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夜から来るキカイ 【詩/現代詩】

いつの頃からか
毎夜のように
訪れるようになった
あの方が
カシャカシャと音を立てて
月のない夜になると
長い砂浜を這って
砂まみれになって
真っ暗な方から
海の方向から
見えない波音が
少しずつ輪郭をあらわし
月のように冷たく
だんだん数が増えて
コールタールのように
黒い水のように
わたしの眠る方へ
眠りかけの小屋の方へ
カシャカシャと音を立てて
壊れかけた機械の音
それは毎夜のように
カマキリに似たかたちの
6本脚の影
コールタールのにおい
わたしの眠る部屋に
静かに忍び入り
6本の脚の影が
砂の音をさせて
カシャカシャと音をさせて
波が寄せる
波がかえす
寄せては返し
離れては近づき
近づいては離れ
歯車の軋む音が
部屋の中に拡がり
カマキリの脚が
わたしに絡みついて
モーターのように
カシャカシャと音を立てて

私は蝕まれていく
(カシャカシャカシャ)
私は蝕まれていく
(カシャカシャカシャ)
私は蝕まれていく
(カシャカシャカシャ)

私はキカイ
(カキカキカキ)
私はキカイ
(カキカキカキ)
ワタシハキカイ
ワタシハキカイ

あの方の脚が
わたしの喉に入ってきて
喉深くに入ってきて
わたしの内側が
キリキリと鳴って
カシャカシャと音を立てて
コールタールのにおいが
からだじゅうに
コールタールのにおいで
ひろがっていき
わたしの血は黒い
わたしの血は冷たい
コールタールのからだで
わたしの眼が
時空の残像を
あの方の眼が
わたしの残像を
蝕まれていく
壊れていく
わたしは組み立てられていく
あの方は組み換えられていく
わたしはキカイになる
ワタシハキカイニナル
あの方がわたしになる
わたしたちは未知のものになる

(2024.3.26 修正)

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