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【architecture】光の教会③|安藤忠雄

前回までの記事はこちら↓


教会は完成した
少しこの建築に秘められた設計意図を私なりにまとめてみようと思う

(資料は下記のHPより引用)

まずこの建築の肝は正面の十字の切り込みである
(図面の①のところ)
それであれば箱に切り込みさえあれば表現はできる
ではL字型の壁がなぜ貫通しているのか…

ひとつは光の調節である
恐らく法律上の採光を確保することと最低限の明かりをいわゆる窓を設けることなく表現したかったのだろう
箱と壁の貫通の隙間から光が入ってくることで光を最低限に抑えているのだ


そしてもうひとつの意図が大事なのだ
それは

『安藤建築はアプローチにあり』

である

今までも安藤建築のアプローチについては自分なりの考察をnoteでまとめてきた


しかし光の教会は他の安藤建築とは違い敷地が狭く長いアプローチをとるスペースはない
そこでこのL字壁がアプローチを演出するのだ

まずは外から十字架とは反対側から歩いて回ってくる
玄関の扉は引戸(図面の②のところ)になっており、入るとL字壁に沿って内部に誘導される
徐々に薄暗くなっていく

そして壁を抜けて振り向くと正面に光の十字架が現れる

と、一枚の壁で小さな物語をつくり出しているのだ

これこそ、安藤建築の真骨頂であると私は分析する


補足だが、光の教会の玄関の引戸は異常と思うほど重たいのだ
どこにも記載はないが、おそらく私はわざとだと思っている(扉が大きいため重くなってしまったのかもしれないが…)
重厚な扉を開けた先に何かある…という演出がなされているのだろう
また『開けたら閉める』という当たり前のことをメッセージとして込めている気もする
事実閉められていないときをよく見かける
そんなときそっと黙って閉める人を見かけるとちょっとした優しさを感じることができる
そんな優しさをこの扉は意図しているように思う


余談になるが、建設中に牧師さんから新しい教会ではパイプオルガンを使って集まった人たちで歌を歌いたいのだが、音響環境はどうなのかと質問があった

それに対して建築家は特に心配はしていなかった

結果的にはコンクリートの箱が音を綺麗に反響して美しい音色になったとか…
お風呂で歌うと上手く感じるのと同じようなことらしい

というのも、建築家は音響など考えていなかった

そもそも教会はみんなが心を寄せ合って祈りを捧げる場所である
それさえ守れれば問題ないのだ
ここは音楽ホールではない
うまく聴こえるかどうかが問題ではない
みんなが集まって歌うことが大事なのだ

ちなみに後に世界的ロックバンドのU2のボノは自身の自邸の設計の依頼で安藤の元を訪れ光の教会へも足を運んだ
そのとき教会でボノが『Amazing Grace』をアカペラで歌うと美しい音色が教会に響き渡ったらしい


建築は完成したが、建築家はまだまだ歩みを止めない
改善できるところは随時変更した
当初座席は中央に配置され左右が通路だった
しかし光の十字架からの光が綺麗に映るように中心を通路にして床に光が線の如く伸びていくようにした

工事用の足場板でつくった床や椅子は当初は木の色を残していたが、より暗い空間と光の対比を強調するために濃い色の塗装を施した

床や椅子の塗装は定期的に、信者さん達によって塗られている
このときは安藤事務所のスタッフも参加して一緒に汗を流すそうだ
こうしたメンテナンスがものを大切にする心を育てるのだ


結果的にこの建築を設計するにあたって、安藤事務所も工事を担った工務店もほぼ赤字となった

安藤忠雄はこの建築で世界的にも有名になる手がかりを得たのだからあながち赤字でもないかもしれないが…
その後この工務店の社長は建築時から患っていた病で完成後亡くなられている
残った社員で工務店は引き継がれたそうだ

ある意味この建築は工務店の社長の男気で生まれたようなものだ
工事の終盤には建築費の高騰で屋根を架ける費用がない状況に陥った
建築家はお金がないのであれば、青空の教会でもいいのではないか、お金が集まったら屋根を架けるのも物語があって良いのではないかと考えていたそうだが、この工務店の社長に一度引き受けた仕事を途中で投げ出すことは出来なかった

そうして出来上がった建築は信者さんに愛される教会となった


そして10年後、教会の隣に信者さんのためのホールの建設の話が持ち上がった
もちろん選ばれた建築家は…

(つづく)


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