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太宰治「女生徒」

大学生の頃、太宰の小説が苦手というか、
途中で読んで苦しくなった記憶がありました。
読んだ後の後味も、読み途中も気持ちが塞がる。
「人間失格」も辛うじて、最後まで読むことができたような気がします。

けれど、社会人になり、
自分がそこまで精神的に強くはないと、
自分の弱さを段々認めることができるようになってから、
太宰治の小説が不思議なほど、心に沁みました。
それは共感できる部分も増えたというのもそうですが、
やはり一番は、
人の心の中の翳は苦しいし、冷たいし、触れる機会がないならば、
ないに越したことはないし、
自分の翳もなければ、もっと自分はポジティブな人間なのでしょうが、
そんな無理をしなくても、弱さを認めていいのだと、そんな風に思える小説だからだと思います。

そして太宰治の作品の中で度々見られる女性の心理描写の巧みさには、
溜息が出るほど。
太宰治はモテたというのも納得のいくものです。
今回読んだ「女生徒」もその太宰の女性の心理描写の上手さが際立っている、特に思春期の頃の少女の気持ちが、どうしてここまで太宰には分かるのだろうと不思議にさえ思う作品でした。

思春期の頃、周囲と比べて特段浮いているわけでもないけれど、
なにかが不安で、
でもなにが不安か分からなくて、周りの目を気にしている自分がいました。
この中の主人公みたいに、見るものに対してしょっちゅう、おっかなびっくりになったり、
いらいらとしたりするといったことはありませんでしたが、
ありのままの自分を肯定するのは難しかったです。

あの子の方がきれいだ、頭がいい、絵がうまい、歌がうまい、会話がうまい、人付き合いがうまい。
どの点を取っても、自信を持てない少女時代の中の、翳。
みんな時間が過ぎれば、いつの間にか忘れてしまうあの頃の不安定さ。
人は人、自分は自分といっても、なんだかんだ比べてしまう矛盾。
太宰はそれらを描いて、「ああ、懐かしいこの感情」と読み手に思い出させてくれる。

もっと早くから太宰の作品に出会いたかったと思う一方で、
今のわたしだからこそ、
太宰の作品を読みたいと思うのかもしれません。

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