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催眠術が掛かる仕組み(新バージョン)

 一般的に催眠術の掛かる仕組みとして今までは氷山の一角モデルが採用されていたのですが、数年前から新しい”催眠術に掛かる仕組み”新催眠理論が出てくるようになったので私自身も新モデルへと移行することにしました。

 旧バージョンはこちらからどうぞ↓

一応、こちらのほうでもおさらいしていきます。

旧催眠理論

 旧催眠理論(古いバージョン)では主に氷山の一角モデルを採用した説明になっていました。

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人の心には自分で意識することができる「顕在意識」(意識)と意識できない本能的な「潜在意識」(無意識)が存在していて催眠誘導で顕在意識を0%にして潜在意識を100%にすることによって、どんな暗示でも潜在意識が反応して「言われた通り」だと処理を行うため意識しなくても暗示を掛けられると身体が勝手に動いたりする

のですよ。という理論が”今までの多く”の催眠術師さんや催眠療法士さんが使っていた理論だったと思います。(前意識など色々とありますが一般的な催眠理論の説明なのでここでは省略します)

 しかし、この氷山の一角モデルを使った催眠理論の場合「催眠状態に入っているのになぜ暗示を受け付けない人がいるのか?」「意識が0%になってしまっているため潜在意識が100%だと催眠を解いたときに意識が催眠に掛かっていたということが分からないため催眠に掛かったことが言えないが無いはず」覚醒催眠術(催眠状態にさせずに暗示を掛ける、ソ連中国式の催眠)に掛かる人はなぜか?」ということを説明できないので一部の催眠術師さんたちが氷山の一角モデルを捨てて新しい理論探しを行いました。

 余談ではありますが、SNSやブログ上で説明されている催眠理論は上記の氷山の一角モデルが大半を占め、大脳新皮質や大脳辺縁系、脳波のα波θ波、前頭葉の帯状回などの脳を使った説明が出来ていない、書かれていないため非常に残念に思います。他所の催眠術師さん催眠療法士さんメンタリストさんも「これだけじゃ少なすぎる」というほどです。

新モデルー脳幹モデル

 催眠新理論は「脳幹」を用いたモデルになります。
正式にはRAS(網様体賦活系)です。

 脳幹を用いた催眠理論の説明は昭和期の日本の催眠業界にはメジャーなもの(藤本正雄氏や平井富雄氏などが活躍した時代)でしたが、平成の2000年代に入るとフロイト氏の「氷山の一角モデル」で書かれた国内の催眠の入門書が増えたため一斉に催眠関係者が氷山の一角モデルを使うようになりました。インターネットなどでは催眠に関する情報が存在する(少ないですが...)ため、ネットのみの情報で済ませ説明が不十分で催眠術を使っている催眠家を作り出しているということも考えられます。

 言語催眠(古典催眠や初期のエリクソニアン催眠)では、(言語)「言葉」をベースとして被験者に語りかけ催眠状態へと誘導していきます。

 言語は「音」であり振動で、暗示は

外耳道を通り鼓膜で受け、耳小骨に伝わり鼓膜と共に耳小骨が振動します。さらに内耳の蝸牛に伝わり内耳内のリンパ液が内耳内で振動有毛細胞を動かします。細胞が感知した振動は電気信号に変換され蝸牛神経を通過、最終的に大脳の聴覚野へと伝わり暗示(言語や音)として認識されます。

 ここまでは「音」の伝わるしくみと変わりはありません。

 私たちが行っている実際の催眠の説明は、旧催眠理論の『意識を0%にして無意識を100%にする』というものではなくあくまでも「意識を休ませる」というスタイルで説明を行っています。催眠を掛ける際には、目を閉じて貰い視覚情報を遮断した状態で暗示を掛けていくことがメインであったり一点を見つめさせて隣から暗示を掛けさせていただくということが多いのです。

