木造|生産のエコシステム/フィクショナル/空間認識─『新建築』2018年10月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!
(本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです)



評者:連勇太朗×金田泰裕

生産のエコシステムまでを含んだ木造の思考

  木造特集という枠の中で各作品を見てしまうと,どうしても「構法」や「木造にした意味」について注目してしまいがちですが,一方で,木造とは関係のない文脈や建築家の意図も当然重要なわけです.そうした木造であることの必然性と建築作品であることの両面を議論したく,今回は,構造家の金田泰裕さんをお招きしました.
金田さんは建築の自律性や批評性に興味を持たれている稀有な構造家の方だと思っています.


金田  「木」と言っても,「き」,「もく」,「もくしつ」というように,木の特徴をどこに見たかによって,建築家が言葉を使い分けているのが印象的でした.

また規模が大きくなり,W350LOOP50のように大断面で高強度,不燃材料が求められる場面では,ポジティブで環境に優しいイメージを与える「木材利用」という魔法の言葉とは裏腹に,難燃薬剤注入,強度確保のための接着剤やそれなりの鉄骨量を要する鋼製の接合部の使用が余儀なくされ,非常にケミカルでアーティフィシャルなものになっていくことに対して戸惑いを感じました.

挑戦としては面白いし,木の可能性を探るという意味では重要だと思いますが,木をそこまでして使用することに対して,建築家はどう見ているのでしょうか.


連  木を扱う理由のひとつには,たとえばLOOP50が謳う森林資源活用のように建築生産の文脈と結び付いている側面があります.
そういう意味で,木の扱いを考えることは,鉄骨やコンクリートで生産の文脈から弾き出され近視眼的にならざるを得なかった建築家の想像力を,生産のエコシステムまでを含めて包括的に考える機会を再び与えてくれているのではないでしょうか.

それはW350にも秋吉浩気さんのVUILDにも,規模の大小は問わず共通した視点だと思います.
それ自体は素晴らしいことですが,再び従来の産業システムの中で駆動し始めた時,当初の狙いや思想が質的に変化してしまわないか,十分に検討する必要があると思います.金田さんの問いはそうした射程から議論されるべきことかと思います.作品についてはいかがですか?




空間認識と言語化の乖離

金田  まず山王のオフィスは,非常にユニークなプロジェクトですが,最終的にでき上がった建築のあり方と,繰り返される「曲面」という言葉に乖離があるように感じました.

山王のオフィス|栗原健太郎+岩月美穂/studio velocity

設計者・studio velocityの自社オフィス.ラミナ1本ごとの部材長を測り強度試験を行ってデータ化し,梁用集成材のラミナ配列から設計.あらかじめプレテンションによって梁を引っ張りたわませることで,上に人が乗れる曲面を実現した.場所によって天井高の変化するワンルーム,緩やかに周囲からプライバシーが確保された皿のような形状の屋根上空間が生み出されている.

構造は一方向に柱・梁の線的要素により繰り返されており,天井はその線的な構造計画を露出させた凸凹のある面になってますよね.つまり,空間認識と言語化が一致していないように思います.
木造建築では,線材で構成される壁や床・屋根も抽象化して「面」と呼ばれるし,複数の薄く短いラミナを集積してつくられる集成材を無垢材と同様に「線材」として扱うといった,ある種の「虚構」を許容しながら成立しています.
面白い構造計画を見せたいのは分かりますが,天井面を平滑な面として仕上げ,これは「曲面」だと言い切った方がその乖離は生じなかったのではないでしょうか.


  私はその乖離を前向きに受け取りました.
コンクリートによる曲面とは違った力の均衡関係が構法として空間に表出しており,建築に独特の緊張感を与えています.

丘の礼拝堂
富岡商工会議所会館にも感じることですが,抽象空間や図式性の中に,建物の骨格・構造自体が空間そのものの成り立ちを体現している場合に,よい意味でノイズが入り込み,プロジェクトを生き生きとさせているように思いました.特に木造だとそれが顕著です.

丘の礼拝堂|百枝優建築設計事務所

3層の樹状のユニットを積層させた木造礼拝堂.敷地周辺は丘や公園,森林など長閑な自然環境に囲まれている.

たとえば富岡商工会議所会館は,在来に見える外観の印象を裏切るような大きな空間がインナーフレームとアウターフレームというふたつのシステムの重ね合わせでつくられています.

富岡商工会議所会館|
手塚貴晴+手塚由比+矢部啓嗣/手塚建築研究所 
大野博史/オーノJAPAN


道路拡張に伴う旧商工会議所の解体に伴い,富岡製糸場と富岡市役所(『新建築』2018年7月号掲載)の中間に位置する「吉野呉服店」の跡地に新しい商工会議所を建設するプロジェクト.建物を細長い敷地の片方に寄せることで,路地空間をつくり出している.1スパン1.8×1.8mの斜め格子のアウターフレームによりかつての呉服店の建物のボリュームを意識したノコギリ屋根を形成.

もちろんある部分では合理的な判断をしているわけですが,わざわざインナーとアウターというふたつのロジックを重ね合わせるところにこの建築の冗長性と面白みが宿っている気がします.


