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階段昇降バランスの診るべき視点

昇降動作


昇段動作では,前肢接地(両脚支持相)から挙上相にかけて、前肢の大腿四頭筋と後肢のヒラメ筋が活動する。

このことは,大腿四頭筋とヒラメ筋の求心性収縮が身体の拳上と体重支持に貢献することを意味する。特に、後肢の足関節の筋パワーが,COMの上方
加速度と関連する。

大殿筋は,前肢接地から後肢接地まで活動し続け,立脚中の体幹屈伸の制動に貢献する。

一方,降段動作では,立脚期全般にわたりヒラ筋が活動し,下降相では,後肢の大腿四頭筋とヒラメ筋の活動が大きい。

対して,大殿筋は,前肢接地時にのみ活動する。

ヒラメ筋の遠心性収縮にて、立脚期全般において COMを制動し,下降相においては,大腿四頭筋の遠心性収縮にて前下方へのCOMの減速を制御する 。

中殿筋は,昇段時も降段時も立側期全般で活動し,側方のCOM動揺を制動する。

昇段時は,降段時と歩行時と比較して,前額面のCOM回りの角運動量が大きいため特に中殿筋の活動が重要となる。

以上のように,昇段と降段時には要求される力学的特性が異なることからも,昇段時と降段時のバランスが一様に低下するとは限らない。



階段昇降と杖

昇段時に常に側方に杖を着く方法と,杖を常に前方に着く方法では,前方に着く方法の方が体幹の側方傾斜が小さい。

また,前方に着く方法では,COMが上方に位置し,体幹伸展が維持され,COM動揺が小さい。


生体力学的視点

昇段と降段時においては、股関節伸展筋群,外転筋群,膝関節屈曲筋群,伸展筋群,足関節底屈筋群が重要である。

加えて,これらの筋群の必要量は,動作開始条件により変化することにも注意が必要である。

静止立位から昇段を開始する場合よりも,連続歩行から一連で昇段を開始する場合の方が,股関節伸展モーメント,股関節外転モーメント,および膝関節伸展モーメントが増大する。

これは,歩行から一連で行う階段昇降では,連続歩行により産生されている速度の制動が必要となるためだと示唆されている。

ゆえに,高齢者等で見られる階段昇降開始前に一度立ち止まることは,必要な筋力量を低下させ,安定性を確保するための代償動作かもしれない。


運動戦略

静止立位から階段昇降を開始する場合には,COMを前方かつ支持脚側へ偏移させる制御が必要になり,両側の前脛骨筋と遊脚側の中殿筋の筋活動が重要な役割を担う。

APAsの低下による不十分なCOMの偏移は、後の姿勢バランスに影響することから階段昇降動作の初期の姿勢バランスの低下は,APAsの低下を示唆している。


階段昇降とは

階段昇降動作は,定常歩行と比較して,特に盛覚運動領域と後頭頂葉の活動が増大することが示されている。

この結果は,階段昇降課題が感覚運動処理に伴う随意的な制御が多分に含まれた課題であることを示唆している。


階段昇降バランスの診るべき視点 萬井太規



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