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地球建築家vol.9 堀部安嗣 Ⅰ

堀部安嗣は私が最も影響を受けた建築家である。

堀部安嗣の建築に感化された。

堀部安嗣建築設計事務所に入りたかった。

堀部安嗣に手紙を書いた。

「とにかくあなたのところで働かせてください」

一ヶ月ほどたっても返事がこなかった。

もう一通書いた。

すると、返事が来た。「一週間程度のオープンデスクなら相談に乗れるかもしれません」という返事だった。

「相談に乗れるかもしれません」ということは、オープンデスクも相談してみないと出来るかどうかわからないということだ。

オープンデスクとは建築業界用語で「ただ働き」のことである。

もちろん私はそんなことおかまいなしに、嬉々として東京に向かった。面接の結果、一週間オープンデスクに来ていいというお返事を頂いた。

東京から遠く離れた九州の、どこの馬の骨ともわからない若造を、よく受け入れて下さったと思う。本当に心から感謝している。

オープンデスクではひたすら模型を作っていた。憧れの設計事務所の模型を作れるというだけで興奮した。とにかく目の前の模型のこと以外はなにも考えずに集中して作り続けた。

とても嬉しいことに、所員の方から模型を褒めて頂いた。

その後も、専門学校の長期休暇を利用して堀部事務所で働かせて頂き、アピールを続けたが、そのとき所員を新たに入れる予定はなかった。私は諦めて泣く泣く自宅へと戻った。

しかし私は諦めることが出来なかった。

堀部事務所に突然お伺いして、堀部先生に事務所に入れて欲しいと直談判した。なんの力もコネもない若造だ。それくらいの行動力をよかれと思って見せるしか術はなかった。

「給料はいりませんので働かせて下さい」

当然、そんなことを言っても入れてもらえる訳もなかった。

大変お恥ずかしい限りである。若気の至ということでどうかお許し頂ければと思う。その時の堀部先生の言葉をよく思い出す。

「ちゃんと給料をもらえるところで働いて、その給料で勉強しないとだめだよ」

その後、就職は思うようにはいかなかった。しかし、先生の言葉をしっかりと守ってきた自負はある。

どれだけうまくいかない時でも、必ず給料は勉強代に使っていた。堀部先生の建築が雑誌に載ると必ず購入した。そしてその素晴らしさにいつも感動していた。私も絶対にこんな素晴らしい建築を設計するんだと思いを新たにしていた。

堀部先生にいつも力を頂いていた。

その力がなかったら、私は今こうして建築設計をやっていることはなかったと思う。

先生、本当にありがとうございます。




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