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もう観た人向け! 『アクアマン/失われた王国』原作コミックガイド

ついに公開されたDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)最新作『アクアマン/失われた王国』。『マン・オブ・スティール』から始まった約10年ほどに渡るDCエクステンデッド・ユニバース(以下、DCEU)の最終作という位置づけの作品ということもあってか、海洋アドベンチャー映画として怒涛の大盤振る舞い。やたらと楽しい映画でしたね。今回は映画を観終えた人向けに、本作に大きな影響を与えたコミックを紹介していきましょう!

※終盤の展開を含めてネタバレをしておりますので、ぜひ先に映画を観てから記事をお読みください。

文:傭兵ペンギン

アクアマンをはじめ、メラ、ブラックマンタ、アクアラッドなど
人気キャラクターが集結!
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盗まれた秘宝と、それをめぐる戦争

『アクアマン/失われた王国』最大の元ネタは、なんといっても2011年からスタートした『Aquaman』でした。ライターのジェフ・ジョーンズはDCEU作品の多くの製作に関わってきた人物でもあり、アクアマンのオリジンを描く前作『アクアマン』(2018年)はかなりの部分で『Aquaman』とそれにつながる『Justice League』のストーリーが軸になっていました。これらのエピソードは、邦訳版では『アクアマン:アトランティスの王』から始まり、『~王の遺産』『ジャスティス・リーグ:アトランティスの進撃』に収録されています。

『アクアマン:アトランティスの王』
『アクアマン:王の遺産』
『ジャスティス・リーグ:アトランティスの進撃』

映画『アクアマン/失われた王国』はコミックのその直後の展開で、ジェフ・ジョーンズ脚本担当期の終わりである『Death of a King』(2014年)が主な着想元となっていると言えるでしょう。このストーリーアークはアトランティスの建国者であるアトランの秘宝「幽王の笏(しゃく)」がブラックマンタによって盗み出されたことがきっかけで、氷漬けになっていたアトランが復活し、アトランティスに戦争を仕掛けてくるという展開。

アトランは映画ではコーダックス(90年代に登場したキャラクターで、遠い昔にアトランティスから追放されたヴィラン。今回の映画ではコミックのコーダックスや、それにまつわるストーリーの要素も盛り込まれていました)に変わっていたり、アトランを復活させるのがコミックではバルコだったりと色々と違いがあり、映画を観てからコミックと比較してみるときっと面白いはず。

『Aquaman Vol. 4: Death of a King』

報われたシン博士、チャーミングなオーム

前作のラストでちょっとだけ登場し、今作で活躍していたシン博士もこの時期のキャラクター。コミックではアトランティス研究の第一人者で、幼い頃のアクアマンの友人であり、パワーの成長を助けた師のような存在でもあるのですが、アトランティスの場所を教えてくれないアクアマンにしびれを切らして裏切ってしまうというストーリー。

コミックではそれでアクアマンとの関係が終わってしまうのですが、映画でのシン博士はブラックマンタの手先とはなりながらも、アトランティスを見ることができて、アクアマンの息子を救う活躍をして讃えられるので、より報われていました。MCUではジミー・ウー役でもおなじみランドール・パークにぴったりな役で、すごくいいキャラクターでしたね。

一方、映画の大きな見どころであるアクアマンと弟のオームによるバディムービー的な展開は映画オリジナル。ただ、オームがアトランティスを救うためにアクアマンやその仲間たちと手を組むという展開は『アトランティスの進撃』を含め、何度か描かれています。

ちなみに映画のラストでオームが地上で暮らし始める様子が描かれますが、コミックでのオームは後の展開で地上人の恋人を婚約し、家庭をもつようになったり、アトランティスの危機を救うべく立ち上がったりしてくれます(しかし結局、ヴィランに戻ってしまうのではありますが……)。

前作から引き続きパトリック・ウィルソンが演じるオームはめちゃくちゃ良かったので、彼のストーリーの続きがもう見られないのは本当に残念ですね……!

狙われた赤ん坊

もうひとつ、今回の映画に大きな影響を与えたであろうストーリーアークが、1974年の『Death of a Prince』。アクアマンとメラの息子であるアクアベイビー/アーサー・カリーJr.がブラックマンタに連れ去られてしまい、二人はなんとか赤ん坊を救い出そうとします。しかし最終的に間に合わずに、アクアベイビーは殺されてしまう……というストーリー。

その後、息子を助けられなかったことを責めてメラがアーサーの元を去るなど、とにかく過酷すぎるストーリー展開が衝撃的でした。アクアマンの「明るく楽しい」というコミカルなイメージを払拭してシリアスにしたいという当時の製作側の意図はなんとなく伝わってくるのですが、いくらなんでも辛すぎる……!

ちなみに、このストーリーはコミックファンの間では有名で、ブラックマンタと赤ちゃんが出てきた段階で嫌な予感しかしなかったのですが、最終的に映画版ではこのストーリーに影響を受けながらもとりあえず平和な解決になったのはひと安心。なんだかいろいろありましたけど、DCEU最終作にふさわしく、全てが丸く収まって美しく終わっていましたね。

筆者個人的には、ブラックマンタが自らの意思で子供を誘拐したわけではないということになったのも、なかなか良い変更点だと思います。

最後はやっぱり……『ワイスピ』流にBBQ?

DCEUが今後も続いていくアースであれば、次回作は『ワイルド・スピード』的なロジック※で、(今作はオームが仲間になりましたが)今度はブラックマンタが仲間になってアクアマン・ファミリーに加わり、最後にみんなで庭でパーティーをして、ギネスを飲んで終わる映画になっていたでしょう。そういう3作目が観たかった……!

※編集部注:ジェームズ・ワンも監督として参加した映画『ワイルド・スピード』シリーズでは、最後に「ファミリー」(仲間のこと。血のつながりがある必要はなし)でバーベキューを楽しむのがお約束となっている。

そんなわけでDCEUでのアクアマン/アーサー・カリーの物語は一旦終わりとなるようですが、アクアマンはこれからもコミックでは活躍を続けていきます。実はこの記事の執筆現在(2024年1月)、アメリカ本国でもアクアマンの単独シリーズの刊行がないのですが、それもいずれ始まることでしょうし、ジャスティス・リーグの仲間とともにゴジラとキング・コングと対決したり、ティーン・タイタンズでは新たなアクアマンであるジャクソン・ハイドも頑張っています。

次の実写版アクアマンが新たなDC映画ユニバースで作られるのかどうかはまだ不透明ですが、またスクリーンで彼の冒険が見られる日を、コミックを読みながらじっくり待つとしましょう……!

『アクアマン:ディープ・ダイブス』
スティーブ・オーランド、トム・テイラー他[作]
V・ケン・マリオン、ポップ・マン他[画]
吉川 悠[訳]

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
X:@Sir_Motor


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