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書影のハナシ  『最高の走り方』について

 書影、と書いて、しょえい、と読む。編集者界隈では「書影、遅くとも今月中旬までに決めないとやばいです〜」なんて口にされていますが、ふつう読めなくないですか?? 少なくとも私、雑誌編集者時代は口にしたことがありませんでした。
 ひょういち、と呼ばれることもあります。ちなみにひょうに、ひょうさん、ひょうよんもあります(詳しくは『本の用語辞典』参照)。
 ざっくりいうと、カバー表紙のオモテ部分、ですね。書名や著者名が載っている部分です。みなさんが見ているAmazonに載っているのも書影です。表紙、と呼ぶほうがわかりやすいかもしれません。でも「表紙」だと、カバー表紙を取り外した本体表紙を指すことが多いので、あえて私たちはカバー表紙と本体表紙は分けて呼ぶのです(これを間違えると事故の元になる……!)。
かつ、帯(これも『本の用語辞典』を参照してね)は外した状態のものを指します。

優秀な書影の条件とは?


 この書影に、編集者はけっこう気合を入れます
むかーし、音楽を聴く手段がレコードだった時、その入れ物はジャケットと称され、ジャケットのカッコよさだけで購入に至る行為を私たちは“ジャケ買い”と呼んでいました。実用書の場合、読者は見た目のカッコ良さよりまずは中身が果たして自分が必要としている情報を満たしているかどうかのほうを重視するので、“ジャケ買い”される機会は少ないかもしれません。しかし、満たしていると思ってもらえるジャケットならば、じっくり書店で検討せずとも、Amazonでポチってもらえるわけです。
おそらく私をはじめ、多くの実用書の編集者は、カッコよさよりもコチラを重視して書影作りに気合を入れているでしょう。でもね、贅沢を言えばね、その本の特長(どんな人に向けて、どんなグッドな情報を載せている本か)がストレートに伝わり、かつカッコよかったり、キュートだったり、抱きしめたくなったり、つまりはジャケ買いしてもらえるデザインであればもっとグッドなわけです。
 もちろん、デザインするのはデザイナーさんなので、編集者の思惑がきちんとデザイナーに伝わっていないと、ピンとこない書影が出来上がってきます。

ビフォアアフターの違いに愕然!


 前説が長くなりました。今日のハナシは、この編集者の思惑がきちんとデザイナーに受け止められ、しかもカッコ良いデザインに仕上がった、グッドで幸せな書影についてのハナシです。
該当書籍は『最高の走り方』(2019年11月発売、小学館刊)、まずはこの書影を見てください。

表1_最高の走り方」

 著者は、筑波大学男子駅伝監督の弘山勉さん。狙う読者層は、サブ4以上を目指すサラリーマンランナー。編集サイドがデザイナーに強く伝えたのは、以下の2点でした。

◎書名を大きくしてほしい。文字の配置を工夫して、ネット書店の小さな書影でも署名がパッと目に入るようにしたい。
◎帯を巻く予定はないので、あえて下半分は帯を巻いたかのようなデザインにしてほしい。そこに惹句を並べてほしい。

ちなみに、これ↓が依頼時にデザイナーに渡したラフ画です。

書影ラフ_最高の走り方


 このビフォアアフター、すばらしいと思いませんか! 私は全く走らない(走れない)非ランナーですが、それでもこの案が送られてきた時は、痺れましたもん。あえて黒と銀だけを使ったシンプルな色味。実は計算され尽くした書体チョイスと字間行間! 著者のストイックな指導内容ともリンクしており、まさに「本書の特徴」と「カッコよさ」が両立した幸せな書影となったのです。
 実は、発売日には帯が巻かれた状態(=下半分のデザインは見えない)で書店に置かれたのですが、なぜそうなったかについては、また後日。。。。。。

(文/マルチーズ竹下)

<取り上げた本>
最高の走り方』弘山勉 著 小学館
◆カバーデザイン=渡邊民人(TYPEFACE)
◆企画・編集=千葉慶博(KWC)

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