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【妄想】未来のパイロットに求められる資質とは

本日は、私が想像する近未来のパイロットに求められる資質の話をしたいと思います。なんのエビデンスもないので、ただの思考実験だと思って軽く聞いてください。

先日の記事で私はこんなことを言いました。

昔は、それこそパイロットは職人気質、「操縦がうまい奴がえらい」ことが常でした。 -中略-

(しかし)旅客機は急速にデジタル化し、現代において飛行機を飛ばすとは、単なる操縦と必ずしも同義ではありません。より正確には、操縦とは飛行士に求められる技量の一部であり、飛行機を安全にA地点からB地点に届けることを「運航」と定め、運航中のコクピットや客室をいかにマネージメントするかが大事になってきました。

操縦スキルよりコミュ力。似たような言説は、業界ではもはや人口に膾炙しています。今、エアラインでパイロットをしている人なら、みんなこう言うでしょう。

「操縦が上手い人がえらい」時代は過去のもので、現代のパイロットにはマネジメント能力が求められる。複数人で飛行機を飛ばすためのチームワークが重要で、わけても「コミュニケーション力」は、、、

しかし、これはせいぜい現代までのパイロット像かもしれません。「操縦スキルだけじゃなく、コミュ力重視」的な言説は、現在の飛行機の飛ばし方を前提にしています。ですから、仮にこれから旅客機の運航のやりかたが大幅に変われば、今の常識が覆る可能性は大いにあります。

では、現代ではなく、未来の飛行機の運航とはどのようなものか、そして、そこで求められるパイロット像とはどんなものか。少し妄想してみましょう。

あくまで妄想ですよ。

運航の両極化

私が考える近未来の旅客機の運用とは、両極化です。

つまり、遠隔操作や地上・宇宙支援施設をフルに使って、機上のパイロットの技倆や判断力に依存する要素を極限まで削ぎ落とした運航形態と、機上の人間の高い判断力と操縦技倆に依存する前提で組み立てられた運航形態です。

おそらく、国際線は技術の発展とともに前者色を強め、離島路線などの短い地域路線は後者となるでしょう。具体的にみていきましょう。

ワンオペ運航

真っ先に思い浮かぶのが、パイロットの数が2名から1名になることです。

これについては、色々な人が色々なことを言っていますが、特にパイロットをされている方の意見は、概ね否定的だと感じます。無理もありません。今の運航を前提に考えれば、旅客機をパイロット一人で飛ばすことは、登山に一人で行くようなものです。天気が良くて、何も起きなければ無事に降りてくることはできるかもしれませんが、イレギュラーが起きた時が問題です。

私自身はパイロットですが、10年以内に国際線が「1人乗務」になることは十分起こりうると考えます。ここでいう1人乗務とは、パイロットがひとりで飛行機を飛ばしている状態が存在する運航です。仮に「準ワンオペ」と呼びましょう。パイロットがひとりしか乗っていない「完全ワンオペ」ではありません。

例えば、このような形です。東京からロサンゼルスに飛ぶ便があったとします。成田からの離陸は2人のパイロットがコクピットにいる状態で行いますが、一定の高度に達し、クルーズフェイズ(巡航)に入ったら、片方のパイロットが休憩室に入ります。一定時間が経過したら、休憩していたパイロットが交代して監視を続け、ロサンゼルス国際空港が近づいてきたら2名のパイロットが同時に操縦席に座って着陸を行います。このような運航形態です。

2015年に起きたジャーマンウィングス9525便墜落事件のようなパイロット自身によるハイジャックを防止する観点から、現在ではコクピットでパイロットが一人になることは法的に禁止されています。そのため、現在の飛行機のデザインではこのようなオペレーションはできませんが、操縦室を少し後ろに広げてクルーバンク(休憩室)とトイレを操縦室内に設置すれば解決します。ある程度の大きさがある飛行機が必要で、国際線からこれが始まるだろうという理由の一つです。

あるいは、地上から飛行機の自動操縦をオーバーライドできるようにして、万が一ハイジャックが起こった時に安全に飛行機を地上まで降ろすシステムを搭載することは、おそらく技術的には可能です。そうすると、コクピットが戦闘機のそれのように1名仕様になる可能性はあります。

地上パイロットが複数機を支援

パイロットが1名で機を運航している間、地上では、衛星通信の技術を使って複数の機を監視する「地上パイロット」が支援に入ります。通常運航のタスクは全て機上AIが監視と実行を自動で行い、各イベントが実施されるごとに機上パイロットは地上パイロットと確認のための通信を行います。これが、操縦の新しい法的な定義に加わります。

地上パイロットは、地上AIを使って複数の機体を監視します。地上AIは、タスクの忙しさや機上パイロットの疲労度など複数のファクターによって支援が必要な機体の優先順位を地上パイロットに提示します。地上パイロットは、ちょうど管制官のように複数人が持ち回りで現場に詰めていて、一人の地上パイロットのタスクが重なった場合、別の地上パイロットにこれを回します。こうすることで、実質的に2名のパイロットが機を運航している状態を維持しつつ、1名乗務を可能とします。

このような運航が可能になれば、今まで休憩を取るために乗せていた交代のパイロットが要らなくなります。また、そのような中・長距離路線をすでに2クルーで回していたところは、パイロットの疲労が軽減されて安全に貢献します。そしてなにより、地上パイロットが複数の飛行機の「副操縦士」をできるので、オペレーション全体で必要なクルーの人数が減ります。