金田  丘の礼拝堂については,見たことのない面白い構造計画ですが,結婚式場のチャペルという商業用途の建築に,なぜリアルな宗教建築である「木造ゴシック教会」という大きな長崎の歴史を参照したのか,なぜ正方形プランで4面同じファサードなのか,建築の説明をもっと聞きたかったです.




フィクショナルであること

金田  今回,木造特集ということで,編集側からのリクエストもあったと予想できますが,建築家の文章を読んでいると,木を使う合理性や正当性の説明に重点が置かれていますね.さまざまな条件や制約から,木材を使用することになったのは分かりますが,建築家として,計画や空間についての切実な問題に触れているものは少なかったように思います.

そのような意味で,原広司さんのeggg cafeの文章は興味深く読みました.

eggg Cafe|原広司+アトリエ・ファイ建築研究所

東京郊外の幹線道路に面した,奥行約10m,間口約28mの帯状の敷地に建つ飲食店舗.長屋門をモチーフとした薄い平面形を,間に奥行2.5mほどの中庭を挟んで2列並行に配置し,奥の棟の高さをおよそ倍の高さとしている.

木造であることに一切触れず,建築の説明に重きを置いていて,号全体の中で際立って異質でした.
ふたつの写真を繋いだ見開きでは,奥行きのある外部─内部の連続の合間に,ガラスに映りこむ像が重なる細長い劇場のような空間を見せ,平面図では「壁柱」が隠蔽された柱と下地材と構造用合板で構成されていることを告白しています.
それは文中の「フィクショナルであること」を裏付けるための一貫した情報の選択だと読めました.先に私が述べた「虚構」の問題とも繋がり共感できました.


  その意味でいうと垣内さんの伏見稲荷の納戸も異質です.

伏見稲荷の納戸|垣内光司/八百光設計部

伏見稲荷大社近くの敷地に建つ企業の倉庫.千本鳥居を参照した柱間2,730mm,高さ3,385mmのフレームが,910mmピッチで並ぶ.鳥居型フレームは貫工法で地組みし,基礎にアンカーボルトとハイブリッド座金で固定.

宗教/商業,非合理/合理という異なるベクトルを,伏見稲荷の鳥居をモチーフにすることで重ね合わせ,木造であることの正当性と虚構性を同時に扱っている.こういうユーモアのある作品が喚起する想像力を信じたいですね.




CLTの「木架構」

  他に,今年は特にCLTのプロジェクトがいくつか見られましたが,CLTを使うことそのものに新規性は相対的に低くなってきていますが,ボキャブラリーも増えてきて興味深く各作品拝見しました.
たとえば猿楽十方楼は鉄筋コンクリート造で狭小地でつくってきた住宅の発想を,CLTに置き換えてつくっているという印象を受けました.斜めになったスラブはそれを象徴しています.

猿楽十方楼|平井政俊建築設計事務所

都心部のヘタ地に建つCLTを用いた重層長屋の計画.地階に店舗,1階に多世帯住宅のための仕事場,2,3階多世帯住宅からなる.

金田  猿楽十方楼では,CLTを「木架構」と呼んでるのが新鮮でした.
構法や建物の成り立ちを意識した上で,CLTの壁,床をパネル単位の骨組みとして認識している証拠ですね.
CLTで構成された空間は面で認識されるので,「架構」というのは,設計者ならではのワードチョイスだと思いました.




木造であることの必然性と特殊性

  他と方向性は異なりますが,名古屋城天守閣木造復元プロジェクトにとても興味を覚えました.

名古屋城天守閣木造復元プロジェクト|竹中工務店

1612年に完成し,1945年の空襲による焼失後,1959年に鉄筋コンクリートで再建された天守閣を,木造で復元するプロジェクト.宝暦の大修理(1752年)から空襲で焼失するまでを復元の姿とし,現存する資料を元に史実に忠実な木造復元が進められている.建築情報をすべてBIM化.BIMモデルの部材データはNCマシンと連動させた部材加工が予定されている.

文化財としての建築物それ自体がテクノロジーの実験場となっており,BIMや試験技術でできることの可能性をいろいろなかたちで示してくれています.
歴史建造物が,BIMと連動することで,未来に向けてまた別の時間軸を獲得していることや,部材ひとつずつをリアルに近いかたちで検証していくというアプローチなど,実空間と情報空間が連動することで可能になる環境のあり方が示されていると思いました.


金田  海外で構造設計をしていると,日本は木材を構造材として使用できる恵まれた環境であると日々感じます.
中国をはじめとしたアジアでは構造体に使える木材の入手が難しく,またヨーロッパでは構造材としての木を扱える職人が少ないため,木造での計画は非常に難しいです.そういう意味では,日本には,木造を選択することが必然とも言える条件が揃っています.
かしこまらず,他の構造形式と同様に語られてもよいのではないでしょうか.


  もちろんそうなのですが,一方で,木造であることの特殊性についても強調してもよいのではないかと私は思います.
建築作品としての質も変わるでしょうし,冒頭で述べた建築生産までを含めた包括的な思考をもたらしてくれます.冒頭に掲げられている3つのプロジェクトとテキストは,そういう意味で非常に重要な問題提起をしています.
(2018年10月16日,青山ハウスにて 文責:本誌編集部)






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