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ソフィア・暁月篇

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光の戦士ソフィア・フリクセルの比較的最近の戦いや日常。
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節分小話

「前々から思ってたんですけど」 ソフィアは緑茶を呑みながら視線を茶屋の外に向けた。視線の先はクガネ転魂塔広場。溢れかえった町民達が櫓から撒かれる豆に手を伸ばしている。 「セツブンに豆を撒くのは何故なんです?」 小首を傾げて尋ねる娘に、卓を囲むイズミとタナカは顔を見合わせた。 「……そういや、なんででしたっけね、イズミさん」 「……ちょい待ち」 青年の問いを受けてイズミは胸元から小さな手帖を取り出し、パラパラとめくり始めた。 「あった。えぇとね」 タナカはその声

ただ君を待つ

◆◆◆ 仲間と冒険に出掛けようとするその瞬間、ソフィアは目覚めた。鳥猿の時計、積まれた本、壁のポスター。フリーカンパニーハウスの自室で朝を迎えていた。鮮明な夢だった。あれはどこの街だろう。どこかで見たような、どこでも無いような街。アルバートとその仲間たちに似た冒険者たち。銀泪湖上空戦。飛び立つ蛮神。荒唐無稽な夢だと切り捨てるには示唆するものが多すぎる。 ベッドから降り、伸びをしながらカーテンを開ける。これが超える力の見せた幻視なら対象は誰?見えたものはいつの時代?考えたと

寒夜のこと

ネタバレ警告 目を開けると、そこには帝都ガレマルドの灰色の空が視界いっぱいに拡がっていた。耳には隣接ブロックを徘徊する無人兵器の駆動音が微かに聞こえてくる。生きて動いているものは何ひとつ残っていない。僅かに生き残っていた避難民もさっきの爆発でみんな死んだ。感じられるのはくろがねの鎧の背中を通して伝わってくる、舗装された道の冷たさ。それだけだった。 わたしは仰向けの態勢からどうにか起きあがろうと、帝国兵の指先に力を込める。アシエン・ファダニエルの策略により、名も定かではない

終末に抗いし者たち

ガォォォォォォン!血の如く染まった空を終末の獣が覆い尽くすサベネア島。鉄のモーターサイクル<SDSフェンリル>が爆音を上げて大地を疾走する。そしてその後ろを終末の獣たちがフェンリルを超える速度で迫ってきていた。 悍ましい容姿の獣がフェンリルにその爪を振るうが、その車体はぎりぎりで攻撃を回避する。ハンドルを握る浅黒い肌の青年は驚きの声を上げた。然り。オートパイロット機能だ。そして攻撃を逸した獣は離脱を許されず鋭い斬撃を受け、霧散した。 後部座席に見事なバランス感覚で直立する

綺羅星に手を伸ばせ

「そうだ、テオドアさんの事なんですけど」 思いもよらない言葉が角に響き、私は焼菓子に伸ばした指を止めた。視線を対面に座る少女に向け直す。私の雇い主である少女—ソフィアはティーカップ片手に柔和に微笑んでいた。 「…急ですね」 「約束したじゃないですかイズミさん。ちゃんと答えるって」 「そうでしたね」 私は改めて焼菓子をつまみ、ひと口かじる。ふわりとした食感と上品な甘さが広がる。美味しい。 テオドア。常に明るく前向きな海の男。たまに帰ってきたと思えばソフィアに言い寄り

とまり木の二人

※時系列は暁月メインクエスト後です 「あああ!イズミさん?!」 納品物を抱えてハウスに戻ってきたイズミを見て、ソフィアは叫んだ。 「角!どうなさったんですか!」 わなわなと声を震わせるソフィアの視線の先。アウラ族のリテイナー、イズミの右角は先端部分が義角に覆われていた。角を欠損したアウラ族が使用する医療器具である。 「ちょっとぶつけただけです。そんな大事では…」 イズミは言い訳を述べながら視線を外した。この傷は数日前、とある妖異を討ち取った際に負ったものである。厳

お姫様は私じゃない

ぼんやりとした頭で部屋の時計を見やる。11時過ぎ。いい加減起きて宿を出て行かなければ追加料金を取られかねない。私はのそのそと洗面台へ向かい、顔を洗った。鏡に映る自分を見る。紫の髪、無愛想な顔、そしてさる理由から欠けた右角を覆う治療用の義角。これにももう慣れたけど、やはり色々面倒だ。次の通院はいつだったか…記憶を掘り起こしながら寝間着から旅装束に着替え、枕元の香炉を片付けた。 宿屋「砂時計亭」を後にして表通りに出てみれば、そこは桃の花だらけの光景が広がっていた。たくさんのララ

