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Interview 17/"小さな地球"に暮らす

リナ(ホストマザー・アフガニスタン出身)
ルイス(ホストファザー・メキシコ出身)
バッキ―(2人の愛犬・ポメラニアンとハスキーの雑種)

「人種のサラダボウル」「モザイクシティ」
「マルチカルチャー」など
さまざまな国籍の人が集うトロントは、
いろんな言葉で例えられます。
私のお気に入りのたとえは「小さな地球」です。
大袈裟に聞こえますが、これが結構本当で、
カナディアンに会うのがちょっと難しいくらい、
町はいろんな国から来た人でないまぜになっていました。
地球をミニマムサイズにしたら、こうなるのかもと思うほど。
それこそ私がワーホリでこの国を選んだ理由でもあります。
せっかくならこの1年、
いろんな国の人とお話してみたいと思ったからです。

トロントに来て最初の3か月間、私はホームステイを経験しました。
迎えてくれたのは、リナとルイスと子犬のバッキー。
ホストマザーのリナはアフガニスタン出身、
ホストファザーのルイスと子犬のバッキーはメキシコ出身です。
「小さな地球」での暮らしを楽しむ、海外旅行が大好きな2人と1匹。
インタビューの話を持ち掛けると、
ルイスは迷わず「リナの話が面白いよ!」と
おすすめしてくれました。

リナは私より4つほど年下でしたが、
ときどき、年下とは思えない重みのある言葉を発する人でした。
彼女のそれまでを聞いて、
その芯の強さの理由が少し分かったように思います。
(取材:2022年3月)

父はまさしく大黒柱。

――リナの生まれた国について教えてください。

リナ
アフガニスタンの、首都のカブール生まれ。でも生まれてすぐに、タリバン政権から逃げるために家族で国を出たから、あんまりそこでの記憶がないんだ。アフガニスタンを出てからはタジキスタンとパキスタンで2年過ごして、その後3歳の時にカナダに。それからはずっとトロント。
 
両親は私が生まれる前から、将来はカナダに移住しようって決めてたみたい。でも私が生まれてからアフガニスタンの情勢が悪くなって、すぐにでも国を出なきゃいけなくなったの。
 
アフガニスタンでの暮らしで覚えているのは、面倒を見てくれたおばあちゃんの顔ぐらいかな。両親が仕事で忙しかったから。
父と叔父は、アフガニスタンの兵士だったの。地雷を処理する仕事。地面に埋まった爆弾を爆発させないよう、場所を特定して撤去してたんだよ。カッコいいでしょ。
 
――人の命を守る仕事だったんだ。とても大切だけど、とても危険な仕事だね。当時はきっと心配だったよね。
 
リナ
そうだね。地雷撤去の仕事は、世界で一番危険な仕事の一つとも言われてる。でも心配の気持ち以上に、父のことが誇らしくてたまらなかった。たくさんの人にリスペクトされていたしね。父と叔父のチームはすごく優秀で、ダイアナ妃から認められたこともあるの。

――すごい活躍。かっこいいお父さんだね。そのお仕事って、アフガニスタンでは一般的なの?
 
リナ
全然。むしろレアジョブだよ。危険な仕事なだけに給料が高かったの。だからこそ、トロントに移住できた。今家族全員が元気に暮らせているのは、両親が仕事を頑張ってくれたおかげなの。
 
――国と家族を守る、かっこいいお父さんだね。今も家族でよく会うの?
 
リナ
うん、本当に尊敬してるよ。家族に会うのは、今は2か月に1回くらいかな。同じトロントに住んでるんだけど、少し遠くに暮らしてるんだ。

ルイス
クールなバックグラウンドだよね。だからリナは、アフガニスタンで使われる「パシュトー語」と「ダリー語」、カナダで使われる「英語」と「フランス語」、僕が生まれたメキシコの「スペイン語」がしゃべれるんだよ。僕も今「パシュトー語」を勉強中なんだけど、すごく難しい。
 
リナ
うん。「パシュトー語」は私が知ってる言語の中で一番難しいと思う。英語とは文法が全然違うし、言葉の並べ方は難しいし、文字も多いから。あと今「ロシア語」も勉強中。今働いてる会社で必要なんだ。
それにそもそも、語学を学んだり外国の文化を知ることが大好きで。自分のためにも勉強してるの。
 
――素敵。2人とも使える言語がいくつもあってかっこいいなあ。ルイスはメキシコ出身なんだね。

ルイス
そう。メキシコのモンテレーという町。メキシコは町によって全然表情が違うんだよ。モンテレーは現代的で都会的な都市かな。マリアッチって分かる?
 
