見出し画像

有栖川有栖のロジカルゲーム②【学生アリス編】

 Alice-gawa Alice Ⅱ


 有栖川有栖先生のミステリーについて”note”しています。

 前回は、大学准教授探偵:火村英生の活躍する<作家アリスシリーズ>を紹介しましたが、今回は、もう1つのシリーズ<学生アリスシリーズ>の紹介です。


+ + + + + +


 有栖川有栖先生の作品には、有栖川有栖という登場人物のいるシリーズが2つあって、1つが、前回紹介した、プロ作家の有栖川有栖が出てくる<作家アリスシリーズ>、そしてもう1つが大学生の有栖川有栖が出てくる<学生アリスシリーズ>です。

 その<学生アリスシリーズ>の探偵役を務めるのは、アリスの大学の先輩「江神二郎」です。なので、このシリーズは<江神二郎シリーズ>とも呼ばれています。


◎作品リスト

1.月光ゲーム Yの悲劇'88(1989年:東京創元社)
2.孤島パズル(1989年:東京創元社)
3.双頭の悪魔(1992年:東京創元社)
4.女王国の城(2007年:東京創元社)
5.江神二郎の洞察(2012年:東京創元社)*

 もうひとつの<作家アリスシリーズ>が26冊もあるのに対して、こちらは4冊の長編と、1冊の短編集があるだけなのです。

 作者の有栖川先生は、このシリーズは5冊の長編と2冊の短編集で完結すると公言しているので、あと長編1冊と短編集1冊で完結することになります。

 と、いっても、第3長編の「双頭の悪魔」から第4長編「女王国の城」までは、実に15年もの期間が空いていました。
 そして、その第4長編からも14年が経過していますので、第5長編はいつになることやら... て、感じなのです。


◎シリーズの特徴

 登場人物の所属する大学が京都ということで、登場人物は関西弁なのですが、事件の起きる舞台は様々です。

 特徴としては、基本的に閉ざされた環境で事件が起きるクローズドサークルものです。第1長編の「月光ゲーム」が、氏のデビュー作でもあるので、こだわっているシリーズだと思うんですよね。クローズドサークルもの特有のマンネリに陥らないよう、プロット自体が練られてる感じなのです。

第1長編「月光ゲーム」

 夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々を、予想だにしない事態が待ち構えていた。山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われたように出没する殺人鬼!

 山の噴火により閉じ込められてしまうというクローズのさせ方には、ちょっと閉口してしまいますが、デビュー作ですからね... 
 タイムリミットの迫る中で、冷静に推理していくサークルの部長、探偵:江神二郎のすごさが際立つ作品なのです。


第2長編「孤島パズル」

 英都大学推理研初の女性会員マリアと共に南海の孤島へ赴いた江神部長とアリス。島に点在するモアイ像のパズルを解けば時価数億円のダイヤが手に入るとあって、早速宝捜しを始める三人。折悪しく嵐となった夜、滞在客のふたりが凶弾に斃れる。救援を呼ぼうにも無線機が破壊され、絶海の孤島に取り残されたアリスたちを更なる悲劇が襲う!

 第2長編は由緒正しき”孤島”ミステリーなのですが、宝探しというイベントもあって、パズルとして徹底されている作品なんですよね。
 謎解きもロジカルに徹しています。
 また、この作品から、マリアというサークルのヒロインが登場します。

 やっぱり、登場人物が大学生となると、恋愛要素も入ってくるので、青春ミステリーなんて呼ばれたりもするシリーズなのです。


第3長編「双頭の悪魔」

 他人を寄せつけず奥深い山で芸術家たちが創作に没頭する木更村に迷い込んだまま、マリアが戻ってこない。救援に向かった英都大学推理研の一行は、大雨のなか木更村への潜入を図る。江神二郎は接触に成功するが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された木更村の江神・マリアと夏森村のアリスたち、双方が殺人事件に巻き込まれ、それぞれの真相究明が始まる…。

 こちらは、豪雨により孤立してしまうのですが、クローズドサークル側とそうじゃない側で、それぞれで殺人が起き、その殺人が双方に関連し合ってるという、綿密にプロットが計算されている傑作なのです。


第4長編「女王国の城」

 大学に顔を見せない江神を追って信州入りした英都大学推理研の面々は、新興宗教「人類協会」の女王が統べる〈城〉で連続殺人事件に遭遇する。
 人類協会は自力で犯人を見つけることにこだわり、外部との連絡を断ち、メンバーを軟禁状態にしてしまう。

 第4長編では、宗教団体という、一種、社会とは隔絶した世界でのクローズドサークルでした。
 文庫にすると上下巻になるので、なかなかボリューム満点だったりするのです。

 15年ぶりの第4弾ということで、作者の筆力も上がっているのか、描写がていねいで、その分、かなりまったりと物語が進みます。
 そのことを批判する意見もあるのですが、同じように年齢を重ねてきたものにしてみれば、むしろ、このぐらいのスピードの方がしっくりくるんですよね。
 ただ、新興宗教団体を扱ってる部分は、少しタイミングを逃してる感じがするのですが、最後のロジックはさすが!といった大作でした。


◎登場人物の魅力

 基本的な登場人物は、大学のサークル「英都大学推理小説研究会」(通称EMC)の部員たちとなるのですが、語り手のアリスを含めて5人しかいません。
 でも、この5人が、それぞれのキャラがあって、やりとりがけっこう楽しかったりするのです。青臭いと言えば青臭いんですけど、なんか懐かしい大学生をやってたりするのです。

 そのサークルの部長である江神二郎が、このシリーズの探偵役ですが、ひょうひょうとしている割には頭脳明晰で、推理は切れ味鋭いのです。

 ちょっと大学生離れしてる感じも当然で、なぜか、4回生を繰り返している謎の人物だったりするのです。
 そのわけは、シリーズが進むと少しずつ語られて、どうやら、ちょっとおかしくなってしまった亡き母親から、「30歳まで生きられない。恐らく学生のまま死ぬだろう。」と予言されていることが関係していそうなのです。

 恐らく、最終巻となる次の長編では、その顛末も語られるはずなのです。

 ファンにとってはシリーズが終わっていくことは寂しい限りなのですが、第4長編からは、すでに14年が経過していて、そろそろ読みたいな~、って思う今日この頃なのです。


 今のところ唯一の短編集は、大学生活の様子が見えてなかなか楽しい作品になっていますので、青春ミステリーを感じたい方にお薦めなのです。


+ + + + + +


 最後に、有栖川有栖先生の描く、”有栖川有栖”が登場する二つのシリーズの関係ですが、実はアリスは同一人物ではありません。
 二つのシリーズはパラレルな存在で、作家のアリスが執筆している小説が<学生アリスシリーズ>、学生のアリスがこっそり書いているのが<作家アリスシリーズ>という設定らしいです。

 有栖川先生、だいぶ冊数に開きが出てきてるような....


*