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月刊 編プロのケーハク

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シュッパン前夜メンバー、編プロのケーハクの記事まとめ。出版界のあるある、新人ライター&編集者向けのスキル解説、出版界の問題や課題について。
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記事一覧

後世に残したい出版編集の技術アーカイブ「ラフは原寸で描く!」

今宵、本の深みへ。 この度、独立してフリーになることになった、編プロのケーハクです。 おそらく、編プロ所属で書くのは今回で最後になるかと思いますが、今後も「ひとり編プロ」として出版編集業務は継続していく所存ですので、「編プロの」はそのまま据え置きということでお願いします(どうでもいいですよね?)。 さて、今回は「後世に残したい出版編集の技術」ということで、「ラフ」をテーマに解説していきたいと思います。 最近は、生成A Iが猛烈なスピードで発達してきて、すでに誌面のデザイ

編集者は本をつくるたびに洗脳されている!?

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 今回は、「編集者は自分がつくった本の影響を受けまくる」というお話をしたいと思います。 皆さんは、一冊の本がどれくらいの制作期間でつくられるのかご存じでしょうか? 書籍の制作期間は、数年かかるものもあれば、場合によっては2〜3ヵ月という非常に短いスパンで完成させるものもありますが、ざっくり平均すると半年くらいかかります。 一冊の本に付き合う期間はけっこう長く、その間、その本で扱うジャンルについてかなり研究することになりますし、著

原作をリメイクする場合に「改変」はどこまで許されるのか?

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 年明け最初の記事になりますが、年始からいろいろと暗いニュースが多くて、(多くの皆さんがそうだと思いますが)心が少し「しんどい」です。 年度末に向けた忙しさもあるのでしょうが、社会全体のネガティブな雰囲気に晒されつづけると、マインドがそっち方向に引きずられてしまって、なかなかよろしくないような気がします。 スポーツくらいですよ、明るいニュースは(前田穂南選手、本当にありがとう!)。 さて、漫画原作のドラマ化問題で、最悪の結果とな

新人ライターや編集者に教えている「文章の読みやすさは“中継点”が大事」

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 この年末にかけ、年度末までに発売される書籍たちの原稿執筆に全力投球中のライターさんも多いのではないでしょうか? 私もそのひとり。 マジでやばい……お腹痛い……と、毎年同じような状況を繰り返している割に、無事に年を越している不思議さよ。 ということで、今年も現在進行形で取り組んでいる「年末原稿地獄」中に気づいた文章のコツをお伝えしたいと思います。 さて、今回のテーマは「読みやすい文章に整えるコツ」についてです。 私の場合はそ

出版業界が「改革前夜」っぽい雰囲気になり始めているような気がする件

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 なんとも歯切れの悪いタイトルですよね? 今回は、出版業界にまつわる“ポツラポツラ”とした最近の話題にふれ、なんとなく感じた「変革の雰囲気」について、極めて個人的かつ、正直な思いを綴りたいと思います(笑)。 無人書店「ほんたす」がオープン東京メトロと取次大手の日販、そしてディスプレイ業界大手の丹青社が組んで、溜池山王駅に9月にオープンした無人書店。 冷凍餃子とかの無人店舗はよく見かけますが、ついに無人の書店が登場。店舗面積は約1

新人ライターや編集者に教えている「文章の面白さは“小ネタ”に宿る」

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 今回は、久々に「新人ライターや編集者に教えている」編として、文章についての個人的な見解を述べようと思います。 ところで、「読ませる文章」とか「面白い文章」って、書きたいとは思っているけれど、漠然としすぎていてよくわからないですよね? 読み手が、なにに興味を持ってくれているのか? なにを面白いと感じてくれているのか? おそらくは勘に頼るしかないと……。 方法論として、最初はそれでいいと思います。 これが面白いのでは? こう書け

発信者目線で「面白いだろう」と捻り出した本は売れず、こんな本が「必要だよね?」とユーザー目線でふんわり生まれた本ほど売れる問題

今宵、本の深みへ。 編プロのケーハクです。 主に実用のジャンルですが、これまでたくさんの本を企画したり、つくったりしてきました。 出版社からのオーダーを受け、企画立案から制作までマルっと一式請け負うわけですが、最近は「とにかくヒットする本をよろしく!」的な恐るべき依頼が増えてきました……。 特にはじめて取引をする出版社の場合は期待が大いに膨らんでいるようで、「すでに成功する気満々」で依頼してくることがほとんど。 こちらも継続的な受注がかかっているため、失敗が許されない

今の出版界に必要な人材は「優れた編集者」より「最強の商人」!?