――音楽隊だよね。つばの広い帽子を被って歩き回りながら演奏しているイメージ。
 
ルイス
そうそう。つば広帽がお決まりの衣装なんだけど、モンテレーのマリアッチは特殊で、カウボーイハットを被ってるんだよ。これはモンテレーが、アメリカのテキサス州と隣り合った町だから。昔テキサス州ってメキシコ領だったんだよ。その名残で。
 
――へえ。たしかにテキサスってカウボーイのイメージが強いけど、昔はメキシコの領地だったんだ。ルイスはなんでトロントにきたの?
 
ルイス
僕は9年前、2012年に観光目的で初めてトロントに来たんだけど、ここがすごく気に入って引っ越すことを決めたの。引っ越してからはこっちのカレッジに通い始めたんだ。
 
――2人はたしか、同じカレッジに通ってたんだよね。どうやって結婚にいたったの?

2人の出会い

リナ
ちょっと待った。その前にまず、私たち結婚してない(笑)。
 
――えっ? ホストファミリーって言うくらいだから、てっきりご夫婦なのかと……。
 
リナ
違う違う。面白いなあ。
 
――大変失礼しました(……ということは、同棲先にステイさせてもらってるってことか。日本では珍しいかも)。2人の出会いを聞いていい?
 
リナ
ふふ、私たちはイタリアで会ったの。ローマの空港で。
 
――わー! 文字通りロマンチック!
 
リナ
そう、ロマンチック(笑)。あなたの言う通り、私たちは同じカレッジの生徒だったんだけど、学年が違ったから、それまで話したこともなければ面識さえなくて。
 
たまたま2人とも学校主催のプログラムに参加して、それでイタリアに行ったのね。ローマに着いてから乗り合わせたバスで一緒になって、そこで初めてお話した。「え、同じ学校?」って。それで会話が弾んだの。「トロントってほんとに小さい町だよね~」って話をしたのを覚えてるよ。
私は前々から、イタリアの後はそのままイギリスに旅行しようと思ってたんだけど、なんとイギリスでルイスに再会したの!
 
――えーーー!

ルイス
おんなじルート、おんなじ考え方で。
 
リナ
運命的でしょ。それで仲良くなって、トロントに帰ってからも交流が続いて、付き合うことになった。
 
――トロントの恋愛って、どんな流れで恋人同士になるの? 日本では大体3回目くらいのデートで、どちらかが告白するっていうのがよくあるケースなんだけど。
 
リナ
トロントも同じような感じかな。でもいろんな国籍の人がいるから、いろんな流れがある。ルイスもだけどラテンの人は、何人もの女の子と同時進行でデートしてたり、ちゃんとした告白がない場合が多いみたい。だからね、ラテンの男はやめときな!!(笑)
 
――えええ。でもルイスすごい誠実で素敵だよね。
 
リナ
それは私が育てたから(笑)。
 
――おおお~。

やっぱりアフガニスタンが好き。

――リナはカレッジで何を勉強していたの?
 
リナ
法学部で、法律を勉強してたよ。卒業後は人権問題専門の弁護士か、移民弁護士になりたいと思って。カナダに移住するために、両親がたくさん苦労してきたのを見てきたからね。2人みたいに住む場所に困っている人たちを助けたいと思うようになったんだ。父が兵士としてたくさんの人を守っていたように、私も私のやり方で、移民を助けられたらと思ったの。
 
――小さい頃の経験があって、海外文化や言語が好きで、移民の国に暮らすリナだからこそ思い描ける夢だね。
 
リナ
そうだね。あと夢って言ったら、私もルイスも旅行が大好きだから、世界全部の国に行くことが夢なの。私はこれまでに18か国。ルイスは13か国旅したことがあるよ。このままいけば実現できそう。

――素敵だね。どの国が一番良かった?
 
