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最近読んだ本

おいしい水 原田マハ
原田マハさんの作品は芸術と絡み合っていて、単調な言葉にはなってしまうけど美しいなぁと思う。出てくる写真家の名前にAgua de beber 物語の世界が閉じてもなお、今生きている現実に延長線上に感じる。やわらかく湿っぽいおいしい水の味のキスが忘れられない。

逃げ道 フランソワーズ・サガン
恋愛小説ではないサガンの小説。おっとりとしているリュース。美男子で我儘なブリュノー。社交界でしたたかに生きる女性ディアンヌ。外務省勤めのロイ。戦時中にパリからの脱出を試みる四人。銃撃により運転手を失い、田舎の農家の家に転がり込む。庶民の暮らしを楽しむ者、到底受け入れられない者。四人が農家にいる状況のチグハグさがいささか滑稽でもある。刈り入れも終わり、男手も帰ってくるので四人はようやく車を借りることができ、帰ろうとするが、銃撃の雨が降る。
最後の数ページの物語の流れは突然カーブをまがるようにハンドルが切られた。驚き、悲しむ間もないほどに。

「悲しみや涙のためには、人は、その死者の物語を知らなくてはならない。その背景を、細部を、知らなくてはならない。一方喜びや幸福は、そうしたものを要求しはしない。それらは曖昧なままで、充分に、満足している。」

逃げ道 フランソワーズ・サガン作 河野万里子=訳

この文章を見てすごく腑に落ちた心地がする。確かに死者の物語をよく知らなければ悲しむことや涙にくれることもないなと。喜びや幸福は表面が好まれ裏側は気にされないイメージ。


お心遣いありがとうございます。 ゆるりと書き、言葉の温かみを学んでおります。