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「どんな人を評価しますか?」という難題

年度末が評価期間だったので、かなりの時間を費やして会社の評価制度と睨めっこしていた。評価制度は、会社が人の価値を推し量るために拵えたルールブックであり、人間の果たす価値に対する解釈の一様式だと言える。このルールブックに定められた尺度の上で、あらゆる人を一列に並べて評価するのだから、それは万人に開かれた端的で力強いものでなくてはならない。

翻って、自分が何を良しとする人間なのか、良い機会だから一度整理してみても良いかもしれないと思った。人間のどのような行動を、信頼に足るものだと感じるか、職業や年齢、立場を超えたユニバーサルな基準を作ることができるだろうか。しばらく考えて、3つにまとめてみた。


①言ったことをやっているか?/言われたことをやっているか?

最も簡単に人の信頼を勝ち取る方法は、自分が言ったことと、相手から言われたことをきちんとやることだ。言葉は人と人との関係を繋ぐものだから、「あなたが大切である」と伝えるためには、交わした言葉に魂を吹き込むことが必要だ。だから、私はなるだけ自分の言ったことはやるようにしているし、他人に言われたこともやるようにしている。もちろん忘れるので、できる限り早く。

これは個人的な価値観に大いに根ざすものだが、私は人と人を取り結ぶ相互関係のうち、契約という概念を非常に重視している。法律行為として義務関係を生成する契約ではなく、もっと広い意味で「自分と他人の行為について言葉で約する行為」としての契約だ。

私たちは生活のあらゆる局面で、言葉を通じて何かを約束しており、その一つ一つは他者と取り交わす小さな契約だと捉えることができる。契約は「破られても仕方ない」と諦めることはあれど、初めから「破られてしかるべき」だと思っていることは決してない。言葉に真摯になるというのは、一つ一つの他者と取り結ぶ契約に対して、真剣に向き合うと言うことだ。そういうことができる人は、やっぱり信頼できる。


②速くやっているか?

思考に費やす時間と行動の質は、多くの場合比例しない。長々と議論した結果出た結論が、みんな納得する良いものになることは滅多にないのと同じだ。行動の質を上げたいのであれば、増やすべきなのは思考に費やす時間ではなく、試行の回数である。

大抵の場合、何かを「やらない理由」はごまんとあり、それらをあげつらうことに特別な能力は要さない。希少価値が高いのは、何かを「やる理由」を見つける力の方だ。

「やる理由」を見つけるための思考様式そのものは、トレーニングである程度身につけることができる。問題は、そこから行動に至るリードタイムをどれだけ縮減できるかだ。「やる理由」を見つけられても実際には「やれていない」ことが、現実には非常に多く存在する。だからこそ、①とセットで考えることが大切で、「言ったことと、言われたことを、速くやっているか?」を常に己に問い直すべきだろう。行動の速さもまた、真摯さの表れとなる。だから、速い人もやっぱり信頼できる。


③経験から多くを学ぼうとしているか?

速さが大切だと言うと、「闇雲に行動するばかりで一切学ばない人はどうなのか?」という至極真っ当な反駁を受けることがある。これについては、早さと同時に、経験から多くを学ぼうとする姿勢を併せ持つことが肝要であると応えたい。

経験から良質な学習を得るには、ある程度の技術と修練を要する。一般的には、一人ではなく複数人で経験したことに対する”ふりかえり”をすること、ふりかえった結果を後からさらにふりかえり自己の変化に対してメタな学びを獲得し続けること、タイムボックスを切って経験をカプセル化し論理的なつながりを見出す(≒成長の軌跡を描く)こと、学習したことを形式知として整理整頓し他者に知識として伝達できる状態に仕上げること、などが挙げられる。鍵となるのはいずれも、学びの中に他者性を介在させるプロセスを挟むことだ。

いくら行動の試行回数を増やしても、漫然と経験を浪費していれば、「闇雲に行動するばかりで一切学んでいない」と捉えられても仕方ない。そうならないために、経験から学習するための技術を知り、実践していくことが重要だ。大抵、ビジネスにおけるマネジメントやチームワーク養成のフレームには、学びを促進するための技術がインストールされているから、これをもとに自分なりのカスタマイズを加えていくのが良いと思う。

改めて強調したいのは、学びの質は、周囲の人間との関係の質の関数であるということだ(ご存知の通り、これは成功循環モデルとして定式化されている)。良い学びを得ようとするなら、良い関係を他者と築くことに妥協してはいけない。それがわかっている人も、やっぱり信頼できる。


以上である。わざわざ文章に下すほどのものでもなかったかもしれないが、いい塩梅で抽象化することができたのではないかと思う。

こうして眺めてみると、私の”評価基準”は、あまねく他者との関係の築き方にフォーカスしたものになっており、やはり自分の中で「他者と共存する」ことが大きなテーマになっていることを改めて確認できた。これは、経験からしかわからない大きな収穫である。


最後に、たまに眺めている落合陽一の名言を紹介する。

「この人は自分を越えるかもしれない」と思うような稀有な才能をお持ちの方はいらっしゃいますか?そうだとしたらどのような共通項や資質がありますか?

- 「すぐやる」人です。それ以外に才能を感じることはあまりないです。研究者に限らず人類で一番大事なことではないでしょうか(笑)。「すぐやること」を「いつでもやっている」。シンプルですがこれが一番大事です。


参考文献

①は契約論者のなかでもルソー


②は、やっぱりアジャイル


③はナレッジマネジメントと組織学習論


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