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「自分の存在の奇跡に、宇宙へ感謝を込める壮大な物語~『オレンジガール』~」【YA㊵】

『オレンジガール』 ヨースタイン・ゴルデル 著 猪苗代英徳 訳  (日本放送出版協会)
                          2006.4.16読了
 
この本を読んだのは当時ネット上で友だちになった方から教えてもらったからなのですが、読んでみて確かにステキな本でした。
 

幼い時に父親を亡くした15歳のゲオルグは祖父母から、まだ生きていた頃に書いて仕舞ってあったという父からの手紙を手渡されました。
それはかなりの厚さで、ずっと赤い子供用の自動車の中に隠されていたのでした。
 
もちろん祖父母も母親も、その後母と再婚した男性・ヨルゲンも当然手紙は読んでいないのです。
ゲオルグ宛の手紙なのですから当然と言えば当然ですね。
 
しかしその手紙に書かれている内容は、母へのラブレターとも言えるようなものでした。
若かりし父がある日出会った、オレンジがたくさん入った袋をかかえた“オレンジガール”に恋をして、名前も住んでいる場所も知らない父が必死に“オレンジガール”のことを探しまくります。
そして、二人はやっと出会い結婚をして、ゲオルグが生まれるという真実の物語を綴っているのです。
 
でもご存じのように父親は病に倒れ、いわば無くなる前の遺書のような手紙をゲオルグに書いたのです。
 

前半は自分の両親がどうやって出会い結ばれたかを伝える、愛情がぎっしり詰まった手紙でした。
その後に書かれていたのは、この世に生を受けたゲオルグ、かつ人類全体にもかかわる壮大な物語が含まれており、とても大切な質問がゲオルグに対してなされていたのです。
 
それはまた、この本を読んでいるすべての読者、今を生きるすべての人々に送られた大事な質問状でした。
 
自分が生きている意味、生命への愛おしさ、両親や祖先、ひいてはこの宇宙の始まりへの尊大な感謝まで思い起こさせるこの本は、ぜひ若者…中高生はもちろん、成人式を迎えるような大人への入り口に立つひとたちに読んで欲しい1冊だと思います。
 
作者はノルウェー出身の作家で、『ソフィーの世界』という本が大ヒットしかなり有名になりました。
『ソフィーの世界』も哲学的な内容の本で読み応えのある本でしたが、この『オレンジガール』も読む者に様々なことを考えさせるものとなっています。
哲学的といっても、とても読みやすく自ずと読みながら考えている自分に気が付きます。
 
この本では主人公ゲオルグもちゃんと思慮し父の質問の答えにたどり着くのですが、そこへ導いてくれるような父の手紙の内容は、そのまま作者が読者や現代の若者に気づいてほしいメッセージなのかもしれません。
 
私たちは奇跡の重なりで今、生かされているのだなとひしひしと感じてしまいます。

まずは産んでくれてありがとう、
両親が出会ってくれてありがとう、
その両親がこの世に生まれてくれてありがとう、
さかのぼって、この地球、この宇宙が誕生してくれてありがとう、と。

 


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