アメリカの有名大学がなぜ分断の原因になるのか

ピケティ氏やマイケル・サンデル氏らがそろって疑問を呈していたのは、有名大学(ハーバード大やスタンフォード大など)が果たして成績だけで学生を合格させてるのか、という点。これら有名大学に進学するには、多額の授業料を払わねばならないし、寄付額も大きい。

二人は「寄付が決め手じゃないの?」と疑っている。それでも有名大が有名であり続けてるのは、ノーベル賞とりそうな研究者を大学教授に呼ぶこと、そして海外から優秀な学生をかき集めていること。金持ちの納める寄付金で潤沢な資金を持ち、優秀な学生に奨学金を与える。

すると、移民の学生はアメリカで成功をおさめようと必死になって学ぶ。これらの学生は本当に優秀。多額の寄付を納めて入学した学生は、彼らと同級生になることで、一種の学歴ロンダリングが可能。また、移民学生にもメリット。お金持ちの同級生から将来、起業した時に投資してもらえるかも。

有名大学はお金持ちの子弟と、貧しいが超優秀な移民学生をマッチングさせる場として機能していた可能性がある。お金持ちの子弟は、努力家の移民学生と同級生であることで、自分も優秀であるかのように装うことができ、貧しい移民学生は、お金持ちの同級生から資金援助を見込める。ウィンウィン。

こう見れば実に巧みな仕組みなわけだけれど、このとき、置いてけぼりを喰らう人たちが出る。貧しいアメリカ人。貧困米人は多額の寄付など無理だし、授業料も高額すぎて払えない。有名大学に貧困米人が入学するには、突き抜けた成績でもないとダメ(お金持ちは別の可能性)。

有名大学を出た移民学生はIT企業を起業し、彼らに投資したお金持ちの同級生とともに大金持ちに。しかし有名大学に入学できない貧困米人は、その仕組みの中に入ることができない。そして単純労働につくしかない。それは低賃金。

有名大学出身者はこうしてお金持ちとなり、自分たちの子どもを有名大学に入学させようとする。多額の寄付をして。そして優秀な移民学生の力を借りてハイソな地位を得る。アメリカの上流階級(エスタブリッシュメント)は、こうして形成された可能性がある。

アメリカのラストベルト(錆びた地域)に住む貧しいアメリカ人が、ITなどで大金持ちになる連中に怒りを覚えているのは、この構造があるから。この構造に乗っかるには、お金持ちか超優秀な成績かが必要。お金持ちの子弟はお金があるから大丈夫(な可能性)。でも、貧しいアメリカ人は、わずかな例外を除けば不可能。

豊かな者はますます豊かに、貧しい者はごくわずかな超優秀な人間以外は貧困から抜け出せない。この固定された構造、お金持ちがお金持ちで居続けられて、しかも優秀なフリができる構造に、ピケティ氏もサンデル氏も懸念を示している。

貧しかったら貧しさから抜け出すのはほぼ無理な構造。これに対し、「許せない」と考えた人たちが、トランプ氏に投票した。それまで、自分たちは優秀だから、努力したからお金持ちなのだ、と思ってる人たちの鼻を明かしたい、という思いが、トランプ氏を大統領に押し上げたのだと言えるように思う。

実は、この構造を日本に移植しようとしたのが安倍政権。安倍元首相が政権にある時、国立大学の授業料を90万円以上にする計画が示されていた。理由は「私立大学の授業料に合わせる」。もしこれが実施に移されていたら、アメリカと似た状況が生まれていたかもしれない。

90万以上もの授業料を払える家庭は少ない。大学生になれるのはお金持ちの子弟に限られることになる。お金持ちだけが大学生になることで、お金持ちは成績優秀なフリができる。貧しい人間は大学に入れず、「努力しなかったからだ」とみなされる恐れがあった。

授業料をバカ高くすることで、事実上、お金持ちしか進学できないようにし、学歴を基準とした貴族を作ろうとしていた様子。しかし実態は、学力ではなくお金の力。お金の力で学歴を粉飾するシステムにしようと企んでいたらしい。

スタンフォード大はもともと、授業料が無料であったようだ。創立資金を出した老夫婦が、優秀な若者に学ぶチャンスを与えたくて。しかし創立の精神は失われ、お金持ちしか進学できないことになってるのなら、創立者は悲しむことにるだろう。

お金持ちによる学歴粉飾システムは、高額の授業料によって駆動している。これを改めないと、アメリカの分断はなかなか修復できないだろう。貧しくても入学前できるシステムに変えることができるか。アメリカも問題山積だなあ、と思う。

そして日本も、学費が高い問題をなんとかしないと、将来、トランプ氏のように不満を吸収してのし上がる権力者が現れないとも限らない。その時、富裕層は目の敵になる恐れがある(アメリカのトランプ氏の場合、トランプ氏自身が金持ちだから話が違うが)。

まあ、日本は学歴があってもどうにもならない社会になりつつある点がアメリカと違うところなのかもしれないが。
いずれにしろ、学費が高いというのは分断の原因になりやすい。要注意。

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