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Interview18-②/なんで仲良くなれたかな

ナサさん【左】(語学学校のクラスメイト・日本人・3か月間留学中)
ナオコ【右】(語学学校のクラスメイト・日本人・1年間ワーホリ中)

語学学校で知り合った3人で、
10日間のニューヨーク旅行へ行きました。
その道中、セントラルパークで体を休めながら
お話を聞かせていただきました。
前回は、2人がトロントにたどり着くまでのお話。
今回は、滞在3か月間での経験やこれからについてのお話です。
 
旅の中でできた友達と、旅の中で旅をするのは、
なんだか新鮮でした。
知り合って1か月も満たないのに、
もう長い付き合いのように錯覚してきます。
「そういえば最近友達になったんだっけ」と
お互いたびたび不思議がりながら、
ナサさんは3か月の留学の締めくくり、
ナオコは語学学校卒業間近、本当の「ワーホリ」が
始まろうとしている節目を一緒に過ごしました。
(取材:2023年3月)

後ろで休憩していた青年たち。気持ちいい公園


腹が出せるようになった。

――じゃあ今度は質問を変えて。トロントに来て3か月経ったわけだけど、変わったと思うことはある?
 
ナオコ
えっとね。腹が出せるようになった。

ナサさん
ハハハハ! たしかにたしかに。

左がナオコ、右がナサさん

ナオコ
いやこれまじで大きくて。日本にいた頃はさ、腹出す服着てみたいと思っても、自分はデブだから着る資格ないわ無理って思ってたわけ。でもここって誰も気にしないじゃん。「誰がどう思うかなんて関係ねえ私はこれが着たいから着る!」みたいな。
 
ナサさん
ほんと。Nobody Care.
 
ナオコ
でもさ。トロントに来たとはいえ、周りに日本人もたくさんいるわけよ。だから言ったらリトルジャパンなわけ。日本人同士だから腹は出せんと思ってたんだけど、ナサに会ったこともあって、だんだんどうでもよくなっちゃって。リトルジャパンの中にナサがいたのは大きかったね。異質なジャパニーズだったから。日本人なのに、周りを気にしない感じがあった。なんにも気にしない感じ。
 
ナサさん
ふーんそういうふうに見えてたんだ……(笑)。でもまあたしかに、ここに来てより人目を気にしなくなった気はする。『ああ~ここはほんとに、‘‘I don’t care“で“Nobody care”でいいんだ~』って開放された感じがあるかも。日本で生活する上で、うまく生きるために抑えてた部分が、トロントに来て開放された感じ。
 
ナオコ
うんうん。それにナサはさ、いつもどんな誘いでもOKしてくれんだよね。ナサがいたから挑戦できたことがたくさんある。3か月間まじでいろんなところ行ったよね。
 
ナサさん
ほんとねえ。ほんと、いろいろ行ったよね。「あ、素敵」って思える人にたくさん会えたな。
 
――うんうん、例えばどんな人が印象に残ってるの?
 
ナサさん
例えば、MAC※(※カナダ発のコスメブランド)の店員さん。もう何回もお店行っちゃった。いつでも、「まかせて!!」ってすごいうれしそうに選んでくれんだよね。「これとこれとこれがいいと思う!こういうのも試してみてもいいんじゃない!?」って、楽しそうに何色も提案してくれてさ。実際に試してみても「かわいい~!もう完璧よお!!」って言ってくれる。すんごい、あふれてる。“HAPPY”が。
 
あとジェラート屋さんもよかったなあ。MACの店員さんみたいなテンションではないんだけど、ちょっと恥ずかしそうにさ、「私これ好きなの…!これとこれを食べるとこんな味がするからぜひ食べてみて…!」って言ってくれたのはすごく印象に残ってる。
 
両方とも、売れ筋とか会社のおすすめとかそういうんじゃなくて、ほんとに心から勧めてくれてる感じが素敵だった。「会社の人」じゃなくて「個」が生きてるって感じ。「私」が好きかどうか。
 
ナオコ
いろんなとこ行きながら、そんなこと考えてたんか。ナサらしい。
 
ナサさん
うん。「うれしい、楽しい、ハッピー」の感情表現が素直で、少なからず私も影響を受けて、陽の感情が露になった気がする。こっちの自分の方が好きだし、日本に帰ってもそうやって、ハッピーを素直に出していきたいなー。
 
