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学歴社会の憂鬱 日本の分断~切り離される非大卒若者(レッグス)たち 吉川徹 を読んで

日本の分断~切り離される非大卒若者(レッグス)たち 吉川徹 光文社新書

要約

  人々の社会経済的状況を調査したSSM2015と社会的態度を調査したSSP2015という大規模学術社会調査のデータをもとに、20~60歳という現代社会を支える現役世代の実情に迫る内容となっている。

  本書では現役世代を8つのセグメントに分類している。分類の基準は生年、ジェンダー、学歴に基づいており、20~40歳を若年、40~60歳を壮年とし、さらに男女に分類、最終学歴を、大学・短大・大学院の大卒層と、それ以外(専門学校含む)の非大卒層に分けている。そのため、8つのセグメントは以下のように呼称される。1,壮年大卒男性 2,壮年大卒女性 3,壮年非大卒男性 4,壮年非大卒女性 5,若年大卒男性 6,若年大卒女性 7,若年非大卒男性 8,若年非大卒女性

  8つのセグメントに分けられた現役世代、言い換えると、現在の日本社会の屋台骨を支える個性あり8人の人間の経済状況・家族構成・社会活動・意識などをデータで比較し、それぞれの特徴をあぶりだした上で、この社会に横たわる学歴格差、特にそのデメリットを押しつけられている若年非大卒に焦点を当てて、警鐘を鳴らす内容となっている。

  ざっくりと説明すれば8人の特徴は以下のようになる。

  1,壮年大卒男性:社会経済的地位において一人勝ちしている人。年収が一番高く、職業威信も高い。経営者・管理者が多く、そうでなくともホワイトカラーの正規職としてキャリアを積み上げている。配偶者も女性の中では年収の高い壮年大卒女性の割合が高く、世帯収入も豊かである。8割以上が結婚して家族をもち、経済セクターをけん引する存在である。男性優位、年功序列、大卒学歴至上主義という社会でもっともメリットを受けている存在。

  2,壮年非大卒男性:壮年大卒男性ほどではないが、年収はそれなりに高い。ブルーカラー従事者が非常に多い。10代のうちに社会に出ているため8人のなかで一番長く働いており、日本社会を支えてきた存在である。ただし配偶者も非大卒女性である場合が多く、世帯収入は若年の大卒層と同程度である。職業威信は高くなく、大卒層の手薄な地方のコミュニティの支えてとなっている場合がある。

*壮年大卒女性

  「壮年大卒女性の特性は、労働時間が少ないわりに、世帯年収が多いという暮らしのゆとりです。」「しかし、このセグメントの専業主婦(無職者)の比率は20%を超えており、かならずしもだれもがキャリア女性として働き続けているというわけではありません」「それでも同世代の非大卒女性と比べると、ホワイトカラー比率が高く、正規雇用者が多く、職業威信も個人年種も上回っています。」「彼女たちの夫の7割は大卒層であり、このことが世帯の豊かさと安定をもたらしている」「彼女たちは、キャリア女性、主婦、母親、あるいは後述する余暇活動や社会的活動の積極的メンバーなど、多様な生き方を選択できる時間と経済力のゆとりをも」つ。

*壮年非大卒女性

  「4人に一人は専業主婦(無職者)であり、働いている人でも、労働時間が短めの非正規就業者が多く、個人年収は決して多くはありません」「夫は7割が非大卒」「彼女たちが受け持っている社会的役割は、柔軟な働き方によって(中略)国内の幅広い労働力需要の調整に役立っていること、多くの子どもを産み育てているということ、そして地方社会を支えているということ」「その生活水準はもっと豊かになってしかるべきです」

*若年大卒女性

  「やや意外なことに、彼女たちの4人に一人は無職です。」「有職者についてみると、多くが威信の高いホワイトカラー職に就き、就労時間も比較的長く、同世代の大卒男性と肩を並べる働き方をしています。」「個人年収はかならずしも多くはない」「既婚の世帯は一定の豊かさの水準にあります」「次世代を産み育てるということについては、現時点での彼女たちの子ども数は0.91人ですから、子どもはいないか、いても一人だけという状態」「地方居住者が少なく、逆に都市部では、彼女たちが最多数派の『若者』となっています」

*若年非大卒女性

  「経済基盤のぜい弱さが気がかり」「個人年収は『8人』のなかで最も少ない140.2万円で、月当たりの労働時間が短く、世帯年収も多くはありません」「何かのきっかけで貧困に陥りかねないところにいる女性たち」「仕事をしている人たちの職種は、ホワイトカラー職が半数、販売・ブルーカラー職が半数」「彼女たちのパートナーの多くは、やはり社会経済的に不利な境遇にいる若年非大卒男性。」「若年層のなかでは飛びぬけて子供数が多い。そして年齢を考えれば、この後も彼女たちの子ども数は増えていくことが見込まれます」「現代日本の少子化を遅らせる重要な働きを一手に担っている」「他の『7人』は他人事だと思わず、彼女たちの生活の基盤の安定と水準の向上について、直接的、間接的にサポートする心構えをもたなければなりません」

*若年大卒男性

  「若年層の4セグメントのなかで最も個人年収が多く、非正規雇用率も低く、ホワイトカラー職に従事している人たちが多く、しかもその半数は専門職です。」「職業威信は全体の2番目の高さです」「彼らは、同世代の若年層のなかでは、社会経済的地位が最も安定しているのですが、ほぼ半数が未婚者で、子供数は『8人』のなかで最も少ない0.84人にとどまっています。」「居住地は都市部に集中しています」

*若年非大卒男性

  「『8人』のなかで彼らだけは、他からやや切り離された位置にいます。」「5人に一人が非正規・無職で、正規職についているのは5人中4人にとどまります。」離職、転職が多く、3か月以上職に就かない期間も経験するなど、「職業人としての歩みが大変不安定」主な職種「機械・器具の組立・修理工、鉄工・板金工などの金属加工工、運搬・自動車運転者、販売職、左官・とび職、自動車組み立て・整備工、土工・道路工夫・配管工、介護員・ヘルパー、総務・企画事務員、電気工事作業者、現場監督・建設作業者、料理人、外交員、、、」「平均職業威信は、他の男性たちよりも有意に低く」い。「彼らのうちの有職者の労働時間は、他の男性たちと同程度に長いのですが、個人年収は、『先輩』にあたる壮年非大卒層より150万円近く低い、300万円台前半にとどまっています。」

  以上のような現役世代の特徴を明らかにした上で本書は、若年非大卒層をレッグスと名付け、少子化に立ち向かい、エッセンシャルワークの現場を支え、衰退する地方を支える彼らへの支援対策の重要性を訴えかけている。

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