 一点を見つめさせて催眠状態にする方法に【固定凝視法】という方法が存在するのですが、一点を見つめさせることによって”大脳新皮質””視覚野”に刺激を集中的に与えます。脳幹にある網様体賦活系(RAS)は刺激に反応して刺激のある部分だけを活動させてそれ以外は活動が低下することになります。つまり、固定凝視法の場合は視覚野が活発的に活動しているということになります。他の部分は活動が低下し休んでおり視覚野への刺激が強いため賦活作用が弱ってしまいます。「力抜ける」「身体の緊張がほぐれる」と暗示を与えると身体の緊張や力などが休み最終的には、”全体”の大脳新皮質が休み放心状態(催眠状態)に入ります。

 この理論を「ステージとスポットライト」として分かりやすく更に進化した理論で説明したのが日本催眠術倶楽部の田村通章先生の「RAS理論」です。

脳波と催眠状態

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 先ほどの脳幹モデルの理論を思い出してみましょう。
固定凝視法から大脳新皮質を低下させる際に「身体の力が抜ける」「リラックス」という暗示を与えていきましたが、これはリラックスさせることによりそれぞれの感覚器官の刺激を低下させて行きました。

 水の流れの無いプールでプカプカと浮かぶときのことを想像してみてください。思いっきり力は入れていないですよね。そしてプカプカと浮かんでいると手や脚の感覚が無くなって行きます。

 身体の力が抜けるという暗示を入れることによって身体(腕や脚、首や肩など)の筋肉の電気信号の活動を低下させて脳へ送られる刺激が減り負担が弱まり先ほどの視覚野への集中の刺激が集中することになります。余計な情報を入れないために器官の情報を遮断していくのです。

 催眠術師さんがセッションやショーのときに『催眠術は”集中”とリラックス”と”イメージ力”です』というのはこのような理由が上げられます。

  なので、この方法では道に歩いている人や他のことに集中している人もしくは催眠術に掛かることを嫌がっている怖がっている人には掛けることができません。私のことを怖がって避ける人もいらっしゃいますがこれらの内容を理解することで怖がることも少なくなるでしょう。

 アニメや映画のマネで相手の了承なく道端でいきなり古典催眠などを掛けるものなら警察沙汰になることは間違いでしょうね(笑)

 この催眠状態(寝るか寝ないかの中間の身体が熱くリラックスした状態)になると脳波が起きている状態に流れるβ(ベータ)波からリラックスした際に流れるα(アルファ)波へと下がっていきます。
 しかし、これは暗示によって人工的に行われているため完全に眠っている(δ(デルタ)波)訳ではありません。あくまでも感覚を遮断して「放心状態」を作っています。完璧に眠らせてしまうとテレビの催眠術や実際の催眠セッションのようにすぐに目を覚ますことはないので、催眠に掛かっている被験者はもちろんのこと”何を言われている”か”掛けられているのかわかります”し”記憶にも残って”います

 余談ではありますが催眠を受けた人からはには「催眠術というより覚醒術のほうがいいのではないか?」「何言われたのかハッキリしているのだけれど抵抗することができなくてただ聞いている感じ。でも目を覚ましたときには暗示どおりになっているから不思議」「全然眠っていない。身体はダルい感じだけど...」と言ったような感想をいただくことがあります。

 リラックスだけでの催眠では「力が入らない」などの身体に反応する暗示しか受け入れられない場合があります。なのでテレビであるような催眠術を再現するのであれば被験者がその場にいるかのような臨場感(リアリティ)を感じさせるため更に催眠状態を深めて行く必要があります。これを深化法と呼ぶのですが、深化法を行った後の被験者は中程度の催眠(味覚・嗅覚・感覚支配)や深い催眠状態(視覚(幻覚)聴覚(幻聴)記憶支配)になります。深化法を行うと同時に脳波もα波からθ波へと下がっていきます

 つまり、この記事で言う催眠状態とは、一点の集中による刺激や身体の弛緩による感覚器官の情報遮断で大脳新皮質の活動が低下して大脳辺縁系と脳幹の2つが活動している状態だと言えます。この説明を『脳幹モデル』や『RASモデル』と私たちは呼んでいます。

