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中国のITイベントへ参加したら、驚くほど勉強になった話 その1

東洋のベニスと呼ばれている中国の浙江省、桐乡市(Tongxiang)にある乌镇(Wuzhen)という場所で行われた 全球工业互联网大会(英語名:Global Industrial Internet Conference、略称:GIIC)へ参加した。そのついでに、500 Kobe Acceleratorで同期の2名と会ってきた。一人は上海の企業へインターン中、もう一人はChina Acceleratorという米国の有名VC SOSV(https://sosv.com/)が主催しているアクセラレーションプログラムへ参加しているというので、色々と話を聞いてきた。今回は、そのうちの前半。

GIICヘ参加したきっかけは、Slush Tokyo 2019で私のプレゼンテーションを聞いてくださった方から同イベントへ参加しないかとお声がけいただいたからだった。しかも、飛行機、ホテル、移動費、食事代のほぼ全てを主催者が負担してくださるという。中国は、海外と手を組みたがっているというし、そこには13億人を抱える巨大な市場がある。昨今の実情を肌感として持っておきたいという思惑もあったので、内容はともかくとして二つ返事で参加させていただくことにした。

結果として、GIICおよび上海への訪問により得られた経験から、今後、中国という大国を考える上で考慮しなくてはならないことのほんの一端を掴むことができたのではないかと考えている。

全球工业互联网大会(Global Industrial Internet Conference)

中国産業経済連盟(北京)を筆頭に、中国全土をカバーしているであろう複数の組織が中心となって開催されたイベントである。名前の通り工業系のインターネットをテーマとしたカンファレンスである。乌镇のコンベンションホールは観光地として有名なエリアの真隣にあり、デザインや迫力も素晴らしい。大ホールでは未だかつて見たこともないクラスの超巨大なスクリーンが設置されていたし、コンベンションホールの作りもとても気に入った。大ホールの会場にはVVIP向けとして飛行機のファーストクラスラウンジに設置されていそうなソファーがあり、VIP向けのソファ、そして一般用の席ということで三種類のクラスが配置されていた。音響システムも素晴らしく迫力のあるプレゼンテーションであった。また、主催側が用意してくれたホテルでは清潔で申し分ない程度のホテルであった。

イベントの目玉はカンファレンスとエキシビジョン、そして世界中から集めたスタートアップによるピッチコンペティションである。ピッチコンペティションは東京のみならず、ドイツのベルリン、米国のロサンゼルス、オーストラリアのシドニーで選抜が行われ、各拠点から3〜4のスタートアップが同じような形で招待された。冒頭で述べたように飛行機、ホテル、移動交通費、食事代のほとんどを主催者が負担してくれる。ここだけを聞けばさぞかし中国は海外スタートアップとの協業を望んでいるかのように思うかもしれないが、実際はとても複雑である。大阪の会社がなかなか東京から突然やってきた企業と取引しないように、海外から東京へ突然やってきた企業と早々取引が始まらないように、海外のスタートアップが中国へ行ったからといっても、表向きほど内心歓迎というはずはない。

会場として乌镇が選択されたのは、中国国内でも有名な観光地であり、驚くほど立派なコンベンションセンターがあり、MICE(Meetings, Incentives, Conferences, Exhibitions)で成功している街であるからだと思われる。

しかし、アクセスは実に悪い。国内からでも十分アクセスは悪いと思うのだが、海外から向かう人間からしてみれば、なお便が悪い。普通は上海空港経由となる。往路は浦东(Pudong)空港から乌镇のホテルまでは車を飛ばして2時間程度である。途中、渋滞はなかったのでスムーズにいって2時間というのが正しい。自動車でない場合は電車で行く方法があげられる。この場合、上海虹橋(Shanghai Hongqiao)駅から高鉄(新幹線的な高速列車)で桐乡駅へいき、桐乡駅からタクシーで乌镇へ向かう(もしくは、バスという方法もある)。どちらもだいたい2時間くらいであるが、後者の場合は近い時間の切符がスムーズに買えるかわからないため、駅で数時間待たされるということもざらにあるらしい。事実上海へ向かう際、駅で2時間程度待つ羽目になった。

