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CHIMERA ~嵌合体~ 第一章/第三話 『繚』


○○○○年
 〇月 〇日

将 官  牟田口 准将 

chimera捕獲・討伐任務 報告書

  1. 目的 Bオブジェクト(obj)から排出されたB-1.B-2.B-3体の捕獲もしくは排除

  2. 期間 7日間

  3. 結果 obj3体は排除済み 不随対象1体逃亡中

詳細・経緯

⑴先発隊15名
 内訳 伍長1名 上等兵4名 二等兵~三等兵4名 研究所警備員6名
 生存者5名うち重傷者2名
 死者10名 KIA

 後発隊52名 重傷者5名

⑵孵化後に逃亡したobj3体の捜索中、事故により研究所内が停電。
 電子ロックなどのシステムが停止し他objも逃亡。現場は混乱。
 先発隊にて援軍要請が入り、状況を艦見てobjの捕獲および駆除を優先にて後発隊を再編成した。

⑶先発隊の生存者の証言やレポート
 後発隊の現場報告、カメラ映像から抜粋し報告。
 映像は別に各役員へ送信済み。

以下、文字起こし音声データから


先発隊チームgreen 聴取音声データ 1


「地下、下水でなにがあったんだ?伍長の火傷はなぜだ?」

「・・・地下はとくに異常はありませんでした。下水へ向かうハッチが開いていましたので、そこで逃げられて繁殖でもされてしまうおそれがあり、いそいで捜索が必要だと判断し隊長へ無線連絡をいれてから、突入しました」

「そのあと突き当りの柵まで行き、なにかに襲われるところまでは映像があった。その後はどうなったんだ?」

※小刻みに2回頷く
「・・・捜索対象であるobjが突然、水中から飛び出して伍長の顔面に貼り付き襲ったんです。俺と、ロビーが必死に剥がそうとしましたがダメで、頭にキバをたて噛みつき、尻尾のような触手が口に・・・喉奥まで入りこみ内側からも完全にフォールドされているようでした。伍長は呼吸ができていない状態で・・・酸欠でいまにも死にそうでした。苦しんで暴れだし、一時をあらそう事態と収拾がつかなくなり火で・・・火炎放射器で炙れば離れるんじゃないかと考え、伍長もろとも浴びせました」

objは離れたのか?」

「はい、効果的でした。objは伍長から離れて水中にまた逃げだしました。俺は伍長の・・・伍長はビクとも動かなくなっていて、危ないと思いました。急いで消火し、蘇生措置を取りなんとか一命を取りとめました」

「そのときロバート隊員は?」

「ヤツを追っていきました。私は伍長を抱えてとりあえず下水道からの脱出をはかり、再度ロビーと合流しようとしました」

「そのあとに、”自爆”したのか」

「はい・・・おそらく、下水の反対側で伍長と同じ状況になったんだと思います・・・すいません、俺が先にロビーと捜索に当たっていれば・・・・・・」

「お前のおかげで伍長は助かったんだ。ロバートも色々覚悟しての判断だろう」

「・・・はい」

「チームyellow・・・ハインリヒ三等兵と合流したのはいつだ」

「爆発音のあと、私は伍長を抱えながらハシゴの下へついたころにハインツと合流できました。伍長をハインツに頼み、私はロビーの方へと駆け付けましたが・・・・・・」

「・・・そうか・・・わかった。ごくろうだった。ゆっくり休んでくれ」



後発隊 救助班ヘッドセットカメラデータ 1

◉REC

※3階、職員宿泊室
「な・・・なに、これは・・・」

ガッ・・・「みんな、そっちはどう?」

ザザッ・・・ガッ《・・・これは・・・死んでる》《・・・こっちもだ》

「まさか・・・全滅なの?!」

《他の部屋も・・・だめだ!》

「なぜ・・・生存者ゼロ?!」

ガッ・・・《救助班・・・地下に3名生存者発見。1名が重症・・・至急きてくれ・・・out》
ザザッ・・・《1階・・・2番エレベーター内に2名生存!1名が重症!こっちにもきてくれ!》

