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世界”サヨナラ”街歩き ネパール編 ~火葬/パシュパティナート寺院~

「尊厳死(安楽死)」についての議論が盛り上がっている。落合陽一さん・古市憲寿さんによる終末医療についての対談と炎上をはじめ、末期患者のQOL、医療費の問題などからその是非が問われ始めている。不治で末期の患者の延命治療を拒否する「尊厳死」。また、特定の条件を満たした患者が死を望んだ際、医師が積極的に死を助ける「安楽死」。オランダをはじめ、既に数カ国で認められている「安楽死」については、まだ日本で積極的に議論されることも少ない。

一体、日本人は「死」をどう捉えているのか。

数年前、世界各国の“葬式”を記録して回った。各国三者三様の「死者の送り方」を見て回ることで、私たちの死生観が特殊なものなのか、それとも他の土地で暮らす人々と共通したものなのか、見えてくるのではないかと思った。そして、これからさらに活発に議論が進むだろう“死に方”について考える、一助になるのではと思った。

普段、目にすることのない世界各国の市井の人々の「葬式」。一カ国ずつ、短い動画と記事でまとめます。

ネパール カトマンズ/パシュパティナート寺院の火葬

ネパールの首都カトマンズ。ヒマラヤ探索の起点となり、世界中から観光客が集まる土地だ。世界最貧国のひとつ、いまだ経済発展の恩恵を受けていないこの街は、未舗装の道路と、今にも倒れそうな建物で溢れている。ここに住む人々はヒンドゥー教の敬虔な信奉者が多い。この街にある、ネパール最大の寺院「パシュパティナート寺院」で行われる葬儀の様子を記録した。

【カトマンズの街中。古いレンガ造りの家が軒を連ね、雨が降ると道はすぐに陥没する】

パシュパティナート寺院のすぐ横を流れるバグマティ川。下流はインドへと続き、ヒンドゥー教の聖河・ガンジスにつながっている。そのためネパールのヒンドゥー教徒は皆、この川に葬られたいと願う。寺には、オレンジ色の布に包まれた死者が一日中、ひっきりなしに運ばれてくる。

【パシュパティナート寺院とバグマティ川。石台の上で死体が火葬される】

【運ばれてきたばかりのヒンドゥー教徒の死体】

グラデーションのような生と死

敷地内の川岸に古びた建物がある。「死を待つ人の家」だ。中では二人の老女がベッドに横たわっていた。死んだらすぐに川に埋葬してもらえるよう、自ら望んでここで死を待っている。死を自覚し受け入れ、だんだんと聖なる川に身を寄せていく。”生と死は対立するものではなく、なめらかにつながっている”。彼女たちは、そんな風に捉えているのかもしれない。

【寺院内の建物内で、死を待つ老女】

輪廻転生を信じるヒンドゥー教徒は、死後、なるべく早く火葬されて川に流され、あの世に向かうことを願う。死者の足が川に浸けられ清められると、すぐに下流の火葬場へ移される。安穏を表すオレンジ色の布で包まれた死者に真っ赤な粉が振りかけられ、たいまつをもった親族が死者の周りを3周する。その後、薪のみで3時間ほどかけて、ゆっくり燃やされていく。

【死者にはオレンジの布が被され、埋葬される】

【泣きながら死者の周りを歩く女性】

生と死をつなぐ”三途の川”

川にかかる橋からは、観光客と共に、大勢の現地のネパール人もこの火葬の様子を見守っている。この火葬場の対岸には、ヒンズー教の最高位に位置する神「シヴァ」が奉られている。世界の創造を司る、いわば”生命”の神様だ。ネパール人は不妊などに悩んだとき、このシヴァに祈りを捧げにやってくる。そのため、新たな生を願ってこの地を訪れるとき、必ず死を目撃することになる。

【シヴァが祀られた対岸の寺院】

【幼い子どもを抱き、火葬を見守る女性たち】

亡骸が流された川では、幼い子どもたちが無邪気に遊び回っている。死んだばかりの人と、生まれたばかりの人が混じり合う聖なる川。ネパールの人々は、あの世と現世をグラデーションのように曖昧につなぐ、おだやかな“三途の川”を持っているのかもしれない。

【川に流される朽ち果てた死体】

【死体が流される聖なる川で遊ぶ子どもたち】


インド編に続きます。


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