英語が絶望的に通じない

本当に困ったのは言語である。イベントのWebサイト、パンフレット、展示物を含む全てが中国語。配布された資料全てが中国語であったので読めずに困った。英語の通じなさも尋常じゃなかった。ピッチコンペティションの審査員も90%は英語がわからないらしいとのことで、英語でプレゼンテーションしたものが逐次中国語へ通訳され、審査員からの質問も全て中国語なので逐次英語に翻訳されるという形式であった。当然現地企業が圧倒的有利である。また、共通言語で話すことができないというのは意思の疎通が難しいということばかりではない。結果として、お互いの心の距離が縮まらない。様々な式典で中央政府の方や地方政府の方々をご紹介いただくのだが通訳なしには会話が全く成立しない。従って、中国語を話せない招待者たちは如何ともしがたい状況に陥らざるを得ないのである。

また、書類のプリントアウトやスキャンを依頼するにしてもビジネスホテルやシティホテルによくあるビジネスセンターというものがなかったのでフロントへお願いせざるを得なかった。しかし、フロントの人たちは英語で話しかけると本当に辛そうな表情になりこちらが申し訳なくなる。仕方がないのでスマートフォンに内蔵されている翻訳アプリを使い、こちらの意図を伝えたところようやく意図が伝わったものの、聞けないだけでなく話すことも困難なので向こうも向こうで中国語を翻訳アプリで変換して見せるといったやりとりが必要になる。当然、Global industrial internet conferenceの会場でも英語はまず話されないし通じない。唯一、メインカンファレンスのみ同時通訳が入ったため英語で聞くことができたのが救いだった。

いうまでもなく言葉の壁の厚さは凄まじい。日本で開催されるイベントへ来る多くの海外渡航客も同じ悩みを抱えているに違いない。私がこれまで参加した海外のイベントは英語で開催されていたこともありあまりストレスを感じなかったのだが、言葉がわからないというのは致命的である。先日ビックサイトで開催されたAI 人工知能EXPO Tokyoも日本人をターゲットにしたイベントであったが、そういう事情を知らずに出展していた海外企業はさぞかしがっかりしただろう。そういう視点で考えたらSlush Tokyoは全てを英語で開催されているので、海外のスタートアップや海外からの参加者はとても参加しやすいイベントであったろう。今後、さらに海外のスタートアップを呼び込みたいならば、日本のスタートアップ界隈もベルリンに習い公用語(?)を英語に切り替えるなりの工夫が必要があるだろう。

プレゼンテーションを終えて感じたこと

このような環境の中、多くの中国人に混ざってプレゼンテーションを行った。私が英語で話したものが逐次中国語に翻訳される。中国人の持ち時間は8分で、外国人は10分ではあるのだが、8分で終わる程度の説明も当然終わらない。余裕を持った時間配分で準備をしたつもりではあったが、最後まで説明しきれず、無情にもタイムアップということで切られてしまった。そして、質疑応答の時間も3分の持ち時間(中国人は2分)があるのだが、この逐次翻訳のせいでたったの一問の回答で終わってしまった。前日に、突然日本語から中国への通訳を用意したので、君たちが日本語で話したいならそれでも大丈夫になったとの連絡をいただいたものの、尺を英語で準備してしまっていたので英語を希望したところ、通訳との打ち合わせもなく本番となった。

しかし、愚痴を言いたいわけではない。どのくらいの心持ちというか、想定で臨めばよかったのかが終わってみてよくわかったというだけのものだ。自分なりに想定していたものとの乖離がよくわかった。とても良い経験をさせていただいたと思う。このような機会がなかったら、中国の大企業と何かの取引をする際に想定しきれず失敗していただろう。次の機会があれば、必ず事前に評判の良い日本語<=>中国語の通訳と予備の通訳を雇い、渡航前から彼/彼女らと入念に打ち合わせを行い、資料は全て中国語にするなどの準備を行うだろう。もしくは、中国語のプレゼンテーションを上手に行うことのできる人材を社内に迎え入れるという選択肢も考えられる。そのくらいの覚悟は必要ということがよくわかったと思う。

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