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多額の借金苦から夜逃げした父子が、小説家として成り上がる!

こんにちは、フリー編集者の元塚Bです。
以前このnoteでもご紹介した作家の矢月秀作氏。
その半生は、父親の事業失敗にともなう多額の借金、夜逃げ、ヤクザに追われる日々……と実に波乱万丈でした。
今回はそんな矢月氏に、作家を志すようになるまでの、若き日々を語ってもらいました。

元公安の父

作家・矢月秀作は1964年、兵庫に生まれます。
当時、矢月一家は警察の官舎で暮らしていました。
父は公安のデカとして危険な任務に就いており、幼い矢月氏は父が家にいた記憶はほとんどなかったと言います。
ところが、矢月氏が5歳の頃。
父は警察を辞め、自ら事業を行うようになります。

あっという間に借金〇億円!

父は故郷である大分県別府市に戻り、まず、手芸店を始めましたが、すぐに失敗します。
しかし、不動産業を始めると、高度経済成長の波に乗り、金回りがよくなります。
父は事業を拡大し、飲食店、小売店なども手掛けるように。
すると見る間に経営は行き詰まり……ほうぼうから借金することになりました。
「暴対法」など出来る、はるか前の時代――借入先には暴力団関係の金融会社も含まれていました。
その利子はすさまじく、借金は見る間に数億へと膨らみます。
間もなく、家や店の周辺を、怪しい連中がうろつき始めます。
元公安の父は、一家に近づきつつある危険を、敏感に察知していました――。

「逃げるぞ」

あるとき、父が言いました。
「逃げるぞ。まずは女からだ。売られるからな」
すぐさま、母と妹の2人が、「旅行」に出ました。
それから数日、父と矢月氏は普段通りの生活を心がけます。
そしてある晩、矢月宅を見張っていたヤクザが交代するタイミングを見計らい、父・息子も家を抜けだし、知り合いの車に乗り込みました。
「後部座席に乗り込んで、見つからんよう毛布かぶってな。あんとき国道から見た景色は、今でも忘れられんわ。もう二度とここには戻ってこれんだろうなと思ってな」
矢月氏、18歳の時である。

偽名で生きるには……小説家になろう

母・妹、父・矢月氏はそれぞれ別ルートを取って北上、神奈川で落ちあいます。
しばらくは親戚宅に身を寄せましたが、間もなくヤクザやチンピラも追ってきました。
時は昭和末期。反社がまだまだ勢いのあった時代です。
矢月家の債権は裏社会を流れてゆき、膨れ上がったその利権に、様々な連中が群がっていたのです。
間もなく、矢月家は東京のボロアパートへ。
しかし、「足が付く」ため、住民票は大分から動かせない。
もちろん、名前も偽らざるを得ない。
そんな暮らしでは、まともな職に就くことはできません。
布団もテレビもない暮らしの中で、唯一の楽しみが古書店で買った文庫本でした。
それを読んでいた時、父に名案が浮上します。
「おい、作家になれば、偽名で食っていけるぞ」
その一言で、父と息子は作家を目指すことになります。
この時、矢月氏は20歳。

数年後――
父は作家・龍一京(りゅう・いっきょう)として世に出ることとなります。
一方、矢月秀作が「もぐら」シリーズでミリオンセラーを飛ばすまで、さらに20年以上の歳月を要すこととなります……
(つづく)

(文◎元塚B)

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