倫理の断崖 【詩/現代詩】
隕石の
落ちる音が聞こえた
そこいら中の岩が顔に見える
風に削られていく
鼻や喉や
乾いた髪
(耳を近づけてみる)
土のような身体
水のような鼓動
風のような記憶
火のような思考
斜面を滑り落ちていく夢をみていた
(電話が鳴っている)
オフィスビルの五階にただよう
午後のひかり
ディスプレイのうえを
見たこともない記号が流れている
(電話が鳴っていた)
昇降機に絡まっている
鎖
ドアの向こうのドア
斜めになった金魚鉢
壁に張りついた歴代の剥製
(まだ気づかれていない)
(きっとバレないよ)
彼女たちは谷底にいた
風が集まっている場所
重力の集まる場所
(ユニットバスに浮いている白い顔)
思い出したように沢音が聞こえる
青緑色の風が吹いていた
そこいら中の顔が通貨に見える
宙吊りにされたピッケル
断崖は頂上までつづいている
(コンプライアンス室の
斜め後ろから
凍りついた顔が覗いている)
急に谷底から風が吹き上がる
空気清浄機が振動する
(何に怯えているの?)
(三本脚の豚に見られている)
(給湯室から甘いにおいがします)
思い出したように沢音が聞こえた
秘書室の電話が鳴っている
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