「行きましょう!あと3名きてちょうだい!2名は地下へ、1名は私と1階へ!あとの人たちは3階の全室を調べてて!」



※1階エレベータ内部



「大丈夫?!」

「・・・あぁ、助かった・・・・・・」
※女性隊員が重症者の傷口を必死に押さえている

「怪我はない?!」

「私は大丈夫です!この人を!お願い!」

「!!酷いわね・・・担架もってきて!」
※付き添った一名の救助隊へ指示

「みんなは?!部隊のみんなはどうなったの?!」
※ミシェル隊員が心配そうな顔で言いはなつ

「・・・大丈夫よ。地下でも生存者が確認されていま救出中よ。この人は、ここでなにがあったの?」

「この人は隊長と、アルマスと格闘して・・・私は隊長にこの人を任されて・・・出血も酷く・・・このフロアでアルマスが暴れていたので、隠れ場所としてここを選んだの」

「よくやったわ。あなたのおかげでこの人”は”なんとかなるかもしれない」

「・・・私たち部隊の隊長はどこに?」

「まだ分からないわ。私たちもここに到着したばかりだから」
※重症者の処置をしながら会話をしている

「モルヒネはもう打ったのね?」

「はい。だいぶ苦しんでたから・・・打ったあと直ぐに気を失ったわ」
※2名の救助隊が担架をもってくる

「お願いね。だいぶ出血しているわ。輸血しながら運んで」
※担架で運び出される

「あなた、3階の全職員がどうなったのか知ってる?」

「??いえ、ごめんなさい、ここの1階から上がることもできずに・・・延命措置と、逃げることしか・・・・・・」

「OK、あなたも早くここから出なさい。一応検査するのよ」

「私は、大丈夫よ。隊長を・・・みんなを探しに行くわ」

「・・・好きにしなさい。ただ、まだ対象オブジェクトの確保は終わってないわよ」

「だったらなおさらだわ」

「・・・これを持って行って」
※ヘッドセットと無線を渡す

「私たちは3階職員の救助を優先していたの。だけど3階には・・・今のところ1人も生存者がいなかったのよ。誰か生存者を見つけたら無線で教えてもらえる?」

「え?!1人も?・・・了解、任せて」

「私は地下の生存者の処置に行くけど、あなたも来る?」

「いえ・・・あ、後で行くわ」

「そう。じゃ、気を付けて」
※救助員は足早に階段を下りていく

「・・・隊長・・・・・・」
※ヘッドセットを装着しながらつぶやき、1階奥倉庫へと向かう



先発隊 ミシェル隊員ヘッドセットカメラデータ 1

◉REC

※前方から人影が見える

「・・・隊長!」
※応答がなく、すぐにその背後からもう一人の人影が表れる。2名の救助隊が担架を担ぎ運んでいた

「ま、待って、見せて!」
※担架で運ばれている全身を覆うシートをめくる

「!!・・・あ、あ・・・た、隊長・・・・・・」
※胴体から完全に分離した首が、目も片方は飛び出し半壊した頭部の無残な隊長の姿がミシェル隊員のカメラにしっかりと映しだされた

「・・・うぅ・・隊長ぉ・・・・・・」
※膝を落とし、泣き崩れる。状況を察した救助隊がシートを直ぐに戻し早々と担架を運び出す


「・・・・・・すみません・・・隊長」
※少しの時間、訓練をされているはずの隊員が悲しみを隠さずにいた。鼻をすすりガサガサと涙を拭う雑音がしたあと、立ち上がり心の踵を返すように走り出す



ガガガガガガッ・・・バンッ・・・バン・・・・・・
ドウン・・・ドウン・・・・・・
※遠くで激しい銃撃戦と爆発音が聞こえる



「!!」
※ミシェル隊員が階段を上がると二階の廊下、コントロール室前ではまた多くの死体が転がっている。人体のパーツがバラバラでもう誰がだれだか、人数すら識別が不可能な光景が広がる。後発隊の救助隊がそれぞれのパーツを調べている

「・・・うぅ・・・え」
※嗚咽とも、鳴き声とも取れる声を漏らす。コントロール室側の中央廊下は後発隊に任せるようにして右側通路を行く



「!!」
※前方に横たわる人物が見える

「おい!!」
※スライディングするように、呼びかけながら手をかける。微かに息がある

「救助隊!2階、”警備員”室前!生存者発見!すぐきて!」
※急いで無線で救助を呼ぶ

「な・・・なんなの、これは・・・・・・」
※眼球は両目とも潰されえぐられている。歯は全て折られ、顔は腫れあがり誰なのか識別すらできないほど殴打されている。耳は千切れ落ちそうになっていて、両手の残された数本の指の爪はすべて剥がされ、両腕両足の骨も砕かれている。

