親に落ち着いてもらう二つのストーリー

塾をしているとき、重視していたのが親との面談。少なくない親が、子どもを牢に閉じ込め、「勉強したの?」「宿題まだじゃないの?」と監視ばかりする牢番のようになっていた。子どもは親の刺すような監視の目ですっかり嫌気をさしており、それが学習意欲をひどく落としていた。

こういう場合、残念ながら、子どもの学習を一番邪魔しているのが親ということになる。けれど親を罵ったり責めたりしても変わらない。むしろ防御的攻撃的になり、事態は悪化する。そこで面談では、二つのストーリーを親御さんに伝えるようにしていた。

①お母さん(のことがほとんどだった)は本当に君のことを思い、心配してくれていることはわかるよね、と子どもに向かって話す。
②いくつかの問いかけから、この子は頭悪くない、むしろ素晴らしい特徴を備えています。だからお母さん、焦らないで見守ってやってください、とお母さんに語りかける。

①は、親の頑張りを認めることに狙いがある。親御さんは、自分が必死になって子どものことをどうにかしようと思っていることを誰かに認めてほしいと願っているところがある。第三者に、それもたくさんの子どもを見てきた塾の先生にそれを認められて、親御さんはちょっと冷静さを取り戻せるようになるらしい。

②は、塾の先生が「この子は頭悪くない、むしろいい」と伝えることで、「え?もしかして私は自分の子どものことを見ていなかった?見えていなかった?」と立ち止まり、子どもを改めて観察する気になってもらうことが狙い。

①と②を組み合わせることで、子どもを落ち着いて観察し、接し方、関係性を見直す気になるゆとりを生むことが狙い。「お母さんは十二分に頑張っています。この子の素質も申し分ない。でも、歯車が噛み合っていない。空回りしている。まずは噛み合う歯車探しから始めましょう」と言うと。

こちらの言葉に耳を傾けてくれる気持ちになってくれる。家でヤイノヤイノと勉強しろ、と言うのを待ってくれるようになる。子どももその空気の変化を感じ、この先生の言うことなら聞いてもいいかな、という気になってくれる。そこから、実際にかみ合う歯車探しがスタートする。

親がガミガミ言う環境では、子どもの学力は上がらない。子どもが学習に能動性を取り戻すには、やかましく言う人がいなくなる事が大切。けれど多くの親は、「子どもが能動的になればこんなやかましいことは言わない」という順番で考えてるから、ニワトリとタマゴ。なかなか改められない。

こういうとき、私のような第三者の関わりが効果を示す。親の頑張りを認め、子どもの基礎能力を認めれば、親は少し落ち着いて見守ろうという心理になれる。塾の先生が「噛み合う歯車探し」をしてくれるというのなら、それが見つかるまではやかましいこと言わずに見守ろう、と思えるようになるらしい。

親が変わると、子どもが変わる。塾で歯車のかみ合う学習法を落ち着いて見つけることができれば、子どもも着実にできることを増やせる実感を味わうことができる。すると学習が楽しくなってくる。子どもの様子の変化に、親御さんも一時的な見守りではなく、感心しながら見守る姿勢が定着していく。

自分の変化に親が驚いてくれるようになったことに気がつくと、子どもも学習の進行具合などを話したくなる。すると親もその変化に驚き、喜ぶ関係性に変わっていく。それらが学習への能動性をさらに高めてくれるらしい。

実は学習そのもの以上に、関係性の改善が大切。親が「牢番」ではなく、「ニコニコと子どもの様子を見守り、その成長に驚き、喜ぶ」存在へと変わってもらうことが大切。それがうまくできると、もう半分以上、子どもの学力が上がることが決まったようなもの。まあ、歯車探しも大事なのだけど、親が牢番のままじゃ話にならない。

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