赤の他人の第三者による子育てアシスト

関係性から考えるものの見方(社会構成主義)第5弾。
コロナ前の話だけど。電車の中で子どもが大騒ぎ。車内は疲れ切った男性サラリーマンが大半で、静かにさせろよ、という無言だけど険悪な空気が。それがわかるお母さんは必死に「シーッ!静かに!」と止めるけど、子どもは聞いちゃいない。

このままだと怒鳴りつける男性が出てきかねないな、と思い、私は席を立ってその子どもの目線の高さにしゃがみ、次のように子どもに直接声をかけた。「お楽しみのところゴメンな。この電車、疲れたオジサンがたくさん乗っててな。少しでも寝たいねん。静かにしてくれるか?」と頼んだ。

よその大人から注意されたことが初めてらしいその子はびっくりしながらも、うなづいてくれた。その後、ピタッと静かになった。下車する前、その子のそばに行き「よう静かにしてくれたな。ありがとう」と言うと、また子どもはビックリしつつも会釈してくれた。その隣のお母さんも会釈してくれた。

なぜ子どもは当初、お母さんの静止を聞かずに騒いでいたのだろうか?それは電車にいる大人たちが「背景」になっていたからだろう。決して自分に介入してこない他人。
そして背景化していた大人たちは、介入しない代わりに「子どもを静かにさせるのは親の仕事」と、無言の圧力。

しかし「背景」でしかないものを子どもが恐がるはずがない。背景から人間が飛び出してきたことがないのだから、お母さんがいくら「ご迷惑でしょ!」と注意しても「背景」が人間だとは思えない。だから文字通り傍若無人(傍らに人がいないかのよう)になってしまうのだろう。

だから私は、「背景から人間が出てくるはずがない」という「関係性」から、人間が飛び出てきて直接話しかけてくることもあるんだよ、という「関係性」にシフトさせた。子どもにしたら起きるはずのないことが起きてるので、すでにビックリ。だから脅す必要はない。人間として頼めば十分。

背景だと思っていた車内空間には人間が充満している。そのことに気がついた子どもはきっと、以後はお母さんの静止が効果を示すことになると思う。子どもも人間の息遣いを「背景」だったはずの車内から聞き取ることができるようになるだろうから。

このエピソードは以前にもツイッターで紹介して、かなりバズった。それを見た知人女性が相談。車内で騒ぐ子どもを抱えたお母さんが困り果てているのをよく見る、自分も子どもを持つ母親として何かできることはないだろうか、という内容。私はなんて素晴らしい、と思った。
https://grapee.jp/716683

後日、その女性から「こんなふうにやってみた」と報告してくれた。タダをこねて大騒ぎの男の子がいて、お母さんはなんとか静かにさせようとするのだけど、子どもは聞いちゃいない。そこで知人女性、その幼児に変顔して見せた。すると人見知りの強い時期なのか、お母さんの後ろに隠れて静かに。

女性はそのお母さんに近づき、「元気なお子さんですね。何歳ですか?うちにも同じ年頃の男の子がいて」と話しかけると、お母さんもホッとした様子で、しばらくお話できたという。そのとたん、車内のトゲトゲしい空気が、ホンワカした優しい空気に変わったのを感じたという。

これも「関係性」をうまくデザインした好例だと思う。騒ぐ子どもを抱えるお母さんも孤独に苦しんでいる。トゲトゲしい空気に苛まれ、だけどそれをかばってくれる存在もない孤立。子どもを静かにさせるのは母親の役目、というしつけの責任だけを押しつけられる空気で、孤独感を強めている。

そこで女性は「背景」から人間として飛び出し、子どもに「人間がいるんだよ」と気づいてもらうと同時に、女性にも声をかけ、ともに子育てに苦労する人間がここにもいるよ、と共感を示すことで、母親が孤立せざるを得ない関係性から、仲間がいるよ、という関係性にシフト。

すると、車内も「子育て大変だよね」という空気に。女性が思い切って介入することで、車内のトゲトゲしい空気が融和的な、優しいものに変わったのだろう。

乗客が決して介入してこない「背景」にとどまる限り、母親には無言のプレッシャーがかかり、しかし背景など恐れるはずもない子どもは騒ぎ続ける、という「関係性」は崩れない。そこにほんの少し、赤の他人である第三者が、母子を変に恐がらせない程度に介入するだけで関係性(空気)がガラリと変わる。

母親はそうでなくても子育てにいろんな気遣いをしている。ほんの少しのアシストを。赤の他人の、第三者による子育てアシストがあると、途端に子育てはラクになる面がある。関係性をガラリと改善できるのは、赤の他人の自分にしかできなかったりする。

そして願わくば。子供が少々騒いでも、それをにこやかに、微笑ましく見ていられる空間を増やしたい。そうした空気に社会を持っていける「関係性のデザイン」はどうしたら可能か。一緒に考えて頂きたい。

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