「これは・・・これではまるで・・・”拷問”!?・・・だれが?!」

「ころ・・・して・・・くれ・・・・頼む・・・・・・」
※画面が震える
「くる・・・しい、痛い・・・ブルー・・・ノ・・・やめてくれ」

「!!」

「殺し・・・てくれ・・・・・・」
※ミシェル隊員は周囲の警戒もせずにまた泣き崩れている。
少しして、ゆっくりとベレッタ90-Twoを取り出し銃口を隊員の頭に向ける

バンッ!・・・バンッ!・・・・・・

※2発の銃声後、間もなくして救助隊は”無言で”隊員の”遺体”を運び出す。ミシェル隊員がふさぎ込む頭のカメラ先の足元には、鍵穴に鍵が刺さったままの大きな”南京錠”が落ちていた



後発隊 救助班ヘッドセットカメラデータ 2

◉REC

「こ、こいつは・・・おい、データとしてしっかり撮っていてくれ」
※3階職員室内部で死んでいた職員を映している

「惨殺されている職員と、窒息している職員と2パターンあるが・・・窒息死であろう死体にはほとんど外傷がない。それどころか首などに絞殺の痕すらない・・・チアノーゼ反応が見られるので、死因は窒息で間違いなさそうだが・・・・・・」

「おい、こっちを見てくれ」
※部屋の入口から声をかけられ、隣の部屋に移動する


「・・・こっちは・・・脳が一部、食われているな」

ダダ・・・ダダダダッ!
※同じフロアで機銃の音が鳴る

「なんだ!objか?!」
※他三名の救助隊も駆けつける



ダダダダダダダダダダッ!
※10数名の討伐隊がBオブジェクトに二重編成で銃器を浴びせ続けている

「モスマンか!」
※救助隊はobjの暴れる姿にか、銃器の音や煙にか、後ずさりしている

「・・・陣形はそのまま!進め!」
※Bオブジェクトはかなりダメージを受けている様子で後方へ逃げていった

「このまま追い詰めるぞ!」
※討伐隊も前方へと進む

「・・・惨殺死体は、モスマンの仕業か・・・では酸欠死と脳を食ったやつはいったい・・・・・・」

※救助隊員が無線を取り出す
「XXX緊急、全救助隊ならびに全隊員へ、既存実験体以外の被害者と思われる遺体が多数発見。気をつけて・・・out」

ガッ・・・《・・・おい、誰かきてくれ。312号室だ》
※急いで向かう



「・・・どうした」

「・・・こいつ、objもろとも自分を打ち抜いてるな」
※B-3オブジェクトが研究員の顔に張り付いたまま死んでいる。研究員と実験体の死体が救助隊の背中からスライドするように映し出される

「なるほど・・・こいつの尻尾が口から気道に入り込み、窒息したのか・・・・・・」

「右手に銃がある。撃つ角度でも間違えたのか、自分の頭ごと撃ってともに即死だ」
※研究員の手にはライヒスリボルバーを握りしめている

「隣の部屋の職員は、普通に銃殺されている・・・ほか数名の”女性職員”もな。こいつがやったのか?」
※隣室へ移動し確認する

「本当だ・・・なにがあったんだ」
※足元の薬きょうを拾いビニール袋に入れる。女性職員の銃創を確認
「現場検証が必要そうな死体は動かさないほうがいいな」

「いや、すべての”死亡した生命体”は回収を命じられているだろう」

「しかし・・・これは・・・・・・」

「だから、回収されない今のうちに情報を集めておくんだよ。少しどいてくれないかい?」
※撮影側の救助隊が死体の写真を数枚撮っている

ザザッ・・・《リーダー、食われている死体は、死後12時間は経っていると思われます》

「おい!こっちにきてくれ!」
※すかさず無線ではなく廊下の先からこっちを呼ぶ声がし、すぐに向かう



「・・・こりゃ・・・何人か、”拷問”されてるぜ」

「こ、これは・・・酷いな・・・・・・」
※ミシェル隊員が発見した隊員のような研究員が横たわっている

「・・・ろっ骨もボロボロだ。死因は内臓破裂だろうが・・・その前にショック死してるだろうなこれでは」
※手足、指、顔、全てがぐにゃぐにゃにひしゃげている

「ここらの職員は他にも同じ状態だぜ。あと、少し向こうの廊下にも1体だ」
※廊下にでて確認しにいく

ガチャ・・・・・・
※そのすぐそばの部屋に入る

「ここの住人は『惨殺』だな・・・・・・」

「ああ、こいつはきっとモスマンだ。今のところこういった惨殺以外の拷問された死体の共通点は”黒人”だな。偶然か?」
※救助隊長のすぐ後ろにきていた隊員に語りかけられ振り返る。その顔は血の気が引いている

