モノマチ_180703_0012

第一話 篠笛職人

皆さん、はじめまして。紡です。
紡では、職人と学生の交流会を開いてその様子を記事にしていきます。
普段は聞けない職人の仕事の話、後継者問題の話を中心に若者と話していただいています。


紡の記念すべき第一話は、篠笛工房の田中康友さんにお話を伺いました。
今回は、和楽器に普段から触れている学生二人をお招きして、田中さんとお話していただきました

(第一話 登場人物)
・田中康友さん:笛工房和康
・小泉竣:立教大学経営学部
・新井孝征:立教大学社会学部
・関野菜子:立教大学経済学部

それでは、篠笛職人のお話、はじまりです。

(篠笛の歴史)

篠笛の歴史は、正確には分かっていません。篠竹で作られることから、「篠笛」と呼ばれています。中国から伝わった、「龍笛」が元々の由来とされています。
昭和初期から、今の「篠笛」の概念が出てきました。その頃の篠笛は口伝で伝わっていました。しかし、途中で戦争があったため伝えられていた人の多くが亡くなってしまいました。音楽が弾圧されていた時代でもあったので、仏像の背中から隠されていた篠笛が発見されています。

(インタビュー)

―まず、篠笛職人になったきっかけや現在の仕事について聞かせていただきました。


小泉:田中さんは、どうして篠笛職人になろうと思ったのですか?
田中さん:父がやっていて、僕は10歳の時から篠笛を吹き始めました。大森と品川は昔からお囃子が盛んだったので。当時は、楽器ができないと仲間外れにされちゃうくらい、みんなできて当然でした。それで、能管の師匠に出会って、自分でも吹けるようになったから、今度はいつか自分でもつくりたいって思うようになって。それから一度、ヤマハのエンジニアリングの会社に就職しました。ところが、そうこうしているうちに、僕が50歳の頃に、能管の師匠が亡くなってしまって。師匠とは、定年後に何かしようって話をしていたんだけど、師匠の死をきっかけに、今の笛職人を始めました。

新井:なるほど。田中さんにとって笛職人の楽しさや魅力ってなんですか?
田中さん:笛をつくるっていうことは、各地域のお囃子の良さを残すことにつながるよね。それを支えているっていうところかな。
小泉:伝統のためのインフラづくりってことですね。
田中さん:そうですね。歌舞伎とかにおいても、笛はあくまでバックバンドなんです。でも、それがないと成りたたないわけで。

―小さい頃から今まで長い年月篠笛と関わってきた田中さん。これからの普及や職人としての後継者問題について伺いました。

新井:後継者がいないことについて、何が一番の問題だと考えていらっしゃいますか?
田中さん:やっぱり、働くために若者がほとんど都会に出てしまうことだよね。小さい頃にお囃子やってた人とかは、祭りのときに各地域に帰ったりはするけどね。


小泉:田中さんは、『和楽器普及協会』でも活動されていますが、若者に対してどのようにアプローチしたいとお考えですか?
田中さん:僕は『大田区の伝統工芸発展の会』に入っているんだけど、そこに入っている琴の先生と一緒に普及協会を立ち上げたんだ。この協会では、和楽器の展示会をしているんだけど、和楽器だけを展示しても意味がないと思っているんだ。だから、楽器職人から演奏者、楽器商、能や神楽をやる伝統芸能、衣裳とかをつくる伝統工芸家、作曲家を集めて一括りにしたんだ。興味がある人が、ここにくれば情報が集まるっていう場にしたくて。ただ、今のところ若者とのパイプが無いというのが現状としてあります。

関野:今、最も若者に伝えたいことってなんですか?
田中さん:とにかく楽器に触れて欲しい。今は洋楽器が主流だけど、それを和楽器に変えて欲しいよね(笑)。そういう若者が和楽器に接する機会を増やすためにも、今流行っているような和楽器バンドとかが増えるといいよね。とにかく和楽器に興味をもって欲しい。

小泉:和楽器って、洋楽器よりも繊細に扱わないといけなかったりすると思うのですが、何か新技術とかが発展してたりしますか?
田中さん:あるよ。三味線の革が、最近ではカンガルーの革になったり、人工の革とかも開発されている。あとは、エレキ三味線とかも出ています。
一同:えっ!?エレキ!でも、それいいかもね。若者が興味をもちやすいかも。
田中さん:ドレミ琴とか、ベース琴、ソプラノ琴とかもあって、ピックアップアンプにつないで使えるようになってるんです。

―「とにかく、楽器に触れてほしい」この田中さんの言葉を、今の若者に一番届けたいです。かつて、田中さんが自分の楽器を作ってみたいと思ったように、まずは楽器に触れてみることが伝統を繋いでいくための最初の一歩だと思いました。

また、“伝統を守る”ということは、“伝統を知る”ことなのかなと感じ、このお話を読んで一人でも多くの人が、篠笛を“知って”くれたら嬉しいです。

―お話を伺ったあとには、篠笛を実際に吹かせていただきました!田中さんの音色は、さすが、10歳から演奏しているだけあって太く、重厚感がありました。

―私たちも苦戦しながらも挑戦!小泉くんは経験しているだけあって、音がしっかり出ていました。


―田中さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。

第一話、おわり。

インタビュー動画

ーインタビューの様子を動画でもご覧ください。

(取材先)

『笛工房 和康(わこう)』
所在地:〒143-0016東京都大田区大森北1-24-8
TEL:080-2045-8150
E-mail:shinobue_wako@yahoo.co.jp
Facebook:https://www.facebook.com/yasutomot

(学生からの感想)

楽器メーカーで働いていた経験を活かして、伝統的な楽器作りに囚われずにより良い楽器作りを目指しているところに現代の職人魂のようなものを感じました。また、楽器作りという面から地域の伝統音楽を守ろうと考え活動なさっていて、積極的に他所との交流を図ったり、和楽器の普及に努めたりと職人の枠を超えた挑戦心も尊敬しました。(小泉竣)

職人さんがどのような人たちの篠笛作っているのかや、篠笛作りにかける思い、使命感など興味深いお話をたくさん聞くことができました。特に印象に残っているのは、篠笛だけではなく和楽器全体の人口が少なくなっていく中、昔はあまり協力しなかったけれども、今は職人さんが互いに協力しあって様々な形で努力して和楽器の普及に尽力しているという話です。この話を聞いて、和楽器の魅力に気づいたり、和楽器を習いたい人はこれから確実に増えていくだろうと思いました。(新井孝征)