――本来そうでありたいよね。好きなものをすすめる、喜びたいときに喜ぶ、好きな服を着る。シンプルでいい。
 
ナサさん
ほんとうにそうだよね。ああー考えてみたら、開放的になれた瞬間ってあったな。ゲイバーだ。『自分の好きな自分でいていい』ってことを直に感じられた瞬間。
 
ナオコ
あああ~。ナサさんゲイバーめちゃめちゃハマってらしっしゃった。誰よりもはしゃいでた。誘ってよかったよ。
 
ナサさん
うん、ありがとう(笑)。ゲイバーってさ、ドラアグクイーンが舞台で一人堂々と踊るのね。性別を超えてるわけじゃん。何にも囚われず、自分のやりたいスタイルで観客を楽しませる。自分が好きな衣装、自分が好きなヅラ、自分が好きなメイクをして自分の好きな音楽で歌って踊る。自分に対して自信しかないの。だから見ていて勇気もらえる。「“自分のことを理解して、自分をさらに表現しようとする人”ってすごい好きだ!」って思ったんだよね。
 
そうして、自分の好きに素直になった結果、腹を出したって感じかな。私はこっちの服が好きで、それが腹とか腕を出す服ばっかりだったからさ。てかさっきから、腹出すことしか話してないか(笑)。
 
――いやいや大きいことだよ! 腹を出すハードルは、ものすごく高い!
 
ナオコ
まじそれだよ! ナサは3か月間の留学なわけでしょ。3か月ったら、人が変わるには短いじゃん。1年だって短いくらい。だから変われたというより、変わるきっかけが見つかったって感じかもね。種みたいなものが見つかっただけでも、海外にきた意味ってすごい大きいと思う。
 

先に大人になった人として。

――ほんとにその通りだね。大収穫! ナオコは、トロントで印象的な出会いはあった?
 
ナオコ
やっぱり語学学校の先生かな。担任の先生が2人いたんだけど、両方ネイティブじゃなくて、第2言語として今でも英語を勉強してる人たちでさ。『同じ英語を勉強してる立場として、自分がトロントで生活してみて学んだことを、教えるよ』っていうスタンスだった。生徒のバックボーンに対しても興味津々で、先生なんだけど生徒から学ぼうとしてる姿勢もすごくよかった。

私も先生になったら、「自分が英語話せたことで、こんだけ楽しいことがありました。トロントで生活してみてこんなことがありました。こんだけ可能性が広がりました」って教えたい。
 
――やっぱり「先生」って存在に興味をもって見てたんだね。知識以上に経験を教えたいと思ったんだ。
 
ナオコ
そうねー。私は大学院生だったわけでもなければ、有名大学を出たわけでもない。てかそもそも勉強も好きじゃない。そういう自分にできるのは、「私はみんなと同じ高校生でした、そっからこういう風に人生経験してこんなことがありました」って教えること。「先に大人になった人として、大人になる君に教えたいことがあるよ」って。

私には恩師がたくさんいるんだけど、どの先生も、教え方がうまかったとか授業が好きだったっていうよりは、人として好きなんだよね。先生である前に人として魅力的で。もうね、恩師=ファンみたいなところがあって。ファンを増やすというところは、芸人時代の学びも生かしたいですね。
 
――おおお~ナオコだからこそできることだ。
 
ナオコ
「先生っぽくない先生だね」って言われるのが一番理想かもしれない! いい意味でね。私も生徒から、人として魅力的だと思われたいな。

ことばの面白さ。

 ――うんうん、2人ともこの短期間で素敵な出会いがあって、そこまで考えられたのはすごいね。ナサさんは、こうなりたいなみたいな夢はできた?

ナサさん
私ね、翻訳してみたいなーって思った。今回ブロードウェイを観て、言葉を訳すことって面白いなって思ったんだよね。表面的な言葉の意味だけじゃなくて、セリフの文化的背景を知ると、物語ってもっと面白くなるなって。

『キンキ―ブーツ※』でさ。(※ブロードウェイのミュージカル作品。ゲイに対してまだ風当りが強かった時代、倒産寸前の靴工場若社長と1人のドラアグクイーンが出会い、ドラアグクイーン用ハイヒールブーツを開発することで、工場や取り巻く人々を元気にしていく物語)終盤お客さんに“Ladies and Gentlemen! And those who have yet to make up their minds Ladies and Gentlemen!“(直訳:紳士淑女のみなさん、そして紳士か淑女か決意が固まっていない人も!)って投げ掛ける一言があって。 

このミュージカルって日本語でも訳されて何度か公演されてるんだけど、ここの部分とか、公演によって少しずつ変わってるんだよね。調べたんだけど、 ”And those who have yet to make up their minds Ladies and Gentlemen!“を
「まだどちらか決めかねているあなた!」
と訳されてたのが、今は
「まだ本当の自分を探し求めているあなた!」
になってるみたい。作品を見てみて、どの訳し方が正しいのかなって思ってさ。

