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翻訳夜話2 サリンジャー戦記 | 読書メモ

読んだ本

村上 春樹/柴田 元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』文藝春秋、2003

メモ

J.D.サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』という翻訳のほうが有名かな)の魅力を余すところなく語った本。

村上春樹と柴田元幸が、作家と文学者という異なる立場から、そして時には翻訳者同士という同じ立場から、徹底的にキャッチャーを語っています。

キャッチャーは知性よりも感性優位のモードで読むといい小説というイメージが私の中ではあって、そういう小説って良さを語るのがむずかしいですよね。結局キャッチャーの何が良いの?と人に訊かれても、「なんか、こう……とにかく良いんだよ!」「読めばわかるよ!」という惨めな押しつけしかできなくなってしまいます。

ところが、やはり村上春樹と柴田元幸は文学のプロ中のプロ。ものすごい解像度でキャッチャーの良さを言語化してくれます。キャッチャーを読んでモヤモヤしている人がいたら、ぜひお手に取ってみてください。

村上春樹の翻訳上の戦略、ひいては文学観を知れるのもとても面白かったです。
村上春樹訳に対しては、村上節がきいてて読みづらい、作家の個性は消してほしいといった批判をよく見かけます。でも村上春樹訳は別に作家としてのクセが強すぎてそうなっちゃったというわけではなくて、きちんと文学的に判断して一つ一つ誠実に訳してるんだなということがこの本を読むとわかります。この本を読むと、というかまあ当たり前のことだけど…。

村上春樹訳を巡る、かの有名な「"キュウリのようにクールな"問題」や 「カタカナ多すぎちゃんと訳せ問題」(どちらも今てきとうに名付けた)の真相も解き明かされる(?)ので必見。

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