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【読書感想】ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を読んだ。

⚠︎ネタバレを含みます




少し前に、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」を読んだ。

この物語は、登場人物たちの日記や手紙が、時系列に並んで出てくることで話が展開していく。これがなかなか面白い。
書き手が変わると口調が変わるので、英語版で読めれば元々の細かいニュアンスもわかるんだろうな…と思った。


全体的な感想を簡潔に言うと、

ゴシックの王道で最高!けど読みづらい!



十字架、ニンニク、月を横切るコウモリ、棺で眠る伯爵、墓場、死人が舵を握る船…
ゴシックホラーの定番が、これでもかというほど詰め込まれている。

城→海→街と、場面ごとに場所が移動していくのだが、どのシーンも本当にその景色を見てるかのような細かい描写が印象的だった。
作者は陸にも海にも詳しく、言葉選びが上手いなと思った。

吸血鬼の撃退法は、大変生々しくて良い。
私はグロテスクな描写が苦手なはずなのだが(鬼滅の刃などの戦闘シーンがじっくり見られないタイプ)小説なら耐える事が出来た。

吸血された人の描写も生々しい。傷口や、顔が青白く牙が尖ってくる様子が事細かに書かれている。

一番不快だったのは、登場人物の一人である少女の母親が死ぬ部分。一緒に寝ていた母が目の前で死に、その死体が自分に寄りかかってきて重くて動けない…
冷えた死体の重み、守ってくれるはずの母が目の前で生き絶えた恐怖。
想像するだけで気分が悪いが、文章でここまで人を不快にできるのは作者の技だなと思った。


そして終盤、なんと登場人物たちがお互いの日記を読み合うのだ…!それまで自分が読んできた物を、物語の中の人も読むというのは新感覚だった。バラバラだった登場人物たちが一致団結するシーンは、ミステリー作品の謎が解けていく時のような気持ち良さがあった。
聖餅に焼かれたミナの額の痣が消えるという表現方法も、長い悪夢が終わった事がわかりやすかった。



ここまで絶賛してきた『吸血鬼ドラキュラ』だが、個人的に残念なところもある。

まずラストシーンに納得がいかない!
悪夢を共に戦ったきた仲間があっけなく死に、しかもドラキュラ伯爵に直接殺される訳では無いとは…!
ドラキュラ伯爵の死に方ももっと派手な物を想像していた。中盤から逃げてばかりで戦わないし、最期も寝てるところを刺されて終わりだ。あっさりしている。
というか、終わり方があっさりしすぎていると思う。途中、吸血鬼化した少女ルーシーを成仏させる時の方が盛り上がっている感じ。最後もあのくらいやってくれてもいいのに…

しかし、伯爵の死に方はかなり理想的だと思った。
寝ている間に苦しむ事なくサラサラと砂になり、立派なお城は残るが私物は無い…これほど理想的な死に方があるだろうか。


もう一つ残念に感じたのは、とにかく展開が遅いこと!
ブラム・ストーカーの吸血鬼ドラキュラは1897年発行。訳されたのは1971年。
世間知らずな私にとっては、馴染みのない言葉や物がたくさん出てきた。その度に調べながら読んでいたこともあり、読み終わるまでに時間がかかった。
電報の部分は特に、馴染みのない言い回しに加え全てカタカナ表記で、区切りもおかしいので読みづらい。
海外の土地勘がゼロなので、地名を書かれてもどのくらいの距離か分からない。
馬車や手紙も今とは違うから分かりにくい。
おそらくキリスト教寄りの話を、若干仏教っぽく訳してるからよくわからない…
とにかく読んでるのに進まないという感覚がずっとあった。

私の知識不足も大いにあるが、これは現代の「映画を倍速で観てしまう」問題にも関係するのだろうか。当時は時間の進みが今より遅かったのかもしれない。
とにかく次から翻訳の本を読むときは、なるべく新しい訳の物を選ぼうと思った。



読む前はもっと早く読めば良かった…と思っていたが、今このタイミングで、吸血鬼ドラキュラを読む事が出来て良かった。
近頃、様々な作品に触れる中で、最近の作品は設定が複雑すぎると感じている。きっと、作品数が増えすぎて、そうしないと二番煎じになってしまうからだろう。
その考えを持った上で、「吸血鬼への恐怖」というシンプルなテーマ、かつ、様々な作品の土台となる物語に触れる事ができ、物語を読む事の面白さや、ゴシックカルチャーの魅力を再確認する事ができた。

今後も様々な物語やカルチャーを、思う存分、吸収したい。
いつか棺で眠るその日まで。


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