「・・・この死体は・・・まだ温かい。ついさっきのようだな」

「お、おい、いまは生存者の確認と撮影だけに専念しとこう。いつどこからまた変なバケモノが出てくるかわからないぜ・・・・・・」

「・・・ああ、わかった。いこう」



後発隊 討伐隊ヘッドセットカメラデータ 1

◉REC

※研究所の外部調査班

「兵長、こっちきてください」

「見つけたか?」

「いえ、先発隊の死体が・・・・・・」
※隊員はそれ以上、言葉を濁した。兵長も黙ってすぐ行動に移し隊員のあとを追う



「・・・どこだ?」

「上です」
※人が木の枝に引っ掛かっているように、うな垂れている

「・・・降ろしてやれ」

「イェッサー」
※隊員は銃器を降ろしさっそうと木を登る


「・・・兵長!こいつまだ息があります!」
※隊員は自分が装着しているハーネスを負傷している先発隊員に付けた

「だれか!ロープ投げてくれ!」
※投げ上げられたロープをハーネスに繋ぎ、下で待機している隊員に降ろすように指示をする。ゆっくりと慎重に降ろされてくる


「おい、大丈夫か?」
※朦朧とした意識で目をあける
「水だ。飲め」
※兵長は自分の水筒のふたを開け、先発隊員の口元に水を半ば強引に流し込む

「ゴホッ!ゴホ・・・あ、ありがとう・・・ございます」

「何があった?」

「アルマスが・・・おそらく・・裏手に・・・・・・」
※衛生兵が診察している。服を脱がすと胸部から腹部にかけ変色し酷い打撲痕が見られる。Dオブジェクトと格闘したようだ。衛生兵はこちら兵長のほうへ向き、首を左右に振る。多くの内臓が破裂していて手を尽くせない表情だ

「・・・そうか。よくやった。後はまかせろ」
※衛生兵は鎮痛剤(モルヒネ)を投与する

「お前はヒーローだ。よく俺たちがくるまで持ちこたえてくれた。敬意を表する」
※そういって頭に手を乗せる。先発隊員は微笑みながら、眠りについた

「・・・いくぞ!」
※研究所裏手へと足を急ぐ



※研究所外部の部隊は計20名で配備。10名づつに分けて建物を左右から裏手へと散開隊形(10M間隔)にて捜索


「・・・いたぞ!アルマスだ!撃てぇ!!」
バン!バン!バン!・・・・・・
※兵長を中心にした陣形の右側のほうで声と銃声がする。回り込むように陣形が右へと移動する

「まて!だれかを抱えてるぞ!撃ち方やめぇ!!」
※フィールドスコープを覗きながら無線で指示を出す。白衣を着た研究員らしき人をDオブジェクトが抱えている。銃声で部隊に気が付きobjはこっちに向かってくる

「こっちにくるぞ!!ハンス!足を狙え!」

「アイ・アイ・サー」

・・・ドウンッ!
※狙撃手が放つライフルの銃声が雑木林にこだまする。右膝に命中しDオブジェクトは倒れこみ、抱えていた人物も投げ出された

「いまだ!救助しろ!リモコンを持っていけ!」
※2名の隊員が迂回して救出に向かう

「ハンス待て!リモコンで捕獲を試みる。様子を見ろ。照準は外すなよ」
objは立ち上がろうとしている。先ほど狙撃された足以外もすでに血だらけで、まるで虫の息のようにも見える

「いいぞ、POW(捕虜)回収」
※1名の隊員が投げ出された研究員を確保し逃げるように離れる。もう1名はobjに近づきリモコンを向ける

「・・・テーザーガンを持って2名も近づけ。スティモシーバーが効かなかった場合、HK79を打ち込め」
※H&K HK79(グレネードランチャー)


