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役所のインボイス対応でヤバイと思ったこと。

令和5年10月1日から始まるインボイス制度。インボイスを受け取らないと、今までどおりに納付する消費税の税額控除ができなくなります。一方で、インボイスを発行するには、消費税の免税事業者だった事業者も課税事業者とならないといけません。(免税事業者だった事業主は大打撃だと思います。フリーランスの方などもそうですし、多くの免税事業者を相手にしている課税事業者もそうだと思います。)

この制度はいろんな立場の方の利害が入り交じるのですが、私は、まず、自治体職員として、やるべきことはやっておかないといけないと思っています。
水道局に異動して3ヶ月。消費税法を勉強して、思ったことを書かせていただきます。

1.インボイス対応に関わったきっかけ

私はIT採用の自治体職員です。以下の記事にも書きましたが、ITっぽいことは、ほとんどすることもなく、今年の4月に水道局の経理担当になりました。

水道局は公営企業ですので、消費税の申告納税義務があります。そのため、昔経理をしていた頃の知識を呼び覚ますように、消費税法の勉強を進めています。
ただ、インボイス対応は情報部門にいたときから関わりがありました。公民館などの貸室のシステムの契約などのとりまとめ担当をしていたためです。インボイス制度が始まるにあたり、公民館などが発行する請求書にも登録番号などを記載しないと、利用者の方が消費税法上の仕入税額控除ができなくなるため、システム改修の予算取りや計画策定などを含めて対応していました。

2.事業者の立場に立てない管理職

昨年の夏、法定対応として、インボイス対応のシステム改修予算要求をしたいと、管理職(上司)に打診をしました。そこで返ってきた言葉は、耳を疑うものでした。

「そんな無駄なものに予算要求する必要はない」

私はその言葉に耳を疑いました。そして、市内事業者をどう考えているのかと激怒したことを覚えています。
(こんなことばかり言っているので、評価も下がるし、異動になる運命をたどることになるのでしょうね)

その後、施設所管課を巻き込み、予算要求へ持ち込み、財政査定をクリアして、議会にもご承認いただき、予算が認められたことは申し添えます。(これだけで1つ記事が書けるくらい壮絶バトルでした)

この出来事から分かるのは、市民や市内事業者が納めてくださっている税金に対して興味がない方が課長級以上にもいらっしゃるということです。一人も公務員として、持つべき意識を無くしてはいけないと改めて感じます。

3.捨ててしまわれそうなインボイス

地方自治体の一般会計は。消費税の申告義務はないですが、適格請求書発行事業者登録をした場合、インボイスを発行しなければなりません。
インボイスを発行するまではいいのですが、それを発行者も、消費税法上、7年と2ヶ月保存しないといけないわけです。調定の簿冊(データを含む)の保存年限が一律5年になっている場合、2年早くインボイスが捨てられてしまい、無意識に法律違反となるわけです。地方自治体も、きっちりインボイス対応の必要事項を抑えて、無意識に法令遵守できるような仕組みをつくりたいですね。(データの7年保管運用や簿冊10年保存など)

4.悪気のないインボイス

こんな請求書をたまに見かけます。

請求書
本体91円、消費税9円の明細が10行
本体910円、消費税90円、税込合計1,000円

たまに見る請求書の例

インボイス制度が始まると、請求書内での消費税の端数処理は1回しか認められませんから、これはインボイスではなくなります。(本体価格91円の消費税額は9.1円ですから、切り捨ての端数処理を10回行っていることになります。)そうすると、請求書をもらった人は仕入税額控除ができなくなります。こういったことが起こらないように、発行する人も、受領する人も制度を勉強しておかないといけないですね。

※インボイスを受領しない場合、80%控除の特例もあるのですが、これは帳簿に「80%控除適用」の内容を記載したときに初めて適用されるので、後から分かると、大げさにいうと消費税の追徴になるのかなと思います。

5.修正時に失われそうなインボイス

インボイスの記載を誤ったために、システム上修正しようというときのお話です。
インボイス自体は電子データでの保存を認められていますが、修正のときは修正前のものを保存しておく必要があります。
履歴を持てないシステムの場合、修正前のインボイスも紙やデータで別途保存も必要ではないかと思います。

6.役所への不信感

現職でコインパーキングをよく利用するので、レシートが簡易インボイス対応(コインパーキングは通常のインボイスよりも簡易的なものでもいいことになっている)するかを、個人として、大手コインパーキング運営業者に聞いてみました。

「コインパーキングの自動精算機は概ね対応します。」と回答を得られたのですが、「一部市役所の駐車場は注意してください。課税事業者登録しない市役所の駐車場は、簡易インボイスが発行できませんので、お気をつけください。」と言われてしまいました。
私は個人として聞いていますので、役所関係のことを言われると思ってもみなかったのですが、役所の一般会計が適格請求書発行事業者登録を完全にできていないことを無意識に指摘された格好となりました。

7.データを扱う者の苦悩

私は公営企業の経理担当として、適格請求書発行事業者の登録番号の担保を取らねばなりません。そこでデータ突合作業をしようと思っています。(IT採用の腕の見せ所ですね!)

適格請求書発行事業者のデータ自体は国税庁HPで公開されていますが、レコードは10万件を余裕で超えるので、Excelでは処理できません。職場の端末はAccessも使用権が無く、コマンドプロンプトやpowershellも制限がかかっています。
また、Unix環境の使用も一般職員には認められていないことから、文字コード変換やデータ処理に縛りプレイを課せられています。結局、サクラエディタとExcel vbaでの合わせ技を使っていますが、スマートにやりたいという想いはあります。

こういったところにも、DX推進を阻害する要因を感じました。一般職員にツールの開発環境を与えて欲しいところです。以下の記事の感想文にも書かせていた通り、情シスは総合格闘技なわけですから、こういった動向にも中止できる人が情シスをになってほしいなと思っています。

8.危機感のなさに感じるヤバさ

ここまでの内容ですが、異動する3月末まで、所属内外で聞いたことがありませんでした。それは「自治体職員はインボイス対応関係ない」という無意識があるのかもしれません。

また、個人的に役所の特別会計の適格請求書発行事業者の登録状況を調べてみると、「特別会計」でヒットするのは2,100件程度ですので、選択の必要性すら考慮に入っていない特別会計があると思います。
※ただし、弊市もそうですが、公営企業は特別会計という名称で登録をしていませんので、公営企業を入れると登録数は上がると思います。特別会計がどのような考えで、どの選択をしたかは個人的に興味があります。

このインボイス制度、経過措置があるといえど、たくさんの事業者が打撃を受ける制度改正です。市民に寄り添うという言葉を耳にしますが、インボイス制度への理解、対応をしないことは、市民に寄り添うことと逆の対応なのではないかと思っています。

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