プロダクトデザインの原論「誰のためのデザイン?」
こんにちは、ナカムラです。今回は「誰のためのデザイン?」という書籍を紹介したいと思います。
本書は、プロダクトデザインに軸足を置いた書籍で、プロダクトデザイナーの間ではバイブルとなっている名著です。
400ページに及ぶのでなかなかの情報量なのですが、あえてまとめると、
①認知科学に基づくデザインの基礎知識
②「人間中心デザイン」という問題解決プロセス
について根本的な理論から学ぶことができます。
今回はそれぞれについてかいつまんで紹介したいと思います。
1)認知科学に基づくデザインの基礎知識
この知識だけでも十分面白いので本当は全て紹介したいのですが、長くなるので特に重要な基礎知識に絞って紹介します。
アフォーダンスとシグニファイア
突然ですが、ガードレールに座ったことはありますか?ガードレールは本来、歩行者を守る盾の機能を持っていますが、ちょうどいい高さ、平面、強度があるので、待ち合わせなんかでつい座ってしまいます。
この場合、ガードレールが持つ本来の機能(意図して設計された機能)ではなく、使う側が「座れそうだな」という解釈をして使っているわけですね。これをアフォーダンスと呼びます。本書では、
アフォーダンスは、モノの属性と、それをどのように使うことができるかを決定する主体の能力との間の関係のことである。
と説明されています。(上記の例だと「ガードレールは座ることをアフォードする」という言い方をしたりします。)
もう一つ別の例を出します。ドアに平面の板が付いていたとします。多分それを見た人は「そこを押せば開く」と解釈して、ドアを開けると思います。これもアフォーダンスでしょうか?
著者は、これはアフォーダンスではなくシグニファイアであると言います。
シグニファイアとは、意図的に行動を促すサインのことです。ドアの例では、確かに押すことをアフォードしていますが、どこを押すかも含めて意図的に行動を促しているので、シグニファイアとしてアフォーダンスと区別するのです。(細かいなぁ…)
フィードバック
フィードバックとは「要求したことに対してシステムが働いていることを知らせる手段」を指します。
エレベーターで「上」を押した時、ボタンが点灯しますよね?あれがフィードバックです。逆に点灯しなかったり、ボタンを押し込む感覚がないと「あれ、押せてないのかな?」と不安になります。
フィードバックがないと、達成されたのか分からず、何度も同じ行為を繰り返してしまいます。それが思わぬ事故やミスにつながってしまうので、フィードバックはデザインにおいて不可欠とされているわけです。
例えば、最近の電気自動車はあまりにも静かで、発進時や加速時にもほとんど音がしません。これはエンジン音をフィードバックとしていた我々にとって意外な不安要素になっています。
なので、あえてサウンドエフェクトを付けることでフィードバックを生み出す、という工夫が図られています。(フィードバックとしてだけでなく、高揚感を煽る意味も持たせていたりしますね)
概念モデル
最後は、概念モデル。概念モデルとは、人がモノに対して抱く無意識的なイメージのことです。
蛇口を見ると、ひねれば水が出ると思いますよね?このような「〇〇はこういうものだ」という、経験的に知っていて無意識的なイメージのことを概念モデルと呼びます。
この概念モデルは、ユーザーが商品やサービスを扱うことを容易にしてくれます。
例えば、コンピュータの画面上の「フォルダ」は、現実のフォルダの形をしていますよね。あれは「フォルダの中には書類が格納されている/格納できる」という概念モデルを活かしているわけです。
これらの基礎知識を持っておくだけで、世の中に溢れるモノやサービスを見る目が変わってきます。
2)「人間中心デザイン」という問題解決プロセス
本書では、人間中心デザイン(HCD)という言葉が頻出します。これは、「人間(ユーザー)を理解し、真のニーズを見つけて問題解決する」というデザインの考え方です。
この人間中心デザインのプロセスを説明する前に、デザインによる問題解決の代表的なモデルである「ダブルダイヤモンドモデル」について説明します。
デザインプロセスを、「正しい問題を見つける(問題定義)」フェーズと「正しい解決策を見つける(問題解決)」フェーズの2つに大分し、それぞれに発散と収束のフェーズを設けるのがダブルダイヤモンドモデルです。これによって、
・「問題を見誤るエラー」を回避できる(一般的に解決策に目が行きがち)
・可能性を吟味した上で最終的な解に到達できる
というメリットが得られます。時間はかかりそうですが、確実性の高いアプローチですね。このモデルを具体的に行う方法論こそが、人間中心デザインプロセスになります。
人間中心デザインには4つのプロセスが存在します。
1. 観察
2. アイデアの創出
3. プロトタイピング
4. テスト
観察
観察は、いわゆるデザインリサーチという活動を指します。リサーチによって、人々の真のニーズを把握して正しい問題を定義します。また、対象となる母集団はどこで、その人達の活動や文化的背景はどうなっているかを知ることで、解決策が適切であるかを推し量ることができます。
アイデアの創出
次に、アイデアの創出。これはほとんどの場合ブレーンストーミングです。本書にあるブレストの心得はとても参考になります。
・数多くのアイデアを創出すること(初期段階で1つ2つのアイデアに固執しない)
・制約を気にせず、創造的であること(批判しないで受け入れる)
・あらゆることを質問すること(愚かな・基本的な質問に洞察が隠れている)
3つ目は意外と意識してなかったりするので、新たな発見でした。
プロトタイピングとテスト
そして、プロトタイピングとテスト。アイデアが本当に有効なのかを知るために、試作品を作ってユーザーテストを行います。
いずれも「問題解決」のフェーズで使う印象が強いですが、「問題定義」のフェーズでも重要な役割を果たします。
実際にプロトタイプを使ってみてもらうことで、ユーザーにとっての不便や不満が表出しますし、一連の活動を観察することで、サービスがカバーしていない範囲の行動まで詳細な情報が手に入ります。これが、見落としていた問題に気付いたり、定義している問題の理解度を深めたりすることにも役立つのです。
そしてこれらのプロセスを、満足の行く結果を得られるまで繰り返します。故に、スパイラルモデルと呼ばれたりもします。
最後に、このモデルの注意点をあげておきます。
1つは、あくまでも理想のモデルなので現実に適用すると様々な障壁に阻まれること(組織の壁、競争圧力、スケジュール、予算、倫理的観点など)。これはどんなモデルにも当てはまりますね。
もう1つは、イノベーションが起きにくいこと。問題解決型であり、ユーザーへの共感・理解を出発点とするので突拍子もないアイデアが生まれづらいのです。(参考:直感と論理をつなぐ思考法をマスターするnote)
※本書では、この辺りの課題点にも独立した章を設けて、詳細に触れています。そこが実践的でいいですよね。
3)最後に
紹介しきれなかった内容は多々ありますが、最後に1つだけ本書の一貫したメッセージに触れたいと思います。
ほとんどのヒューマンエラーは、デザインエラーである。
というものです。
多くの産業事故はヒューマンエラーとされるが、実際に深ぼっていくとそれはシステム側(デザイン)の問題であることが多いという話。
ヒューマンエラーとして処理されてしまうのは、問題の原因究明において「誰が何をしたか」が特定された途端に、それ以上の分析が為されなくなってしまうからだそうです。
そして、当事者も「ミスを犯したのは自分」と判断してしまうからでもあると。
同じ事故やミスが多発している場合、それは人間ではなくシステムを疑うべきであり、人間側の対策では根本解決にはならないというのは、大きな気づきでした。
以上、プロダクトデザインの原論「誰のためのデザイン?」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
ナカムラ
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