「!!」
※隊員がリモコンを操作する動作を見せた直後、objは頭を押さえ苦しんでいるような仕草を見せるが、直ぐに隊員を強く突き飛ばした

「だめだ!やつにはあまり効かない!撃てぇ!!」
ドウン!・・・ドウン!
※ライフル
ガガガガガガッ!
※銃器でオブジェクトを足止めしている

・・・ポンッ!・・・ボウゥ・・・・・・
※H&K HK79(グレネードランチャー)が命中する。テルミット焼夷弾でobjが激しく炎上する

「やったぞ!」
※少しの間、暴れているのか苦しんでいるのか、間もなく酸欠によりobjは倒れこんだ


「大丈夫か?!」
※兵長が救出された研究員の元へ行き、浅倉 祥子に呼びかける・・・・・・


先発隊 ミシェル隊員ヘッドセットカメラデータ 2


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
※ミシェル隊員が2階の部屋を次々と開けていく

バババババッ・・・ダン・・・ダン
※また遠くから、上部から激しい銃声が聞こえる。3階のBオブジェクトとの銃撃戦の音だと思われる。その音を聞きつけ階段へ走り出す

バンッ!・・・バンッ!
※今度は近場でまた銃声がした。そちらへ踵をかえす


「!!」
※コントロール室で討伐隊員がBオブジェクトの分裂体B-1を撃っていた

「・・・やったの?」

「ああ・・・多分な・・・・・・」
※銃を構えB-1オブジェクトに近づく

「・・・死んでるわね」
※銃先でobjをひっくり返す

「ねぇ、C-1オブジェクト・・・ブルーノは見つかった?報告は入ってない?」

「ああ、まだだな。無線を聴くかぎり上でモスマンを発見したみたいだが、もう追いつめているだろうな。外でも交戦があったみたいだが、あっちはアルマスみたいだ」

「あなたたち討伐隊の無線周波数を教えてちょうだい」
※無線の表示画面をこっちに向ける

「ありがとう」
※自分の無線を合わせて部屋を飛び出す

ガッ・・・《SOS・・・研究所の外にてDオブジェクト討伐完了・・・裏側にて研究員1名救助・・・救助隊、誰かきてくれ・・・over》

「・・・外には逃げられないわね」
※ミシェル隊員は動かずに止まっている。なにか考えごとをしているようだ。間もなくして走り出し、1階へ向かった



後発隊 救助班ヘッドセットカメラデータ 2

◉REC

※2階 大野教授の自室兼用特別研究室

「おい、この部屋はなんだ?」

「ここは特別研究室・・・って、なっているな」

「開けろ」
※救助隊に数名配備された討伐隊員が指示をしている

ガチャ・・・・・・
※重い電子ロック式の扉がゆっくりと開く

「・・・誰も、いないのか?」

「・・・なんだ、この部屋は・・・・・・」
※あらゆる本が並べられた棚と、ホルマリン漬けにされたあらゆるパーツが入った瓶や水槽が立ち並ぶ。何の生物のどこの部位なのか、全くわからない。色んな薬品の臭いとともに、怪しい雰囲気がチームの全員を押し寄せているようだ。1名の隊員は廊下へと出て嗚咽している声と音が聞こえる

「・・・・・・」
※もう1名の隊員がハンドサインを送る。サインの先を見ると奥の部屋の床に血だまりが広がっている

「・・・・・・・」
※隊員の1人が部屋の壁沿いに開け放たれた扉の入口に向かう

バッ!
※勢いよく銃口を部屋の奥へと向けると、絶句したような反応を示す

「!!!」
※ヘッドカメラが点いた救助隊が部屋の内部へと入る。そこには人型ではあるがあきらかに異形な姿をしたobjが、大野教授を抱きかかえながら号泣していた

「オォォォォォォォォ・・・ウオォォォォォォ・・・・・・」
※まるで獣のような鳴き声で、全身は多毛に覆われている。顔は幼く、まるで10代のティーンエイジャーのような雰囲気の目鼻立ちだが、体は成人男性よりも大きい。が、女性アスリートのようなしなやかな筋肉質で力強く、objが大野教授を抱きしめている