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 正直、日本のコンテンツ制作力は、すごいと思います。 日本の書籍は、中国や台湾をはじめとするアジアでも人気。たとえば、日本で重版していないのに中国版のオファーが来たり、東洋医学の翻訳本をそっちが本場であろうはずの中国からオファーされたりします。 これは一例に過ぎませんが、とにかく、書店に並ぶ多彩なラインアップを眺めていると、きめ細かいこだわりが詰まった日本の書籍編集力はすごいな〜と、同業ながら感心しています。 書籍に限らず、漫画

出版編集の「売れる感覚が狂い始めている」問題

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 本が売れなくなってきた……! もう何十年も言われてきたことです。 とはいえ、「正直、そこそこ売れてたし」などと、こっそり他人事っぽく思っていた編集者も少なからずいたと思います。 重版に恵まれた幸せな編集者たちが……。 実際、出版社所属の編集者の多くは、年間の新刊ノルマ●冊をリリースするわけで、一冊も当たらないということは、あまり見かけたことがありません。まあ、たしかにハズレも多いということで、担当本がヒットしてもあまり吹聴せず、

出版編集の「揉めごとは対人コミュニケーションに尽きる」問題

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 編集者は、常に多くの案件を同時進行させているわけですが、その中でトラブルが発生してしまう案件も少なくありません。 本づくりの工程において、原稿を書くとか、ラフを切るとか、専門職ならではといえる作業に関するものは、それほど問題になることは少なく(質が低い・スピードが遅いなど個人の問題はあるけれど)、むしろ一般的な仕事と同様に、人と人とのコミュニケーションに関するトラブルがほとんどだといえます。 制作進行が思わしくない案件の背景には

新人ライターや編集者に教えている「文章は“リズムと通り”で読みやすく」

今宵、本の深みへ。 編プロのケーハクです。 先日、とある大物の某先生が、某通信社との修正のやりとりで交渉決裂したという文章を、SNS上に公開するといった出来事がありました。 なにやら担当編集が「体言止めが美しい」という理由で、20ヶ所以上の赤字を入れてきたことが原因なのだとか。 「なるほど」 この展開からすると、完全に編集者が悪者になる感じだな〜と思っていたら、やはり「直す箇所がない!」といった執筆者擁護の反応がほとんどを占めていました。 そもそも、寄稿文なのだから

出版社の「冒険しない」問題

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 今回は、本の顔「カバーデザイン」の話です。シュッパン前夜chでも、ブックデザイナーの鈴木大輔さんをゲストに、いろいろと意見を交わしたのですが、その中で意気投合した話題が「出版社は冒険を避けがち」ということでした。 私のような編プロの編集者や、デザイナーさんは、提案するけれど、決定権がありません。カバーデザインは、最終的に出版社の意向で決まっていくのが普通です。 で、我々のような作り手側としては、ライバルである類書に勝ちたいし、面

世界一まとめきれていないインタビュー論

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 現在、私たちのYouTube番組「シュッパン前夜ch」では、スポーツメディア編を展開中。その中でゲストであるスポーツライターの方々とインタビューのテクニックの話になったのですが…… 「取材対象者に仮説をぶつける」取材前に入念な準備をしたうえで仮説を立て、それをある種「決めつけ」のような形で取材対象者であるアスリートたちにぶつけるそうです。 それが当たっていれば、相手は「よくぞわかってくれた」と話してくれますし、外れていたとしても

「タイパの時代」の本づくりは、高難度のつくり込みが必要になっていく!?

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。 “タイパ”とは、“タイムパフォーマンス”のことらしいです。 最近、よく聞きませんか? 「映画を2倍速で観る」とか、「音楽はサビから始まらないとヒットしない」とか。 全般的に人々の情報処理がめっちゃ速い!? SNS、動画配信、音楽配信、ゲーム、その他の趣味etc. ここ数年で気付かぬうちに個人で楽しめる多様なコンテンツが激増していたわけです。 つまり、やることがたくさん! 仕事だけでなく、自由に使える可処分時間も熾烈なタイムマネ