自動化と従来型が混在、徐々に自動化が進む

もっと時代が下れば、離着陸すら機上パイロットと地上パイロットの連携により行われるようになるかもしれません。機上パイロットが一人しかいない、「完全ワンオペ」です。いや、むしろ前述の「準ワンオペ」はそのための移行フェーズと捉えた方が自然でしょう。

完全ワンオペ化された運航では、クルーズ中は地上パイロットが監視を行い、機上パイロットは休憩して、離着陸のみを担当します。離着陸を担当するといっても、実際の離着陸操作は全て飛行機が自動で行うので、パイロットの仕事はその監視、もっと本質的にはその運航の責任を引き受けることが仕事になります。機械に法的責任は問えないためです。

しかし、全ての航空会社が全ての路線においてこのようなワンオペ化を志向するべきかというと、そんなことはもちろんありません。特に、離島路線や地方空港への生活路線には馴染まないでしょう。クルーズフェイズが短いことと、離着陸する空港からの手厚い管制支援が期待できないためです。

また、中距離路線であっても就航する空港の支援が脆弱な場合、やはり現在のスタイルを準用する必要がありますし、ほとんどの国際空港には地方空港への乗り継ぎ便があるので、両者が混在することになります。

国際線がどんどん自動化されて行く中で、従来スタイルのパイロットもニッチな需要が続く限り、地方路線のディーゼル機関士のように手堅く生き残っていくことになるでしょう。

鉄道運転士の話も聞いてみたいものです。

しかし、間違いなく自動化の淘汰圧に晒されるので、パイロットとしてもどちらのスタイルで生き残るのか、戦略を考えなければいけないかもしれません。両極化した運航スタイルに従事する二種類の「パイロット」は、もはや同じ職業と言えないところまで業務内容が変わってしまうはずです。

これから求められるパイロット像とは

いかがだったでしょうか。全くの妄想ですが、絶対にあり得ない未来とも言えないかもしれません。重要なのは、今後どうなるか完全にはわからなくても、自分がどうなりたいのかしっかりと芯を持つことでしょう。

あくまで従来の飛行機を飛ばしたいのか、超音速機など先進技術に触れていたいのか、高い給料が欲しいのか、エアラインパイロットのステータスが欲しいのか。自分の中でしっかりと落とし前をつけていれば、動機はなんであれ全く構わないと思います。

あなたは、どんなパイロットになりたいですか。本稿が、それを考えるきっかけになれば幸いです。

以下の有料パートでは、上記の妄想に基づいて私が考える求められるパイロット像を、両方のケースで考えてみました。妄想の妄想ですので、話半分に聞いてください。

「ワンオペ」国際線パイロットの働き方

国際線パイロットは、自動化・AI化のさらに進んだ宇宙船のような飛行機に乗り、クルーズ中は、誰とも喋らずに(あえて言えば機械と喋りながら)長い時間を過ごします。

そう言う意味では、いわゆる「コミュ力」は必要とされず、どちらかと言えば、ひとりで長時間黙っていることが苦ではない寡黙な人の方が向いていることになるかもしれません。

飛行機はほぼ完全に自動化されるので、飛行機を直接飛ばすスキルを発揮する機会は、ほとんどないでしょう。

必要とされるのは、新しい技術への適応力や、膨大な量の知識を正しく覚え、使える優秀な頭脳、長時間黙々と機械を相手にする寡黙な気質。こういったパイロット像になるでしょう。原子力発電所のオペレーターが近いかもしれません。

操縦が上手い人が重宝される時代が来る?

一方、地域の短距離路線を担う従来タイプのパイロットは、現在言われているフライトマネジメントの能力がそのまま重視されることは言うまでもありませんが、今よりまして「操縦技倆」が重視されるかもしれません。

現在のスタイルの運航では、コクピットに2名のパイロットが乗り込み、お互いがお互いを監視することで安全を確保します。だから、どちらかのタスクが一方的に上がってしまうと、安全を損ないます。監視能力が落ちるからです。コクピットの中で発生するタスクを同じだけシェアすることが理想ですが、パイロットの技倆や経験に差があると、うまくシェアができなくなることが起こり得ます。

状況が切迫する良い例が、機長が操縦と全体のマネジメントを両方やろうとした時です。現代の飛行機の操縦は、自動と手動の間にも段階があり、たとえ自動操縦だったとしてもパイロットがかなり頭を使わないとうまく使いこなせません。操縦を安心して任せられる副操縦士がいると、機長は状況のマネジメントに頭を割いて全体を俯瞰することができ、結果としてより安全で余裕のあるオペレーションができます。この点は下記の記事でも詳しく解説しています。

現在のエアラインパイロットの教育は、操縦技倆とマネジメント能力を両輪としていますが「進んでいる」ところほど、後者に軸を置いている傾向があります。飛行機は、チームで飛ばすもの。だから「コミュニケーション能力」をはじめとする、チームワークが得意な人材を採用し、育てています。

ということは、自動化が進んだ世界で従来スタイルで勝負しようとするパイロットは、基本的にはチームワークが得意な人たちになるはずです。そして、それら全員にイスがあるわけではありません。特に、待遇のいいコミューター機のポジションに人気が出る可能性があります。すると、その中で差別化するなら、操縦の上手い人を取ろうとするかもしれません。

なんと、「操縦が上手い人が偉い」時代が再到来するという結論になってしまいました。

上手い奴が偉い、シンプルでいいですけどね。

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