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ファンタジーミート

<約700文字>

 予約を取るのが難しい培養肉専門のレストランがある。
 そこで出す肉は一風変わっていて、全て実在しない動物の肉を再現した”ファンタジーミート”と呼ばれる新しいジャンルの肉だ。
 例えば、ドラゴンの肉。巨大なワニや鯨、あるいはマンモスなど、大型の動物の肉質をベースに、専門家の意見を元に想定される肉質を遺伝子操作で再現する。他にもユニコーンとか、イエティとか、ここでしか食べられない肉がたくさんある。
 生み出された肉の味が正解なのかどうか、誰も知る由はない。だが、実在の動物に似ているような、でも少し何か、新しくて言葉にできない違いを感じる肉になっていて、物珍しさから10年先まで予約が埋まっているような状態だ。ファンタジーミートが食べられるレストランは世界にここだけしかないから、無理もない。
 そして、私はそのレストランのために培養肉を開発している。ドラゴンの肉も、私が作った。結構、拘っていてね、きちんと部位ごとに肉質を変えてある。個人的にはリブロースの部分と尻尾がオススメだ。食べたければ、後で食べさせてあげよう。
 ところで、ここからが大事な話なんだが、私が肉を提供しているのは先ほど話したレストランだけではない。しかし、ファンタジーミートが食べられるレストランは世界中でそこしかない。「レストラン」はね。
 あくなき探究心は時に倫理観を凌駕するようでね、人に似た姿のファンタジーミートを食べたいと望む人たちがいるんだ。ほら、エルフとか、ドワーフとか。
 もちろん表立ってそんなものを商売にしたら大問題になるだろう。だからこうして秘密裏に研究・開発したものが、大金持ちの秘密のパーティで振る舞われている。
 …うむ、どうやら私の話もちゃんと理解できているようだね。形だけでなく知能も再現できたのは大きな成果だ。尖った耳も美しい。
 君にはきっと、高い値がつくぞ。


カバーイラスト:Freepik

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