アメリカはなぜ「世界の警察」をしてきたのか(今なぜやめようとしているのか)

トランプ氏が、金を出さんヨーロッパ(NATO)は守らんと放言している。もしかしたら大統領になるかもしれない人物がそんなことを言い出したから大騒ぎ。
けれど、トランプ氏が示すこの方向にアメリカが進む可能性は小さくないように思う。「世界の警察」であるメリットが失われつつあるから。

なんでアメリカは「世界の警察」を続けてきたのだろう?私の考えでは「ドルと石油」が深く関わっているように思う。これを理解するには、少し古い話に遡らねばならない。
ニクソン大統領が登場する前、ドルは銀行に持って行ったらゴールドと交換してくれる「金兌換紙幣」だった(細かいことは省略)。

ゴールドと交換してくれると思うから、ただの紙切れでしかないドル札をお金と信じてきた。しかしある日、ニクソン大統領はとんでもないことを言い出した。1971年8月15日、ゴールドとの交換をやめると宣言した。これでドル札はただの紙切れになるはず、だった。しかしニクソンにはとんでもない懐刀が。

その人物の名はキッシンジャー。一体どういう手を使ったのか、いつの間にやら、世界中どこに行っても石油はドル札でしか買えない世界に変わってしまっていた。日本のように自国で石油が採れず、海外から買うしかない国は、どうにかドル札を手に入れないと石油が買えないことになってしまった。

日本はテレビや自動車をアメリカに輸出。アメリカはそれらの商品を受け取る代わりに、輪転機を回してドル札を印刷。日本はそのドル札を中東に持って行って、それで石油を売ってもらう。アメリカは、ドル札を印刷するだけで世界中から商品を手に入れられるウハウハ状態。

石油はドルでしか買えない。この構造が、いわばドルを「石油兌換紙幣」に変えた。この実態から「ペトロダラー」とも呼ばれる。
ではなぜ中東やインドネシアなどの石油産出国はドルでしか石油を売らないという仕組みを認めたのだろう?それは、中東に強大なアメリカ軍を置いていたから。

サウジアラビアには、アメリカ軍の基地がいくつもある。この強大な軍事力がにらみをきかせるから、中東の支配者は支配者で居続けられる。中東の支配者にも、「ペトロダラー」のメリットはあったことになる。

アメリカが世界の警察を買って出ていたのは、このペトロダラーの仕組みを維持するためと考えると理解しやすい。
アメリカ軍がにらみをきかせる→石油産出国はドルでしか石油を売らない→石油を買いたい国はアメリカに商品を輸出→アメリカはドル札を印刷するだけで世界の商品が手に入る
という構造。

しかしこのペトロダラーの構造にヒビを入れる人物が現れた。イラクのフセイン大統領。ドル札以外でも石油を売るなんて言い出した。
このままでは「ドルでしか石油が買えない」という、ドルによる世界支配の構造が崩れてしまう。やがてイラクは攻められ、フセイン大統領は死亡。

これでペトロダラーの構造は安泰かと思いきや、クウェートなどいろんな石油産出国がドル以外でも石油を売るようになった。ロシアも。ペトロダラーによる世界支配の構造は崩れ始めてきた。こうなると、ペトロダラーの構造を維持するための「世界の警察」をやるのはアホらしくなる。

アメリカが「世界の警察」をやめたがっているのは、「石油兌換紙幣」としてのドル、つまりペトロダラーの構造をもはや維持できなくなり、続ける理由が失われつつあるからだ、と考えると、理解しやすいように思う。

アメリカの本音は「いかに格好よく『世界の警察』の立場から身を引くか」に意識が移っているように思う。オバマ氏が大統領だった時代も、いかにして「世界の警察」から手を引くか、試行錯誤していたと思うと、あの頃の動きを理解しやすくなる。

その流れから考えると、トランプ氏の登場は意外とタイミングがよい。ガラッパチな口ぶりで「アメリカ様はもう守らんぞ!」と言い放つほうが、一気に「世界の警察」から手を引く口実を作りやすい。その点を、アメリカの指導層(エスタブリッシュメント)も考え始めたのでは。

たとえ「世界の警察」から身を引けなくなるとしても、ヨーロッパ各国に軍事費を膨らませ、アメリカの兵器を買わせることができるなら、損はなくなる。トランプ氏は、そうしたことを見透かした上でああした発言をしている可能性があるように思う。

トランプ氏の登場は、ペトロダラーの構造が維持できなくなり、だから世界の警察を続ける意義も失われつつある中で、少々乱暴な手を使ってでもアメリカにメリットのある落とし所を探ろうという指導層達の思惑も重なっていると見てよいのでは。

ペトロダラーの仕組みが崩れつつある今、アメリカに「世界の警察」で居続けてもらおうとするなら、軍事費を膨張させてアメリカから兵器を買うしかない、という「新秩序」に向かって世界が動いている、と見ると、理解しやすくなるのではないか。

トランプ氏は独特のカンのよさがある。世界秩序は、きな臭い形で再構築を目指しているような気がしてならない。

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