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【医師のイギリス公衆衛生大学院留学】Term1の記録①

はじめに

10月から始まったImperial College London MSc EpidemiologyのTerm1がようやく終わりました。実際は12月中旬に授業自体は終わり、Christmas Breakに入っていたわけですが、とんでもない量の課題と休み明けの試験があったので、最後の試験を終えてようやくTerm1終了という気分です。
コースの公式HP上には実際の課題がどんな感じかなどは全く記載がないので、今後進学を検討される方がいた時のために記録を残しておきます。Term1半ばでの記録はこちらの記事をご参照ください。


Introduction to Statistical Thinking and Data Analysis

毎週月曜は統計の基礎のモジュールでした。結局10週間で授業としては、Linear Regression、Logistic Regression、Poisson Regression、Survival Analysisなどと関連した検定などは一通り学習して、実際にRで解析をできるようになりました。最終評定に響く課題としては以下の3点が課せられました。課題のパーセンテージは、モジュールとしての評価全体に対して占める割合です。

グループ課題 (3%*3回)

毎週月曜午後の実習は3週間サイクルで合計3種類のグループ課題が出され、それぞれアウトカムがcontinuousの場合、アウトカムがcategoricalの場合、生存時間解析の3つがテーマとして扱われました。毎回1周目にデータセットと課題文が公開されて解析計画を立てる、2週目に解析する、3週目にプレゼンという流れでした。たとえば3週目は乳癌に関連した研究のデータセットがcsvで配られ、治療(化学療法・ホルモン療法・手術・放射線療法など)の効果、ホルモンレセプターの有無による予後の違いなどをおもに生存時間解析の手法を用いて解析して報告しました。
実習の時間は毎週3時間くらいなので、各自家に持ち帰り適宜グループで相談しながらプレゼンの準備をするという流れでした。私のグループの中で医学系のバックグラウンドがあるのは自分だけだったので、大体毎回のテーマにおけるBackgroundの調査やDiscussionやImplication to public health policy、Future Researchのような箇所は自分が担当することが多かったです。メンバーの中には学部の専攻が統計だったというような子たちがいたのでグループとしての解析はお任せしつつ、自分も議論に置いていかれないように個人でデータを触って解析の勉強をしていました。
正直自分にとっては当初、統計初心者、Rも初心者、もちろん全部英語での議論という非常に辛い実習だったのですが、グループメンバーの人となりが何となくわかってきた中盤以降はだいぶやりやすくなりました。統計やコーディングの知識もスキルも完全に他のメンバーの方が上だったにも関わらず、ちょっと医学知識があるだけで"It's good to have a doctor!"などと喜んでもらえたのが嬉しかったです。優秀なグループメンバーたちのおかげで、3つの課題はどれも90%前後の評価をもらうことができました。しかしこの90%はモジュール全体の評価の中のたった3%中の90%なので、苦労に見合わないなと多くのクラスメートたちが愚痴っていました。

個人エッセイ:Applied Mini-Project(45%)

こちらもcsvファイルのデータセットと詳細なInstructionsが配布されて、各自Rで解析をした後に、Academic Paperのスタイルで2500 wordsの報告書としてまとめて提出せよというものでした。データセットは糖尿病治療薬のSGLT-2 inhibitorsを心筋梗塞罹患後の患者に心保護目的に使用したRCTのものでした。解析の方針は
大まかにはInstructionsとして提示されていて、大きく3つのAimsに関して報告せよというものでした。具体的には、1)Trialの中間報告段階でのSGLT2 inhibitorsの内服アドヒアランスに影響を与えた因子は何か、2)SGLT2 inhibitorsの内服は心筋梗塞再発の予防に効果があったか、3)SGLT2 inhibitorsは血圧低下に効果があったか、の3点でした。サブグループ解析として盛り込むべき内容も明示されていました。
この課題は誰とも相談せずに個人でやるようにと明確に指示が出ましたが、実際のところはクラスメートたちはお互い相談し合ってやってる人が多かったようです。私は仲の良い子と、キーとなる値(主解析のハザード比や、log-rank testのp値とか)が同じであることを確認して大きな方針が間違っていないことを確認したり、報告書の図表に何を載せるのかなどは相談させてもらいながら進めました。
12月15日リリース、1月6日提出締め切りの課題で、後述のEpidemiologyのモジュールの課題が1月2日にリリースされる予定だったので、冬休みの前半はほぼこの課題ばかりやっていました。提出はしたものの結果はまだ不明です…。さすがに6-7割らいはとれている内容のものを仕上げたと思っていますが、後述の感染症数理モデルのエッセイで大ゴケした経験があるので自分を信じられない気持ちも多少はあります。

筆記試験(45%)

