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山に境界線はあるのか #15

志高く有機栽培で蔵王かぼちゃを生産することを決めた私。そのために、今年は畑の土づくりをしようと連日日が暮れるまで作業をしていたある日のこと。暗くなってきて視界がだいぶ悪くなってきたのでそろそろ帰ろうかと畑を出た瞬間、何かただならぬ気配を感じました。

・・・イノシシだ。

数十メートル離れた草むらから、体長1m50cmはあろうかという3頭のイノシシが、そろって私の方を見ていたのです。突然の遭遇に私はたじろいでしまったのですが、数秒間お互い動かず見つめ合ったのち、イノシシたちが草むらの奥の方へと逃げていってくれました。

一瞬にして変な汗が出ましたし、命拾いした思いでした。イノシシがいきなり襲いかかってくることはあまりないのかもしれませんが、ビビリな私は突然からだの大きなイノシシに、しかも3頭同時に出くわしたことで命の危険を感じる経験でした。

というわけで、私が蔵王かぼちゃを栽培するにあたって向き合わなければならない事の一つが、この野生の獣たちによる獣害問題なのです。

命の危険もそうなのですが、このnoteでも何度かお話させていただいているように、いま中山間地域ちゅうさんかんちいきの農村ではこの獣たちが農作物を食い荒らす被害が重大な問題となっています。

獣に食われたかぼちゃ

私が就農を予定している蔵王地区では、特にクマ、イノシシ、そしてサルによる被害が深刻化しています。作物を植えて早々にイタズラされてダメになるケースもありますが、よく聞くのは、しっかりと成長してもう明日には収穫できると思っていた矢先、朝畑に行ったら全部食い荒らされていたというパターンです。

長い時間をかけて我が子のように作物を育ててきたにも関わらず、それらを一夜にして全部台無しにされてしまう。被害に遭われた農家の方は泣くにも泣けず、はらわたが煮えくり返る思いでいらっしゃることと思います。しかし、こうなってしまっては泣き寝入りするだけで、どうすることもできません。

では、どうしたらこの獣害問題を食い止めることができるのでしょうか。

私なりに考えると、対応としては3種類あると思います。それは『駆除』『防護』『予防』です。

『駆除』は猟銃やワナで害獣を捉えて、個体数を減らす方法です。これは物理的に数を減らすことができるので一瞬効果はあるのでしょうが、害獣を全て捕獲することは不可能ですし、個体数は見えないところでどんどん増えているので、獣害被害の根本的な問題解決にはなりません。

駆除されたイノシシを解体し食肉に

また『防護』は、電気柵や獣たちが嫌う匂いによって農地を囲い守る方法です。これも一定の効果があるようですが、実際に使用されている農家の方にお話を伺うと「電気柵を設置しても取り付け方法を間違えると簡単に柵の中に入られてしまうし、匂いは慣れてくると意味がない」ということでした。ですので、これも根本的な問題解決にはなりません。

畑に沿うように設置されている電気柵

そこで上記の2つにも取り組みつつ、大事になってくるのが『予防』だと感じています。対策としてはいくつかあると思いますが、私が考えるポイントはこちら。

・獣のエサになるようなものは山に残さない
・獣が隠れられそうな茂みを作らない

そもそも、なぜ近年中山間地域を中心に害獣による被害が増えているのでしょうか。地域の農家の方に聞けば、20年前には獣害被害はなかったそうです。では、この20年で何が変わり、山はどうなっているのでしょうか。

ここでキーになってくるのは、高齢化による農家の減少です。これまで人が管理していた田んぼや畑、樹園地が離農により管理されず耕作放棄地になってしまうケースが増えています。すると、管理されなくなった田んぼや畑には刈り取られることがない雑草が茂り、終いには木々が生えてきて鬱蒼とした状態になってしまいます。

また樹園地に関しては、木なので人が手入れしなくても毎年それなりの実はなります。すると、それらは獣たちの格好のエサとなり食べられてしまうのです。しかも、人がやってくることはないので、安全なエサ場として。

よって、獣たちはこの20年で段々と山から人里近くの農地の方まで降りて来て、生活圏を拡大していったということが考えられます。そうであるならば、畑に獣たちのエサになるような野菜のゴミなどを残さないというのは当たり前ですが、それと併せてエサになるような木々を管理すること。そして、獣たちが安心して隠れられそうな茂みを作らないよう管理すること。前述したこの2つが大事なのではないかと考えています。

つまり、獣たちを退治するのではなく、どう共存してゆけるのかを考える。人が努力する方向は、そちらなのではないかと私は思います。

そして、中山間地域においてこれらのことを考えていくと見えてきたのが、田んぼや畑、樹園地だけではなく、山そのものが荒れ始めているということでした。これまで人の手で間伐や枝打ちなどの管理をされていた杉の人工林や雑木林は、手入れされなくなったことで木々や枝葉が生い茂り、獣たちの格好の住処となっています。

畑の真横に広がる鬱蒼とした森

これは農家が高齢化で減少しているのと同じように、林業を営む林家も減ってきていることに起因していると思います。そもそも農家が冬仕事として林業をやっていたというケースもあるかもしれません。

とにかく、私は中山間地域で農作物を栽培するためには農地のことだけではなく、その農地を取り巻く近隣の山々についても、一緒に考え管理していかなければならないのだと思うようになりました。

農地を管理するのと同じように、暗く陽の当たらない山では木々を間伐し、獣たちが隠れられない開けた森をつくる。こういった地道な環境づくりの先に、美味しい蔵王かぼちゃの収穫が待っていると私は思うのです。

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