 ナオコ
うーん。前者の「決める」って言葉はちょっと違うかもね。多分今は「性別は決めなくてもいい」って考え方がベターだから。

――たしかに「どっちかに決めなきゃダメ」って受け取る人がいそう。そもそも決める必要はないのに。

ナサさん
うんうん。最新版の「まだ本当の自分を探し求めているあなた!」も違和感がある気がするんだ。なんというかこの作品は、自分探しがテーマじゃなくて、もう既に「自分」はあるんだけど、その自分でどう生きるか迷ってるような人たちのお話だと思うんだよね。
「自分は自分を見つけられてるんだけど、どう生きるか、それはまだ迷っている」みたいなニュアンス……。

ナオコ
あーじゃあ「迷子のあなた」とか?

ナサさん
いいね!「レディースアンドジェントルマン! そして、まだまだ迷子なあなた!」あ、しっくりくるかも!

――いい!みんなが生きることに何かしら迷子で、それを受け入れてくれる感じがする!

ナサさん
こういう風にさ、一言だけでも、意図や時代を汲んで伝えられたら素敵だなって。今でさえ面白いミュージカルをもっと味わい深くなるって、思ったんだよね。

――たしかにそういうの、考えるも解釈するのも楽しいね。あ、それで言うとホテルで出会ったおじいちゃんが「9.11メモリアルミュージアム」のことを「Powerfulな場所だ」って言ってたのすごく印象的だったな。“Powerful”って、活気があったり明るいイメージだったけど、祈りとか、静かな力込められているという表現にも使われるんだって。言葉の本当の意味を知った気がする。

ナオコ
うんうん。ほんと、あの一言良かったよね。

 ナサさん
おじいちゃんの口から当たり前のようにさらっと出てきたけど、ハッとさせられるものがあったよね。言葉を知るってすごく面白い。

Life is beautiful!

ナサさん
さっきナオコが言ってたことで思ったんだけど、私これまで恩師ってそんなにいなかったかも。唯一の恩師って言ったら、学校の先生じゃなくて、宝塚目指してた時のバレエ教室の先生かな。私は個が強めなので、人に対しての思い入れが強くないのかもしれない。
 
ナオコ
あ~違うね。私学校ごとに恩師いるもん。でもナサ他人に興味がないわけでもないじゃん?
 
ナサさん
うん。私、人が好きって言うよりも、人間そのものが好き。
 
――ナサさん前に「生命はみんな美しい」って言ってたもんね。“Life is Beautiful”.
 
ナオコ
あたしは「人生」の「Life」に興味があって、
 
ナサさん
私は「生命」の「Life」が好き。
 
――どっちもステキ。
 
ナオコ
ナサがちょっと異質なジャパニーズなのはそこにあるのかも。人間すべてに対して「存在がもう最高!」って思ってるから。だから比べないし人目を気にしない。19歳の頃バンクーバーに留学した時にナサに会ってたら、仲良くなってなかったと思うんだよね。あたしとナサ、性格とか考え方、結構真逆だから「なんで日本人なのにそんな考え方なんだ?」って警戒しちゃってたと思う。
いろいろ人生経験して、悩んで、27でこっちきて、29のナサがいて、タイミングがばっちりだったんだと思う。
 
ーー日本人同士の異文化交流。
 
ナサさん・ナオコ
それだな。あはは!

(おわり)

◆取材後記
 安定の中にいながら思い切った挑戦を続けたいナサさんと、自由の中で居場所を見つけようと奔走するナオコさん(よければPart1も読んでみてください)。2人が同じ時期に同じ町にやってきて、同じ学校同じ教室に肩を並べた。後々聞けば2人とも第一印象はあまりよくなかったそうですが、それでも仲良くなり、ニューヨーク旅行を計画するまでになりました(私はもともと仲良しのふたりに混ぜていただいた感じでした。ありがとう)。思いもよらなかった人と仲良くなるというのは、人生の中で結構面白いイベントだと思います。
 旅行最終日、私たちはふざけ半分で同じベッドに川の字になって眠りました。明け方私はベッドから落ちたんですが、すぐに2人に落とされたんだと悟りました。だって2人とも、寝相がまったくおなじだったんだもの。バックグラウンドや話し方、相槌の仕方もまったく違う2人だけど、自分の心を大事にするマインドは同じ。だから仲良くなったのかもしれません。旅の中でできた友達との旅、本当に素敵な思い出です。
 帰国後、ナサさんが結婚式に招待してくれました。すんごくうれしかったです。

念願の結婚式をあげたナサさんと、号泣するナオコ

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