Term1の10週間の授業を総ざらいする筆記試験が休み明けの1月8日にありました。この試験はopen book、すなわち各自でまとめたノートや授業スライドは参照して良いというものでした。2時間の試験で、問題数は20問くらいが多肢選択式、20問くらいが簡単な解答をフリーコメントで記載するようなものでした。Codingの知識は問われないものの、Rでアウトプットされる結果を解釈せよというような問題は沢山でました。授業スライドをちゃんと理解していれば、上記のグループ課題やエッセイでだいぶ鍛えられた後なのでそんなに難しくは感じない試験だったかと思います。勉強の参考になるようにと、Mock Examが冬休み前に公開されて、重要コンセプトに関してはそれに沿って勉強すれば良いようになっていました。こちらも試験結果は現時点で未着です。

モジュールの感想

統計のバックグラウンドのない自分にとっては、非常にインテンシブでものすごく大変なモジュールでした。上記評価される課題に加えて、毎週大量の宿題も出ていましたし、Pre-readingの量もえげつなかったです。Rに関してはData Campで各自勉強しておいてね、というスタイルでしたが、正直Data Campでお勉強している時間は全然なかったので、上記の課題や毎週の宿題で習うより慣れろスタイルで身につけていった感があります。
ただ少なくとも4ヶ月前にはたいへんフワッとしていた統計の知識はかなり堅実なものになったと思うし、Rでのcodingにも随分と慣れました。日本で医者をやりながら、臨床研究をやるたびに必要に迫られて勉強した統計の知識がいかに浅いものだったかを認識しました。今後ある程度の解析は自分だけで出来そうだし、生物統計の先生方とも今までより的を得た会話ができるようになっているのではないかと思います。

Principles and Methods of Epidemiology

火曜の疫学のベーシックなコンセプトを学ぶモジュールでした。10週間の授業では、各種研究デザインの詳細、バイアス・交絡・因果関係などに関して学習しました。ライブ授業に先立って結構な量のオンライン学習が課せられて、ライブ授業当日はその週のテーマにおいて理解しづらいところを中心に解説されるというような感じでした。授業はかなりインタラクティブで、クラスメートたちもガンガン質問するし意見を言っていました。課題は以下の評価されるものに加えて、毎週宿題が出て、ライブ授業前に小グループでのチュートリアルでディスカッションして理解を深めました。最終評定に響く課題としては以下の2点が課せられました。

筆記試験(35%)

モジュール全体の半分が終わったタイミングでそれまでの授業内容の理解度をはかるための試験がありました。5週目までに疫学研究の主要な研究デザインとその詳細に関する授業を終えていたので、内容はおもに研究デザインに関するものでした。2*2表を描いてOdds Ratioを計算するようなスタンダードなものや、リサーチクエスチョンが書かれていてどの研究デザインが良いか選ぶ、というような内容などが多かった印象です。正解すると加点されるのは当然ですが、間違えたらその分減点されるという方式でした。こちらでは時々あるスタイルみたいです。
PCを使った多肢選択式の試験だったので、試験後1週間くらいで結果は判明し、自分は87%でした。このモジュールはMSc Epidemiologyだけでなく、MPH、MSc Health Data Analysisの3コース合同のモジュールだったのですが、各コース内で最高得点者はみんなの前で名前が呼ばれてボードゲームをプレゼントされていました。ちなみに自分ではありません。

Written Examination / Paper Critique (65%)

すでにpublishされた指定の論文を批判的吟味せよ、という1500 wordsのエッセイ課題でした。論文をポイっと渡されるわけではなく、評価すべき事項に関してかなり細かく指示が出て、それに即して書いていくとある程度文字数は埋まるような感じでした。指定された論文はUsual Cruciferous Vegetable Consumption and Ovarian Cancer: A Case-Control Studyというpaperで、読めば読むほどツッコミどころ満載な内容で、なぜこの論文を課題にしたんだろう…と思いながらまとめました。この課題も誰にも相談せずに自分1人でやってねというものでしたが、クラスメートたちは沢山相談し合って進めていたようです。この課題は1月2日に指定論文のリリース、1月5日提出締め切り、という鬼のスケジュールでした。内容自体は難解なものではなかったので1日目に読んでドラフト作成、2日目に完成という流れで出来ましたが、クリスマス休み前に他の課題と一緒に出してくれてもよかったのになと思いました。提出までに3日しかないのもちょっと意図がわかりませんでした。

モジュールの感想

自分にとっては最初から最後までほとんどは復習という感じの内容でしたが、疫学を勉強したことがない他のクラスメートたちは各研究デザインの細かい違いなどに結構苦労していたようです。自分もNested case-cohort studyやNested case-control studyなどちゃんと勉強したことがなかったので知識が増えました。課題のPaper Critiqueは過去に論文査読経験が何度かあるので余裕と思っていましたが、Peer reviewの仕方を体系的に教わったり勉強したことはなかったので、そういう意味では大変勉強になりました。ちょっとエッセイ課題に対する苦手意識が強いので、Paper Critiqueが65%も占めていることが不安でしかないですが、おそらくモジュールとしてはちゃんと合格していると思います。

終わりに

ひとまず4つのモジュールのうちの2つについて振り返ってみました。Term1の記録②という記事で、残りの2つのモジュールの振り返りをしたいと思います。


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