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村上春樹を読んでみたいと思っている人へのお薦め本

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  村上春樹さんの新刊が出版されると聞くと、やっぱり楽しみな気持ちになります。

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 自分は、14の長編作品と10の短編集を読破しているので、それなりの村上春樹ファンだとは思っているのですが、ノンフィクションや紀行文は読んでないし、新作を買うために並んだりすることはない....程度の普通のファンの立場です。

 押しも押されぬベストセラー作家の村上春樹さんですが、ファンの自分であっても、読みにくい作品や、読むのに体力を要する作品があって、意外と読む人(私の場合は体調)を選ぶ作家さんだと思っています。

 まあ、そんな読みにくい面もあるからこそ、熱狂的なファンの方もいるんだと思います。

 今回は、普通のファンである自分の独断と偏見で、初めて村上春樹さんを読む上での注意点と、お薦めの本について書いていこうと思います。



まず、最初に言っておきたいのは、

「ノルウェイの森」は後回しにすること

これです!

    言わずと知れた大ベストセラー作品であっても、また、好きな作品ランキング等で上位だったとしても、初めて読む村上作品としてお薦めできないのが、実は、この「ノルウェイの森」です。

 私の周りで村上作品が苦手な方々は、きまって「ノルウェイの森」から始めた方ばかりだったりします。好き嫌いがはっきり分かれるタイプの本だし、これだけ売れた作品だと、読んでみて面白いと思えないと...みたいな、変なバイアスもかかりますので、合わない人は本当に合わなく感じてしまうんだと思います。

 気を付けなければいけないのは、この「ノルウェイの森」って、村上作品の中でも、ちょっと特殊な作品だったりするんです!
    だから、最初に読んで、わざわざ苦手意識を持ってしまうリスクを冒す必要はないと思うのです。

 

 同様に初めての村上作品としてお薦めできない作品は、「国境の南、太陽の西」「アフターダーク」もあると思います。が、なんといっても有名で人気が高く、手に取ってしまいがちな「ノルウェイの森」を最初に読まないことが重要なことなのです。


「ノルウェイの森」をうまく回避した方は、短編集から始めていくのが良いと思います。

読んでみるなら「神の子どもたちはみな踊る」

 中期以降の短編集は、一定の期間の中で一気に書き上げられているので、関連のうす~い連作集みたいな趣もあるのですが、いろいろなタイプの短編が収められているので、気に入った短編に合わせて長編作品を選んでいくと良いです。

 中でも、個人的にお薦めしたいのは、2000年に出版された「神の子どもたちはみな踊る」という短編集です。

 「地震のあとで」という副題付きの連作短編集で、登場人物は阪神・淡路大震災に間接的に関わっている設定です。

 収録されているのは以下の6作品

 ①『UFOが釧路に降りる』
 ②『アイロンのある風景』
 ③『神の子どもたちはみな踊る』
 ④『タイランド』
 ⑤『かえるくん、東京を救う』
 ⑥『蜂蜜パイ』

 並んだタイトルを見ると楽しい感じがしませんか? ホントは、暗いトーンの作品が多かったりするのですが、その分穏やかで、どれも読みやすい上に、村上春樹さんテイストのいろんなタイプの作品が収められているので、試験紙としては最適な短編集です。



「神の子ども~」での好みの短編をふまえて、長編作品を選ぶ

 村上春樹さんの長編作品を、かなり大きく分類すると「恋愛物」と「冒険物」に分けられます。(もちろん、「恋愛物」にも冒険的な部分はあるし、「冒険物」にも恋愛要素はありますが....)
 「神の子どもたちはみな踊る」の中で、気に入った『短編』をふまえて、「恋愛物」「冒険物」のどちらに向いているか判断してみましょう。

 

 まず、②『アイロンのある風景』が気に入った人は、「恋愛物」の指向を持っていると思います。

 そんなあなたにお薦めするのは「スプートニクの恋人」です。

「旅の連れ」という皮肉な名を持つ孤独な人工衛星のように、誰もが皆それぞれの軌道を描き続ける。 この広大な世界で、かわす言葉も結ぶ約束もなくすれ違い、別れ、そしてまたふとめぐりあうスプートニクの末裔たちの物語。

 ちょっと奇妙なラブストーリーですが、ほどよい長さで読みやすい
 書き出し部分が大袈裟で特徴的なので、まず、読み始めてみて、いけるかどうかを確認してみると失敗を回避できます。

 そして、ここがいければ、いよいよ「ノルウェイの森」に進んでいきましょう。


 次に、⑤『かえるくん、東京を救う』が気に入った人は、「冒険物」の指向を持っている人です。

 リアルな「恋愛物」とは違って、「冒険物」は、ちょっと不思議な世界というか、SFやファンタジーによった部分があります。

 「羊男」や「悪のジョニーウォーカー」、「空気さなぎ」など、なんだかわからないものも出てきますが、「かえるくん」を気に入ったあなたなら受け入れて楽しむことができると思います。

 そんなあなたは「羊をめぐる冒険」を手に取ってみましょう。

「羊のことよ」と彼女は言った。「たくさんの羊と一頭の羊」「羊?」「そして冒険が始まるの」 故郷の街から姿を消した〈鼠〉から〈僕〉宛に、ある日突然手紙が届く。同封されていた一枚の写真が、冒険の始まりだった。

 実は、デビュー作の「風の歌を聴け」「1973年のピンボール 」、そして本作では一貫して〈僕〉(主人公)と〈鼠〉(友人)の物語で「初期三部作」と呼ばれています。

 万全を期すなら三部作を順に読んでみるのが一番ですが、この「羊をめぐる冒険」は、これぞ春樹ワールドって感じなので、ぜひ読んでみてください!。

 その後は、〈僕〉の続編である「ダンス・ダンス・ダンス」をはじめ、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」「1Q84」といった冒険大作に挑戦してみてください。


 また、①『UFOが釧路に降りる』を読んで、セックスの部分に違和感を感じた人は、少し注意が必要かもしれません。

 村上作品を苦手になる理由として、セックスの描き方をあげる人も多いので、そういう傾向の少ない作品を選ぶことが大事かもしれません。
 その場合、比較的初期の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」あたりなら我慢できるのではと思います。

 逆にお薦めできないのは、「ノルウェイの森」「海辺のカフカ」「1Q84」あたりで、ちょっと注意が必要なのです.......。


 最後に、⑥『蜂蜜パイ』を気に入った方、残念ながら1本まるまるこの雰囲気の長編はありません。
    村上春樹さんって、子どもを持った家庭を描いた作品自体少ないんですよね。

 ただ、この作品が合わない人は、村上春樹作品には向かない人なのかもしれないので、他の短編集を試してみてください。



【終わりに】

 村上春樹さんは、けっこう規則正しく作品を発表している作家さんで、2~3冊組の長編大作を7年ごとに、その間に短編集と普通の長編を発表してくれます。

 なので、新作短編集の次は普通の長さの長編を発表して、その次、2024年頃に長編大作を発表することになるのかなっと思っています。村上春樹さんの年齢を考えると、このペースをいつまで続けてもらえるか心配ですが、末永く新作を発表してほしいところです。


(村上春樹さん関係note)


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