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想像してほしい。あなたの子どもが平日の朝、何時になっても起きてこないとしたら・・・?【武香織『朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から』中公新書ラクレ】

「早くしないと遅刻するよ」と無理ぐり布団をひっぱがすか。
「いつまでも怠けているんじゃない」と一喝するか。
はたまた、愛想を尽かして放置するか。

「起立性調節障害」の観点から言えば、上に挙げた3つの対応策は、「大間違い」である。

中学生の息子が、ある日から突然「頭が痛い」と毎朝訴え、学校にいけなくなった。母親(著者)は最初、我が子のサボり癖を疑ったが、ふと「死人のような蒼白な顔」に気が付き、これはただごとではないとすぐに受診させる。

そうして出された診断が、「起立性調節障害」だった・・・。

この病気は、「サボり癖」ではない。きちんとメカニズムもある。
自律神経の調整がうまくいかず、全身に血液がうまく回らないことで頭が回らず、朝起きられなかったり貧血、めまいを起こす。
この病気の特徴は、神経が活発になる夜になればウソのように元気になること。しかしどれだけ前夜元気だったとしても、翌朝になれば再び朝起きられなくなる。

つまり「サボり」「怠け」とレッテルを貼れば貼るほど、悪化しかねない。バツの悪いことに、医者でさえこの診断をくださず「怠け」としてしまうこともある。定着しているかと言えばまったくそうではない病気、それが「起立性調節障害」なのだ。

この病気に関して、基礎的な部分から解説している本は一応、ある。
しかし、この本のように、当事者の目線から考える起立性調節障害の本というのは、かなり限られているのが実情だ。
この本は朝起きられなかった場合の対応策はもちろんのこと、医者ではない、たいへん貴重な「当事者の声」を聴くことができる。

「起立性調節障害」は、とにかく周囲の理解がカギを握っている。
夜あれだけ元気なんだから朝だって元気でしょ、というレッテルを、いかに周囲が貼らないかが患者のこれからを左右する。

その点、この著者の対応は「完璧」だった。
息子が朝起きられないのは病気だと知るやいなや、まず最初に担任に知らせた。その上で、クラスに向けて手紙を書き、来たときは歓迎してくれると嬉しいことを伝えた。

さらに家庭教師のお兄さんにもこの病気のことを話し、お兄さんの彼女までまるで弟のように息子のことを支えた。

この母子が幸運だったのは、この「怠け」とよく勘違いされる病気を、誰ひとり否定せずきちんと理解し、温かく見守ったことだと思う。

その後息子はバンド活動に目覚め、紆余曲折もありつつバイトをしながら起立性調節障害と向き合ってきた。
この本には起立性調節障害の当事者4人による座談会も収録されている。
みなに共通していたのは、家族や周囲に「怠け」と否定された悲しさ。
さらに支える家族の声では、「なんで否定してしまったのか」と悔やむお父さんの声も収められている。

「朝起きられない」は、ただの怠けではない可能性がある。
たったそれだけでも、だれもが知っている事実として広まってほしい、とこの母子の闘いを踏まえて強く思った。


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