる。

  2. 学びのため:仮説検証を経て学び、課題を抽出しやすくする。

  3. 行動のため:何が効率的かを判別しやすくする。リソースを集中できる。

初期のころは「学びのため」「行動のため」の側面が強いことを社内に強調し、自身・チームがより良い広報・PR活動を行うために定量化、具体化を目指します。

「バルセロナ原則 3.0」

https://amecorg.com/ja/barcelona-principles-3-0/

ちなみに、国際的なコミュニケーション効果測定・評価協会であるAMECが提唱したPRの効果測定に関する7原則「バルセロナ原則」の中でもPRの効果測定について書かれています。

ここでも「インパクト」の設定、定量・定性で評価すべき、との記載があります。

実際に、KGI(アウトカム)を具体的にしてみる

「誰に」「いつまでに」「どのような状態を目指すのか」を決めます。

「プロダクト広報」「採用広報」「企業理念の浸透(社内広報)」など、いずれの広報・PR活動でも同じです。

広報・PRの役割は「ステークホルダーとの良好な関係づくり」「社会とのコミュニケーション」と言われます。
ただし、全てのステークホルダーと一度に関係性を築くのは困難です。
設定したKGI(アウトカム)に合わせてどのステークホルダーとの関係構築に力を入れるか優先順位をつけることをお薦めします。

  • 会社のミッション達成が目的の場合、そのために誰と関係構築すべき?(既存ユーザー?新規ユーザー?株主?行政?メディア?社員?)

  • マーケティング部のサポートが目的の場合、関係構築すべきは潜在顧客?新規顧客?既存顧客?

1点、新規顧客と関係構築する場合、マーケティング部と広報・PRは同一のターゲットを狙うのか?は一歩踏み込んで考えたいテーマです。
例えば、BtoCであればターゲットに影響を与える専門家やインフルエンサー、BtoBであればChampionに影響を与えるであろう取引き先企業であったり、業界のリーダー企業、行政、業界団体など、ターゲットそのものではなくその周辺の人・団体が関係構築の候補に挙がるでしょう。

<いつまでに>

期限を設けることも重要です。
「フォーキャスト(現状の課題や実績から考える)」と「バックキャスト(将来のあるべき姿から逆算する)」の2つがあると思います。

バックキャストで期限を設けるならば、なんとなく「5年後までに」とするよりも、必然性がある期限を設定した方が納得力が増します。

例えば、法改正のタイミングをコンペリングイベントにします。医療、建設、物流業界には2024年4月に働き方改革関連法が施行され、人手不足が加速する「2024年問題」があります。
2024年までに社会をどのように救いたいか、自社がどのような状態になるべきか、を目的に盛り込むと納得度が増します。

<どのように>

目的に合わせて設定します。
行政と関係構築し法改正を目指す? 官僚秘書の連絡先を得るまでで十分?などは目的によって異なります。

例えば、認知獲得を目指した場合、知名される(聞いたことはある)で十分か? 認識される(認知された上でどんな便益をもたらす商品・会社か理解されている)までが必要か?
認識されている、まで必要であればそれは仮に製品資料DLまでか、セミナー参加までか? どこまでをマーケティング部と連携するか?

「企業理念の浸透」のようなインナーブランディングが目的の場合も退職率や定着率を目標数値にすれか否か?などです。

ステップ②KPI(アウトプット)を設定する

KGI(アウトカム)に何を設定したかでKPIは決まります。

会社のミッション達成を目的にしたときのKPI
定量で計測しやすいことを目的にした場合のKPI

KPI(アウトプット)の例

例①アクション数をKPIにする
広報・PRに初めて取り掛かるときに有効です。
まずは学びのため、行動のために、質よりも量で取り組みます。

プレスリリース配信数、SNS投稿数などがKPIになりやすいです。
経験値を積んでくると行政との折衝数や、専門家・業界団体とのプロジェクト起案数などをKPIに追加するもの良いでしょう。

例②取得可能な数字をKPIにする
KGI(アウトカム)を「定量で計測しやすいこと」に設定していれば自ずとKPIも取得可能な数字をKPIになります。
広告換算やいいね数、指名検索数など大きなコストやリソースがなくても把握しやすい数値をKPIにするのが良いでしょう。

KGIをメディア露出に特化していれば、広告換算や露出の質と量をスコア化してもいいでしょう。

例③後工程の数値をKPIにする
広報・PRを単体で見ずに、メディア露出やイベント開催、コンテンツ発信の結果、リード数、採用応募数などにどう繋がるかまでを責任範囲にし、KPIにします。特にマーケティング担当を兼務、人事採用担当を兼務していている場合などに有効です。

例④定量アンケートをKPIにする
社内への貢献を目的にする場合、社内の部署に施策を取り組んだ前後でNPSアンケートを実施し、社内満足度、推奨度を調査します。

KPIはHowと一緒に考える

KPIを目的(KGI)から考えると、施策(How)が無数に多くかつ壮大になりやすく、実現性が低いKPIが完成してしまうことがあります。(それに挑戦することも大事ではありますが)
それを防ぐためにどのドメインにどの施策が有用か、ドメインの特性を理解しておくことも重要です。
BtoBの広報・PRは自社の勝てる領域・手法を理解することも大事です。

BtoCとBtoBの顧客の違い

BtoCとBtoBではターゲットの特性と購買プロセスが異なります。BtoCの中でも住宅や金融などの高額商材はBtoBに近いでしょう。
BtoBはターゲットとなりうる対象者が限定的ですし、Webや店頭で簡単に商品を購入は出来ません。

そのため、広報・PRの施策としてほぼ必須の「メディア・リレーションズ」がBtoBではハマらないドメインが多いです(ハマるドメインもあります)。
TVや雑誌の企画で「人気のコンビニスイーツ特集」はあっても「人気のMAツール特集」「今すぐ導入したい採用管理ツール特集」は恐らく企画されないでしょう。
また購買決定がBtoBは複数人による協議制なのでメディア掲載からの直接の問合せ数、購買は少なく、定量で目に見える効果を得づらいです。

BtoBで意識すべきステップ

広報・PRの手段を考えるとき、広義の広報・PRを意識することが重要です。

広報・PRは、情報を届ける手段(マスメディア、専門媒体、オウンドメディア、セミナー、SNS、口コミ、チラシ配り)を理解するだけではなく、主体的にやれることは多々あります。

ドメイン別に有効な手法

BtoBは一般社会への影響度、特定業界向けかどうかで有効な手段にある程度の傾向があります。

その他広報・PRが行いたい手段の例を、以前noteに書いているので、興味あればご参照ください。

終わりに

広報・PRの目的、KPIについて、長々と書きましたが、やっぱり広報・PRはアクションしてなんぼです。考えすぎて行動に移せなくなってしまっては元も子もありません。

正直、何が正解かは分かりませんし、個々人によって正解は異なります。
広報・PRに携わる方々のKGI、KPI設定に少しでも役立っていれば幸いです。

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