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「空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集」 寮美千子



「詩など、ほとんど書いたことのない彼らには、うまく書こう、という作為もありません。だからこそ生まれる、宝石のような言葉たち。心のうちには、こんなに無垢で美しい思いが息づき、豊かな世界が広がっています。」



「空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集」  寮美千子



Aくんはたった1行の詩を書きました。


くも

空が青いから白をえらんだのです



Aくんのお母さんは、お父さんにいつも殴られていました。

「おとうさんは、体の弱いおかあさんをいつも殴っていた。ぼく、小さかったから、何もできなくて・・・・・・」


おかあさんの最期の言葉を思い出して、上記の詩を書きました。

「つらいことがあったら、空を見て。そこにわたしがいるから」


寮美千子さんは奈良少年刑務所で、受刑者たちに詩と童話の授業を依頼されました。「社会性涵養プログラム」と名付けられたプロジェクトです。


寮さんは次のように刑務所からお願いされました。

「家庭では育児放棄され、まわりにお手本になる大人もなく、学校では落ちこぼれの問題児で先生からもまともに相手にしてもらえず、かといって福祉の網の目にはかからなかった。

そんな、いちばん光の当たりにくいところにいた子が多いんです。ですから、情緒が耕されていない。荒地のままです。自分自身でも、自分の感情がわからなかったりする。

でも、感情がないわけではない。感情は抑圧され、溜まりに溜まり、ある日何かのきっかけで爆発する。

そんなことで、結果的に不幸な犯罪となってしまったというケースもいくつもあります。先生には、童話や詩を通じて、あの子たちの情緒を耕していただきたい」


寮さんの挑戦がはじまりました。


絵本や詩を声に出して読み、一人一人少年たちに感想を聞いていく。


回を重ねるごとに、少年たちの表現がのびのびとしてきたそうです。


そして


彼らに詩を書いてもらい、みんなでその詩の感想を述べあうという授業をしました。


すると


たったそれだけのことで目の前の彼らが、魔法のようにみるみる変わっていったと寮さんは語っています。


さきほどのAくんの詩を朗読したあと、少年たちがつぎつぎと語りだしたといいます。

「ぼくは、おかあさんを知りません。でも、この詩を読んで、空を見たら、ぼくもおかあさんに会えるような気がしました。」と言った子は、おいおいと泣きだしました。


いつも語っている言葉や、日常の会話の言葉とは違う次元の心で創作される言葉は、人の心の奥の奥を揺さぶる何かがあるのでしょう。


寮さんは詩の力に驚きました。

わたし自身、詩を書く者であるのに、詩の言葉をどこかで信用していなかった。詩人という人々のもてあそぶ高級な玩具ではないか、と思っている節さえあった。

けれど、この教室をやってみて、わたしは「詩の力」を思い知らされた。詩など、なんの関係もなかった彼らのなかから出てくる言葉。

その言葉が、どのように人と人をつなぎ、人を変え、心を育てていくかを目の当たりにした。それは、日常の言語とは明らかに違う。

出来不出来など、関係ない。うまいへたもない。

「詩」のつもりで書いた言葉がそこに存在し、それをみんなで共有する「場」を持つだけで、それは本物の「詩」になり、深い交流が生まれるのだ。


詩は想像力を鍛え、情緒を育て、人と共有することによって、深い深い絆が生まれるのです。


学校でも、このような授業があるといいのですが・・・・・・


そうすると、いじめや犯罪が未然に防げるのではないかと、この本を読んで考えました。


少年たちの純粋な心の詩がたくさん詰まっているこの本の中から、ひとつの詩を紹介させていただきます。


誓い

幼い頃、ぼくは心に誓った


母さんを守ろうと


いろんな人たちから


とくに父さんから


小さなぼくは 父さんに向かっていった


その攻撃の矛先を ぼくに向けたくて


けれども どうすることもできず


殴られる母さんの体の下 ぼくは泣いた


なにもできない自分が悔しくて


母さんは 殴られても殴られても じっと耐え


涙もみせず やさしい声で ぼくに言った


「だいじょうぶ すぐに恐くなくなるからね」


いつか強くなって ぼくが母さんを守るんだ


って思ったのに ごめん 遅すぎたね


母さんは天国に逝ってしまった


やっと 強くなれたよ


だから この力で守っていくよ


これからは ぼくの大切な人たちを



【出典】

「空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集」   寮美千子 新潮社


いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。