リナ
アフガニスタン。
 
――迷いなく。それはやっぱり、自分の故郷だから?
 
リナ
いや、もし私がアフガニスタン出身じゃなかったとしても、そう答えると思う。昔は穏やかな場所だったの。着る服や日用品はほとんど手作りで、何もかも数十年前に戻ったような感じ。時間の流れが本当にゆっくりで、温かみがあって好き。アフガニスタンの情勢が落ち着いたら、夏はアフガニスタンに過ごす、みたいな生活ができるようになりたいな。あとはカブールに学校を建てて、アフガニスタンに恩返しがしたい。

アフガニスタンは食事もおいしいの。中東に位置してるから、アジアとヨーロッパのいいとこどり。少し前にここでアフガニスタンのニューイヤーパーティーをしたじゃない。アフガニスタンのお正月は3月なんだけど、毎年その日は友達を誘って、みんなでアフガニスタン料理を囲むの。ケバブとか豆料理とか、じゃがいも入りのナンとか。おいしかったでしょ。
 
――おいしかった! たしかに口に合うなって思った。あとアフガニスタンのニューイヤーパーティーに、いろんな国の人が集まって、アフガニスタン料理を囲んでいたあの感じが新鮮だったな。お友達もいろんな国の人たちなんだね。

リナ
そう。そうなの。トロントはいろんな国の人がいて、そこがクールで面白いなって本当に思う。ここにいるだけで、いろんな国を旅してる気分になれるの。私は世界中の人と出会ったり、文化を学ぶのが大好きだから、だからホストファミリーもやってみたいって思ったんだ。これまでに迎えたのは3人。1人目はコロンビア人、2人目はイタリア人。3人目があなた。
 
ルイス
日本人が来るって聞いて、「やったー! アニメのことたくさん教わろ!」って友達と喜んだんだけど、全然違った(笑)。僕も友達も『進撃の巨人』が好きだから、その話ししようって思ってたんだけど、観たことないなんて……!

――ごめん(笑)。日本人なんだけどアニメもよく知らないし、マリオカートも弱くて……。
 
リナ
「ほんとに日本人?」って思っちゃった。面白い(笑)。
 
ルイス
(笑)。でもマリカ、うまくなったよね。
 
――毎晩練習させてもらってるから(笑)。英語もマリオカートくらい成長できたらいいんだけど。私はバッキーがすごいなって思うの。

リナ
どうして?
 
――だってさ、言葉が使えないのにこんなに立派にコミュニケーションがとれるんだもん。
 
リナ
たしかにね。バッキーみたいに、オープンマインドでいることが大事なんだよ。どんな町にも、その土地のルールってあるけど、トロントのルールは「オープンマインド」かな。いろんな国の人がいるからこそ。
オープンマインドじゃなきゃ距離は縮まりにくい。難しくても、諦めずにね。
 
――はい!(なんだか本当にお母さんみたいだなあ)今日はいっぱい答えてくれてありがとう。
 
リナ
いえいえ。そろそろ晩御飯の準備しよう、今日はサーモンとマッシュポテトだよ。

(おわり)

◆編集後記
 最近リナが、アフガニスタン旅行に行ったようです。インスタグラムのストーリーに挙げられたアフガニスタン旅行記に、私は何度もため息をついてしまいました。建物、着るもの、そこに映る人々、画面越しに伝わるゆったりとした時間の流れ。美しい写真とともにリナの言葉が思い出され、「アフガニスタン」は今や、私にとっても憧れの国の一つになりました。彼女に出会わなかったら、アフガニスタンに対してそんな気持ちを抱くことはなかったでしょう。
 誰かと出会うことは、知らなかったこととの出会いでもあると改めて思います。昔友達が、「恋人と暮らし始めて、ホラー系の本を読むようになった」と教えてくれました。同棲を機に2人の本が同じ棚に並び、相手の本を手に取ったことがきっかけだそうです。そのエピソードにぐっときた私ですが、リナとルイスが、まるで当たり前のようにお互いの母国語を学んでいたところにもまた、ぐっときてしまう私でした。

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