「・・・なんだ、こいつは」
※objも大野教授も、一糸まとわぬ姿で床に伏している。教授の下半身はボロボロな状態になり血だらけで、確実に息は無さそうだ

「!!」
「ギィヤァァァァァァァ!!」
※objが部隊に気づき1名の隊員に襲い掛かる。隊員は簡単に後ろへと吹き飛ばされる

ガガガガガガッ!
バババババババッ!
バンバンバンバンッ!
※他の隊員と救助隊員が一斉に放射しobjは倒れこむ

「・・・やったか」

※じりじりと、虫の息状態で少しづつ動いている。しかしこっちには向かってきてはいない。教授の遺体の方へと進み、覆いかぶさるかのようにして倒れこむと、ピクとも動かなくなった


先発隊 ミシェル隊員ヘッドセットカメラデータ 3

◉REC

※1階C-1オブジェクトの部屋

「ブルーノ・・・ブルーノ・・・・・・」
※怒りを込めたつぶやきが、微かに聞こえながら扉が開かれる

「・・・こいつ・・・・・・」
※奥の檻の中にはいつも通りにしているC-1オブジェクトが、何食わぬ顔をしながら寝そべっていた

「・・・あ、あら、あなた・・・こ、ここにいたのね」
※ミシェル隊員は怒りと恐怖に震えた声をだしている。objの全身は返り血に塗れていて凄惨さを物語っている

「え、えらい子ねぇ・・・ずっとここにいたの?」
※震えた声で、平静を装いながら檻の扉へ近づく

「外は大変なことになってってね・・・あなたは大丈夫?」
※何も知らないフリをしながら優しく話しかけゆっくりと近づいている


「・・・・・・」
・・・ガチャ、ガチャ、ガチャン!
※隠し持っていた南京錠を扉にしっかりと掛けられた

「キイィィィィィィィ!」
※状況を理解したかのようにobjが檻の中からミシェル隊員へ手を伸ばし襲い掛かってくる。それをギリギリで避けた

「はぁ、はぁ、はぁ」
※緊張が解けたように大きく呼吸をしている

「はぁ・・・はぁ・・・あなた・・・ブルーノ。人間を”いじめた”でしょう・・・それを・・・楽しんでいるの?」
※恐怖が消え、怒りと圧力をかけるように語りかけだす

「復讐だとでも言いたいの?このバケモノ・・・武器を持った人間には敵わないことも知っていて、ここに戻ってきたんでしょう。アルマスやモスマンに任せて。あなたは自分の欲望だけを満たし、機を見ているのね?」
※ミシェル隊員はサブマシンガンの銃口を向けながら、檻の前を左右へ行ったり来たり、動きながら一方的に語り続けている

「私たちのような人間が現れなければ、楽に出ていくつもりだったのね。そしてもし人間がやってきたときのことも考えて、いまあなたはこうやってここにいる・・・でも、残念でした。私がきちゃったね」
※ヘルメットをヘッドセットごと頭から外し、床に置かれる

バン!バン!バン!
※画面がはじけ飛ぶ。さまざまな破片とともに画面が大きくゆれ、画面は真っ暗になる。が、マイクだけが生きていた。恐らくヘッドセットをミシェル隊員が打ち抜いたようで、ここからは音声のみ


「ずっとおかしいと思っていたのよ。停電で部屋の入口の電子ロックは解除しちゃったわ。でも、あなたたちのこの檻の錠はこのとおりアナログよ。なんでここも空いてるのよ。これもブルーノ、あなたの仕業でしょう!」

ガガガガガガガッ!
※突然、銃器の音が反響する
「もうあなたは!」
ガガガガガガッ!
「ヒトとしても!」
ガガガガガガッ!
「サルとしても!」
ガガガ!カチカチカチカチッ・・・・・・
「存在していてはいけないのよ!」
※弾を撃ち尽くした音だが、まだ撃ち続けている
カチカチカチカチ・・・・・・