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 確かに、これまでの説明を行うと氷山モデルと全く同じではないか!と思われるかも知れません。ですが最初に記述した旧理論のところの文章に一旦戻ってみて下さい。氷山モデルとよく勘違いされるのは氷山モデル場合だと「大脳新皮質」と「大脳辺縁系」のみでしか説明することができないからです。元である脳幹の説明が無く(氷山図では当てはめるところがありません)私たちの説明はあくまでも「休ませる」ということであって氷山の意識の部分を海に満たして100%にするというというものではないですよということを言いたいのです。なので氷山の一角モデルとは違いますよと書きました。

催眠術に掛かりやすい人とそうでない人

 これは催眠術を説明する上で一番難しく困る質問の一つです。
残念がらこの理論よりも更に仮説の仮説であり未だに多くの議論が絶えません。
 私の実際のセッションを含め比較的に”女性のかた”が多くの興味を示してくださり男性に比べて積極的で掛かる方が多いような気がします。男性でも掛かる人は多いのですが自ら掛けてくれて言ってくるかたは女性よりかは少数です。
 脳梁の先端が大きい人ほど脳波のθ波が増加傾向あると言われていますがどうかわかりません。過去に女性の脳梁が太く男性脳梁が細いという「男性脳」「女性脳」理論も存在していたのですが、近年の海外の研究でMRIで脳をスキャンし直したところ男女とも大きな差は観られないということで上記の「男性脳&女性脳」理論は白紙になってしまったこともあり『どんな人が掛かりやすいのか?』ということが全く答えられない(謎)のが現状です。


暗示が入る仕組み

 暗示が入る仕組みとしては前頭葉「帯状回」という部分に関係していると言われています。帯状回は”矛盾”を発見することで知られていますが帯状回が抑えられているので例えば、『腕が動かせない』と暗示を掛けても矛盾を発見する部位が抑えられているため潜在意識と言われている大脳辺縁系(本能)がそうなんだと受け入れてしまい反応してしまうということです。なのでテレビの催眠術で観るような操られているように見えてしまうのはこのような理由です。

 12歳未満の多くのこどもたちが暗示に反応しやすいそうで前頭葉の成長過程であるため掛かりやすいこどもが多いのだとか。

 母親の「痛いの痛いのとんでいけー」も暗示の一種です。
大人が言われると「飛んでいくわけないだろう」と言うのが普通なのですがこどもの場合それが本当のように感じるためこの説はありえるのかもしれません。

 逆に暗示を嫌がる人は暗示を拒否することが可能です。本能的に嫌がっていたり催眠に納得が行っていない人は、緊張や恐怖心で他のところに集中が行っているため完全にリラックスや集中が出来ない状態になっており催眠を受け入れることが難しくなっています。

 なのでリラックスと集中がどうしても出来ない場合は催眠を行う催眠術師や催眠療法士側もその日は催眠を行わなかったりします。

一般的な催眠セッションの流れ

ラポール
ページング
被暗示テスト
催眠誘導
深化法
暗示挿入
後催眠暗示
覚醒

ラポール

 一般的な古典催眠術の掛けかたとして「ラポール」(信頼)関係を結びます。催眠を掛ける側と受ける側の関係で、被験者は術者の説明を受けます。術者側は被験者の質問や不安などに答えテレビや小説、アニメなどによる誤った催眠の使いかたや見落とされた部分について説明を行い洗脳を解いていきます。

 催眠術はこういうものであるという説明を行ったり被験者の催眠に対するイメージを本来のものに導きます。被験者が納得や興味を示したり掛かってみたい!という意志が出ればページングへと移ります。

ページング

 ページングを行わずに思いやりや慈悲を行うことを優先して行うところもあり私も思いやりや慈悲などで掛けていきたいという考えではあります。一般的にはページングといい相手のペースに合わせることを行います。相手の呼吸であったりしぐさや動作をバレない程度に行うのですが、個人的には先ほども申し上げました通り呼吸や慈悲で大丈夫ではないかなと思います。

