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S市の未来 【詩/ショートストーリー】

その昔
S市の勢力は
駅周辺に縮こまっていたが
いまではゴムのように伸び広がっている

その伸び切ったゴムの先っぽに
デトックス効果を喧伝する
地域唯一の温泉
僕は毎日
毒を吐きにいった
工場で吸い込んだ
カドニウムやアスベストが
出口を求めて暴れていた

(次郎ラーメンが天高く聳えている
 大丈夫だ
 食欲はたっぷりある)

中央植物園に
100年に一度だけ咲く
幻の花
市の予算の大半が注ぎ込まれているという

(単なる噂だが)

隣市ではチューリップ栽培も盛んだ

(ここのラーメンは脂ぎっている
 この脂がミソなのだ
 三日食べないと胸騒ぎがはじまる)

キラキラのコンパクトシティーを目指し
路面電車を復活させた
市長の顔が
街中に貼りつき
原野の彼方で気炎をあげている
巨大スーパー

(初めての店はドキドキする
 イチカバチカで突撃する
 客の口から糸ミミズが流れている)

100年に一度だけ咲く幻の花に
市民は列をなし
そのあまりな可憐さに絶望し
ハートを撃ち抜かれ
毎年の住民税の額を計算しながら
焦点のない眼球を空に向けている

(数字には置き換えられない価値が
 この一杯にはある
 ぜったいにある)

市役所の地下から出る石油は
嫌なにおいを発している
だけど僕らは
S市の未来に希望を持っている
この地方小都市の未来に

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