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僕だって眠れない夜があるさ ~映画『宇宙戦争』〜

『宇宙戦争』2005年アメリカ
監督)スティーヴン・スピルバーグ
出演)トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ミランダ・オットー、ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン(ナレーション)

あらすじ)気分屋でだらしないレイは、別れた妻にも子供たちからも愛想をつかされていた。週末をレイの元に過しにきた息子からは、最低な親父と言われてしまう始末。
そんな時、街の上空に異変が起こる。嵐が吹き荒れる中、十数回と落ちた雷は街のある一ヶ所に落ちたらしかった。そして様子を見にいったレイの目前で、落雷の跡から巨大なトライポットが出現し、レーザー光線で瞬くまに人々を殺傷し、建物を破壊はじめる。それは人知をはるかに超えた侵略者たちと人間たちの戦いの始まりだった。

トライポットの攻撃に立ちむかう人類と、子供たちを命にかけて守り抜く父親の姿を描く。H・G・ウェルズ原作の傑作スペース・ファンタジー。

僕だって眠れない夜があるさ
 公開当時に劇場で観たが、ただ面白かっただけではなく、ダメパパを演ずるトム・クルーズと、宇宙からの侵略者と人類の闘いを描いたこの映画自体に好印象を抱いたことを覚えている。もちろん、トムの大ファンである私は常にトムを好ましく思っているが、よりいっそう、以前にまして、この映画スターのさらなる魅力に触れることができ、好印象を持った。トムにばかりではない。映画自体にも何かとてもいい印象を持って劇場を出たのだった。
 さて、それは何だったのか?

 今回DVDで再鑑賞して、それがラストからもたらされたものだったことが思い出された。ネタバレを避けてここに詳しくは書かないが、単純でSFらしいこの結末は、制作者たちの全人類と地球への愛を感じる。
 この映画はダメパパが子供たちを守りながら必死で生き抜く姿と、人類の不屈の闘いを描いているSF傑作なのだ。

 トム・クルーズ演ずるレイは離婚歴があり、港でコンテナトレーラーの運転手をしている。1時間に40個のコンテナの上げ降ろしのできるレイの腕はなかなかのものだが、プライベートでは妻に去られ、息子からは「あんたは最低だ」とののしられるダメパパである。
 人類の突然の危機は、普段は元妻と暮らす子供たちが、週末をレイの元で過ごしに来た時に訪れる。子供は10才の女の子レイチェルと、ハイスクールに通う、父親に反抗的な男の子ロビーの二人だ。
 年の割に賢くはあるがデリケートな心を持つ女の子と、正義感と独立心の旺盛な男の子。いくら息子が自分に敬意を払わないといっても、レイにとっては娘も息子も同じくらいかけがえのない、守り抜くべき存在であり、幾つもの危機をレイは身体をはってくぐり抜けてゆく。その中には冷静さを失う姿、息子とつかみあう姿、人間のエゴに触れて涙をにじませる姿、疲れ果ててただ歩く姿、とさまざまなレイ(=トム♡)の姿があり、父たる者の本能的な子供への愛と、そこから生まれるパワーを見ることができるだろう。
 そして、私にとってレイ=トムだ。『ミッション・インポッシブル』シリーズのかっこいい、肉体的にも頭脳的にも非の打ちどころのないトムもいい。しかし、子供相手にカッとなったり、ショツクのあまり口をきけなくなったり、別れた妻に色々注文をつけられたり、深いため息をつきながらベッドに倒れ込むトムもいい。私の、われらのスーパースター トム! 人間くささいっぱいのトム! こういうトムだって見ていたい! こういうトムだってステキ!
 トムはなんて私たちに親しくて遠いスターなのだろう!

 数年前だったが、何かのインタビュー記事にこんなことが書かれていた。
「僕だって寝れない夜もあるよ。でも、僕はそれを恐れないさ」

 ハリウッドの俳優でありプロデューサーであっても、世界中で観客を動員するスーパースターであっても、自家用ジェットを持っていても、やっぱりトムも私たちと同じ人間なのだ。だからこそ、トムの映画を観ると勇気がりんりん湧く。

 見どころはトム紛するレイの奮闘ぶりだけではない。
 私は特別SF映画のファンではないが、SF映画としても『宇宙戦争』(原題『War of the worlds』)というタイトルにふさわしいスケールに仕上がっていると思う。映像もスピード感と迫力があり、息を呑む展開がラストまで続く。「雷に乗ってやつらが降りてきた」という発想も面白い。わりと単純なストーリーながら、先の展開が予想できず、トム・クルーズファンでなくとも最後まで楽しめる内容に仕上がっている。
 個人的には宇宙からの侵略者たちのマシーンやその風貌が気に入っていて、世界を赤い血で染め上げてゆくマシーン(クラゲ型?タコ型?)も不気味だがなんとなくコミカルだ。どんな意味があって人間の血を吸い上げるのだろう???

 奮闘するのはレイだけではない。各国の軍隊も臣大なマシーンたちを相手に果敢に闘っている。「大阪では何体か倒したらしいぞ」と日本のニュースが入ってくるのも、日本人の私としてはちょっと嬉しい。
 が、それでも、レイの目の前で巨大なマシーンたちによって大勢の人間たちが犠牲になっていき、世界は血で染め上げられてゆく。人類の抵抗も虚しいものに思われてゆく。
 一体、どうやって侵略者たちは駆逐されていくのか?

 ラストはあっけなく、思いがけない展開で訪れる。そして、なるほど、単純な結末で納得もゆく。すっきりと、爽やかなものさえラストには感じる。私の心に湧き起きたものも、自然への畏敬の念か。

 原作は1898年にイギリスの作家H・G・ウェルズが書いた“The War of the Worlds” 映像化されること数回の名作だとか。ひさしぶりに原作が気になる映画だ。スピルバーグ監督による本作は、原作の味わいをかなり生かそうとつとめた作品らしい。
「SFなんて」
とふだんは敬遠している私だけれど、近々探して読んでみたいと思う。

2010年10月6日 天神東宝にて初鑑賞-
(この記事は、SOSIANRAY HPに掲載した記事の再掲載です)

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