被暗示テスト

 催眠に掛かりやすいかどうかのテストです。掛かる人、ヒトそれぞれであり硬直タイプ(例えば腕が固まる)もいれば、硬直暗示が掛からず脱力暗示(力抜けて行く)が入っていく被験者さんもいらっしゃいます。よく、掛からなかったから残念がる被験者さんもいらっしゃいますが心配はありません。トレーニングを重ねたり、何回もセッションを繰り返したり違うタイプのテストを行うことによってどの暗示から入りやすいかを確かめるためのものです。大体の責任は術者側にあると考えて下さい。追い込み暗示の不足かタイプ別をレパートリーを知らない場合があります。

タイプ別
硬直系・・・手が固まる、指が離せない
脱力系・・・腕が重い、力が入らない、力が抜ける
感覚系・・・手がしびれる、手があつい
呼吸系・・・呼吸が楽になる、ボッーとする
嗅覚系
・・・暗示通りの匂いがする
運動系・・・勝手に動く、勝手に倒れる

など

 術者は被験者から得たテスト結果から被験者にあった催眠誘導を行っていきます。

催眠誘導

 先ほどのテストで例えば「脱力系」の結果が出たとするならば、最初の【脳幹モデル】の感覚遮断として視覚情報を遮断するために『まぶたが重たくなって自分で開くことができない』『まぶたに力が入らなくて落ちてしまう』というような暗示を掛けて行きます。

 そして追い込むように”まぶた”から

顔 → 頭 → 首 → 肩 → 背中 → 腰 → 両腕 → 手 → 太もも → 膝 → 脚 → 足

の順番に脱力させていきます。
 そうすることで脳への負担を低下させます。
 被験者さんが催眠状態になると催眠誘導が完了します。被験者さんはボーッと目を閉じた状態で気持ちよくなっているはずです。

深化法

 催眠状態を深めるために「数をゆっくりと逆に数え更に呼吸を深く」したり「身体を熱くさせたり、冷えさせたり」「階段を昇り降りさせたり」しながらストレスを与えより更にリアリティを感じて貰うというやりかたです。

暗示挿入

 催眠状態が深くなったところで術者は被験者さんに本題である暗示を挿入していきます。被験者さんは催眠に掛かるまえに術者の事前のラポール時のヒアリングで何をしたいかということを話しているはずなのでその暗示が入ります。

後催眠暗示

 催眠を掛けて反応が出た後は、その暗示が外れないようにホメオスタシスを利用して固定します。 基本的に催眠術は一晩寝ると暗示が解けてしまいす。これは恒常生維持(ホメオスタシス)が「元の状態へともどれ」と命令しているので元へ戻るようになっています。ヒプノセラピー(催眠療法)などでは外れないように暗示が続くように更に暗示を入れていきます。今回は説明なので詳しくは書きません。

催眠完全覚醒暗示

 催眠の世界は終了です。覚醒暗示で目を覚まします。お疲れ様でした−。

というのが催眠セッションのざっくりな流れです。

まとめ

近年採用されている催眠術が掛かる仕組みのモデルは『脳幹』を使った理論へとモデルチェンジされて来ている。
心理学だけの説明だけでは足りなかったり説得力が弱い場合がある。

参考文献

古典催眠術の理論と実践 ー 飯島 章 (2019) : プラウド出版
自己催眠術―劣等感からの解放・6つの方法 ー 平井 富雄 (1967) : 光文社
奇跡のスーパー催眠術ー心身の健康/催眠誘導/精神感応/自己催眠法/性格改造/ビジネスと美容の応用 ー 藤本正雄 (1985) : 三心堂
潜在能力を引き出す中国催眠療法全書 ー 銭 寿海 、柳田 親作 (1999) : 現代書林
脳と心の秘密がわかる本 ー 木村 昌幹 、科学雑学研究倶楽部 (2016) : 学研プラス
脳には妙なクセがある ー 池谷裕二 (2012) : 扶桑社

記事

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イラスト ー Sihirli

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