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112.打算の一つ屋根の下

玉平さん、わたしが無職無住居になりそうな、こんなんだったから、ここに置いてくれたんですか?
はい、203号室の南雲あかりです!
もうすっかり冬も近づいてきました。
あっという間です。
今日は縁側で玉平さんとお話。

そうそう、わたし新しい仕事はじめたんです。
はい、喫茶『らずべりー』で。
玉平さんが今度行くって。
木更津きっさらずーって言ってます。

わたし、あわよくばって思って、ここに引っ越してきたんです。
最低なんです。
次の仕事を探すより、いっそのこと結婚して…
そう思ったあの日のわたしを、撃ち殺したい。
西口さんと一つ屋根の下。だから『たまひらハイツ』を選んだんです。
でも、途中から出て行こうって…。
叶わぬ恋なら逃げ出そうって。

時々思うんです。人生も信号機みたいに、合図をくれたらいいのにって。
良い悪いを教えてくれたら、傷付かない。
分からなくて飛び出して、間違ってたら事故に遭っちゃう。
玉平さんには失礼だけど、仕事見つけたらここを出て行こうって。
なのに…
なのに、まだ…ここにいたい
わたし、自分の気持ち分かんなくって…

玉平さんは言いました。
「目は口ほどに物を言う」
目は人の心の中を映し出してしまう鏡。本当の気持ちは目に映ってる。
人は悲しくても、嬉しくても、苦しくても、幸せでも、泣くことしかできない。
言葉にできない気持ちを涙として流している。
その姿を誰になら見せられる?
泣いてる姿なんて、誰だって見られたくない。
でも、その人の前だから泣いてしまう。

泣いてる姿を見せれる人…?

玉平さんは、203号室だからわたしを入れたと笑顔でした。
あのバカも、きっと戻って来ると思ってたって。
えっ…?

「何かを得るなら、代償に失うものもある。生きるって何年経っても難しいわね」
玉平さんはきっと、わたしよりももっと深いところで、きっと何かを抱えている。

#一つ屋根の下 #代償 #たまひらハイツ

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