「はぁ、はぁ、はぁ・・・そう、奥に隠れるのね。本当に、あなたは賢いわ」
objの檻内部は2部屋の構造になっていて、寝る場所として奥にスペースを設けている

「ふん・・・待ってなさい・・・・・・」



※ずっと静寂が続く。数分後・・・・・・



バシャ、バシャ・・・・・・
※水の滴るような音と浴びせられる音が続く

「みんなの、仲間の分まで、苦しみなさい」

ボゥッ・・・・・・
「キイィィ!」
ガシャン!ガシャン!
「キイィ!キイィィィィィ」
ガシャガシャ!
・・・・・・

objと思われる悲鳴とも奇声ともとれる叫び声と、小刻みに鉄がぶつかる音は、音声が途絶えるまで続いた



後発隊 討伐隊ヘッドセットカメラデータ 2


※辺りは硝煙と埃で視界が悪くなっている

「・・・やったか」
※10Mほど先に大きな物体が横たわっている。兵長がハンドサインを送る

バンッ!バンッ!
※指示された隊員がBオブジェクトの頭部に2発撃ちこみ、確実なるトドメを駄目押しする

「ふう・・・よし、いこう」
※隊はBオブジェクトをまたぐように研究所内を突き進む

「おい、この先のデカい部屋はなんだ?」

「はい『特別研究室』ってなってますね」

「”特別”・・・ねぇ。気をつけていこう」
※みんな目は威勢と狼狽、両方を兼ねた眼差しをしている

「兵長!」
※後方から呼ばれる声がし、すぐさま引き返す

「どうした」

「これを見て下さい」
※死亡したobjの足の間に一つの”卵”が転がっていた

「最後っ屁のつもりか・・・・・・」
※銃を向けて撃とうとする。が、ヘッドセットカメラを点けている隊員の方へ、カメラへと視線を送る

「・・・おい、2名、この”卵”を見張っておけ。もし孵化するようなことがあれば即座に始末しろ」
※指示を出すと3階の”自室兼特別研究室”へと戻る


「・・・よし、開けてくれ」

ガシャ・・・・・・
※数名に左右へと別れるハンドサイン。いくつものウェポンライトが室内を照らす。あらゆる薬品や冷却装置、遠心分離機、沢山のバイオシェーカー(培養装置)が並ぶ。奥へと続く部屋の扉を発見する

「・・・いこう。援護してくれ」

ガチャ・・・・・・
※ゆっくりとノブを回す。が、開かない

「仕方がない」
ガォンッ!
※ショットガンでドアノブの部分を撃ち抜き、急いで中に入る


・・・オギャァ、オギャァ、オギャァ・・・・・・


「・・・な・・・・・・」
※赤ん坊の泣き声が部屋中に響きわたる中、隊員たちは固まっている。状況の把握に時間がかかっているようだ。カメラが隊員たちの視線の先へ移動する

「・・・え?!」
※カメラを起動している隊員はおもわず声をあげた。そこには普通の人間の赤ん坊と、8歳児ぐらいの大きさで明らかにobjだと分かる不気味な生物を両脇に抱えたまま、上半身が裸で死んでいるエヴァ・ブラウン博士の姿が映っていた

「ど・・どういうことだ・・・・・・」
※全員が戸惑っている。赤ん坊は左わきでずっと泣き続けている。右わきではobjがずっと乳房を、まるで授乳しているように吸い続けている

「と・・・とりあえず、赤ちゃんを奪取するんだ」


ドサッ・・・・・・
※隊員が赤ん坊を取り上げると、エヴァ博士の体のバランスが崩れたのか、椅子から倒れ落ちる。同時にobjも乳房から離れ、こちらに顔を向ける。その姿は全身に体毛は無く、粘糖質な体液で覆われウェポンライトでキラキラとキレイに反射している。皮膚は所どころ高質化していて、頭頂部から背中にかけ、退化した背びれのようなものが少し伸びている。手足の指には水掻きが少しあり、飛び出している舌は細長くまるで触手のようだ

「このやろう!」
バンッ!バンッ!
「キュィィィィィ!」
バシャン!
※1発、肩に命中しまるで笛の音のような叫び声で、objは部屋の最奥部に設置してあるバスタブの中へ逃げ込む

「エヴァさん!」
※部隊に配備された救助班の隊員がエヴァ博士の様子をみる。全身が蒼白で全く血の気がない。objに吸い付かれていた乳房の乳頭には深い穴が開き、そこから少量の血が数滴ほど垂れていた

「あいつ・・・あの舌で・・・”血を吸って”いたんだ。こんな深い傷なら普通はもっと出血するはずだ。致死量を超えて・・・吸われ続けていたんだ」

「死因は出血多量・・・か」

「・・・しかし・・・でもなんだか・・・美しいな」

※エヴァ博士の死に顔は苦痛や苦悶の表情は一切なく、少し幸せそうな微笑みを感じさせるような、やすらかな顔をしている。後の証言でこの男性隊員には、まるで聖母のように見えたと言った・・・・・・





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