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「出版社での仕事(その2)販売部編」

今回は、前回予告した通り販売部での仕事について書きたいと思います。
私は、中途採用で出版社に入社しました。秘書として6年くらい勤務した後、販売部へ異動しましたが、それは自分から希望してのことでした。今から、10年以上前の話です。会社に「どの部署でも構わないから、他の仕事もしてみたい」と伝えた結果の異動でした。
同じ社内とはいえ、秘書室と販売部は仕事内容が大きく異なり、最初は戸惑うことも多くプチ転職をした気分でした。

販売部では、内勤から外勤(取次営業・書店営業)まで、幅広い仕事を経験しました。当時の販売部での重要な仕事の一つに電話を取ることがありました。これは、内勤外勤を問わず、自分の机の電話が鳴ったら率先して取らなければなりません。私は、最初は内勤だったため、必然的に電話を取る回数が多くなりました。この「電話を取ること」が、当時の私の一番の苦痛でした。
外線で販売部に掛かってくる電話は、大きく三種類ありました。①取引先(取次会社など)からの電話、➁書店からの注文の電話、③一般のお客様からの問い合わせの電話、です。電話に出るまで、①から③のどれなのかが、分かりません。まさにロシアンルーレットです。いつもドキドキしながら電話を取っていました。
たまに、クレームの電話を受けることもあります。時には、ずっと話し続けるお客様からの電話が切れずに一時間以上話を聞くこともあります。そんなお客様からの電話の中で、忘れられない電話があります。

ある日、私が社内にいる時に、一本の電話が掛かってきました。電話に出たところお客様からの電話で「雑誌のバックナンバーを自宅に送って欲しい」という内容でした。現在なら「在庫があれば、ネット書店や最寄りの書店で取り寄せてのご購入」をお勧めするのですが、当時はネット書店も現在の様に翌日に届くことはなく、書店に取り寄せるとなると一週間以上かかる時代でした。そして基本的には、会社では「直接お客様に書籍や雑誌を販売する」という対応はしていませんでした。それは、在庫は全て遠方にある自社倉庫で保管しているからです。そのお客様は「どうしても、そのバックナンバーを明後日までに自宅に届けて欲しい」と言われました。
あまりに、お客様が切羽詰まった様子であったため、理由をお伺いしたところ「先日、父が亡くなり明後日が葬儀である。父が『○○○○』(会社の雑誌)のバックナンバーを図書館で予約していたので、きっと読みたかったのだと思う。最後に棺に入れてあげたい」とおっしゃいました。
事情が事情ですが、私だけでは判断できませんでした。上司に相談したところ「ちょうど私(上司)がその雑誌を持っているから、それを送ろう。そして、お客様に“落ち着いてからで構わないので、代金を現金書留で販売部宛に送ってください”とお伝えしたら良いのでは?」と言われました。
私は、そのことをお客様に伝え、すぐに雑誌をお送りしました。後日、お客様から雑誌の代金とともに、丁寧なお手紙が送られてきました。
その時「天国に読みたかった雑誌を届けるお手伝いができて良かった」と思いました。

販売部では、デモ販売やサイン会をしたり、雑誌の創刊に携わったりと様々な経験をしました。しかし、会社を辞めた今、なぜか一番に思い出すのはこの時の話です。

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