タクティカルクリスタルを移送してください

「ソフィさん、星救ったんでしょ?じゃあソフィさん倒したら、私が一番だ!」「そうは…させません!」凄まじい勢いで繰り出されるブランの槍をソフィアは紙一重で回避し続ける。新たなる模擬戦、クリスタルコンフリクトの戦場で二人は相見え、鎬を削っていた! 「よーし高まってきた!おりゃーッ!」間合いを取ったブランが空高く舞い上がり、視界から消えた。竜騎士の大技、スカイハイである。周りの戦士達は5秒後に訪れる落下攻撃スカイシャッターに備え、守りを固める。だがソフィアも負けじとエーテルを解き

夏の魔城と恋模様

東ラノシアを代表する一大リゾート地、コスタ・デル・ソル。太陽の海岸と名付けられた風光明媚な砂浜であるが、今その太陽は水平線の彼方に沈んで久しい。そんな闇に包まれた海岸に聳え立つ巨大な櫓があった。 堅牢な木材によって築かれた櫓は高さを増すにつれ細くなっていき、天にも届かんばかりの高さの頂きは猫の額の如く狭い。そして人々はその頂きを目指し、僅かな足場を頼りに踏破を目指している。これこそはエオルゼア夏の風物詩、紅蓮祭名物「夏の魔城」である。 ソフィア・フリクセルは腕時計を見やる

多彩なる都の星芒祭

高温多湿なサベネア島は霊六月であっても寒さとは無縁だ。夜でも外套を羽織る程度で出歩ける。ゆえに路頭で凍える子供とそれを救う騎士達の祭りは根付いておらず、人々は間近に迫る新年に備えているのが常である。しかし、今宵の夜風に乗って聞こえてくる旋律は、近東に住まうものには縁遠い、エオルゼアに住まうものには耳馴染みの管弦楽であった。 荘厳なるメーガドゥータ宮、その客間のバルコニーから眼下の広場を見下ろせば、赤い外套に身を包んだ楽団が煌びやかな楽曲を奏でている。はるばるエオルゼアから星

貴方は新米冒険者を見た

うちの人々でやってみました。 ソフィアさんのケース「あの、旅のお方ですよね」 不意に聞こえた人の方に斧術士が目をやると、木立の間に若いヒューランの娘が立っていた。橙色の編み込み髪にリビエラドレス姿。手には山菜を詰めた籠。地元の住民であろう。 「そうだが、何か?」 「この先の谷底には恐ろしい魔物がおります。とても危ない場所なのです」 村娘の真剣な訴えに、斧術士の後ろにいた弓術士が陽気に返した。 「なぁに、おれたちゃそいつを討ち取りにきたんだ」 「でも」 格闘士が

路地裏のふたり

ウルダハの雑踏の中、わたしはちらりと後ろを振り向く。行き交う人々の合間、あたりを見回しながら迫ってくるいかつい男たちが目についた。追っ手はまだ引き離せていない。 「ソフィア、こっち」 すぐ横にいたイズミさんがわたしを呼び、手を引いてきた。わたしたちは雑踏をかきわけ、路地に飛び込んだ。広げた両手ほどしかない細く薄暗い路地裏で、イズミさんが外套を取ると白い角が顕になった。首を回し、あたりの音に注意を払う。アウラ族のイズミさんは角で音を拾うのだ。 「あいつら、しつこいね」

願わくは花の下にて・異聞

「でやぁぁぁーーーッ!」 雄叫びと共に繰り出されたイズミの刀が鉄塊と交錯し、その衝突音が林間に響き渡る。イズミは舌打ちし、即座に地面を蹴って飛び離れた。瞬間、別の鉄塊が振り下ろされ、イズミのいた地面が大きく抉り飛ばされる。暗黒騎士が振るう大剣と見紛うそれは、巨大な苦無だった。 イズミは受け身を取って愛刀を構え直し、相手を見つめた。土煙の中で怪しく光る桜色の双眸。巨大な女がぐるると獣じみた唸り声を上げている。怪異である。だが、イズミが臆さず踏み込むと、相手は大きく後方に跳躍

追憶の起点

ふとテラスに目をやると、銀髪の竜騎士が窓から飛び出していくのが見えた。隣で談笑している英雄と魔女はまだそれに気が付いていない。挨拶も無しとは、野良猫みたいなやつだ。間近で見た槍さばきは凄まじいなんてもんじゃなかったけど、付き合う奴らは苦労するだろう。 やがて英雄と魔女もそれに気付いたが、特に慌てる様子もなかった。慣れてるな。私はエールを呷り、山と盛られた肉料理をつまんだ。月竜アジュダヤの帰還を祝う宴は続いている。 そんな宴の喧騒を割ってツノを揺るがす竜の咆哮が響き渡った。