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読書感想 - 「心に折り合いをつけてうまいことやる習慣」 中村恒子

感想

御歳89歳の 現役精神科医 中村恒子先生の珠玉の言葉を拝読できる素晴らしい本。中村先生、なんと、現在も週4日のフルタイム勤務をこなし、2年前までは週6日のフルタイムをしていたというものすごい方。

中村先生は「長く働いてきただけが取り柄」と自身を評するのですが、約70年間フルタイムで働き続けるなんてできる?簡単に「できる」と言える人は少ないんじゃないかな。

そんな先生、仕事が大好きなワーカーホリックさんかと思いきやさにあらず。

 ちなみに私自身は、仕事に多くの人生を捧げてきましたけれども、仕事が好きかどうかと聞かれたら、正直言って好きじゃありませんわ(笑)
 もちろん、嫌いというわけではないんですが、心から大好きというほどでもありません。じゃあ、働く上で何か大きな目標があったかと言えば、それもぜんぜんない(笑)
(中略)
 やってきたのはせいぜい、「目の前の患者さんが頼ってくれるならそれに応えよう」「自分にできることならしよう」くらいのものです。

先生、めちゃくちゃ格好いい。。。

戦後の混乱の中で医師になった先生にとって、仕事はやるかやらないかではなくやるしかなかったもの、生き抜くために。そこには仕事をする意味とか、目標とかそんな浮ついたものが入り込む余地がない。かといって大上段からの「いいから黙って働け!」みたいな圧は全くなく、肩の力の抜けた淡々とした佇まい。

先生は

「お金のために働く」でええやない。
仕事が好きじゃなくてもまったく問題ない。
「やらないよりやったほうがマシ」
くらいが続けて行くにはちょうどいい。

と淡々と仰る。その凄み。

やれ自己実現だ、夢だ、目標だ、生きがいだ、社会貢献だと仕事にあれこれ求めてワーワー言いがちの私にとってはガツンと横っ面を叩かれたような気分。もちろん、そうしたことも間違いではない。ないけれど、仕事はまず生活していくために行うもの。それを忘れてはいけない。

「生きがい」とか「己の成長」なんていうのは、自分をちゃんと食べさせられるようになったあとに、余裕があったらボチボチゆっくり考えていけばええと思います。

このあたりのことを忘れてしまうから、やりがい搾取とかにひっかかっちゃうんだろうな。

この本で、先生が述べるもう一つの大きなメッセージが「人間はどこまでも一人」ということ。

 人間関係で悩む人は本当に多いですけど、忘れてはいけません。
 どこまで行ったって、人は一人なんです。
 これはたとえ親子でも同じ。一人ひとりが意思を持った別々の人間なんやから、いつも同じほうを向いて生きていくことなんてできません。
「仲間が」「友だちが」といつも誰かと一緒にいることを求めたり、子育てで「仲のいいママ友ができない」、職場で「親しい人ができない」と深刻に悩みだすのは、考えるだけ損というものです。
(中略)
仲がいい人が常に自分を助けてくれるとは思わんことです。いい距離感とあきらめが必要ですわ。
 そもそも、人間関係は「水物」。
 ほんのちょっとしたことでひっついたり離れたりするもんです。人間は己の利のあるほうへすぐ流れるし、時間や距離が離れて会わなくなると、縁もどんどん薄くなる。それが人間関係というものです。

「人間は一人である」という絶対的な現実を直視しないから、他者に過剰に期待したり、期待に応えようとしたり、恐れたり、コントロールしようとしたり、変えようとしたりしてしまう。

この本を読んで、人間関係にいい意味で期待しないということを学んだことで、かなり気が楽になった。「〜〜したら嫌われるだろうか?」とか考えること自体の意味(意義)が減った。人が結局一人なら嫌われようが好かれようが大勢に影響はないわけだから。

それと偉くなるとか、有名になるとか、どーでもいいなと思うようにもなった。89歳という地点にもし自分が到達したとして想像してみると、今のあれやこれやの悩みとか、承認欲求とか、ほんとどーでもいい。想像する時間のレンジを大きくとる、または空間のレンジを大きくとると、大抵の悩みや欲望は取るに足らないって思うようになるね(広い宇宙の小さな銀河の小さな太陽系の小さな地球の小さな日本の・・・と想像してみればすぐご納得いただけるかと)。

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