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シナリオプランニングに関する文献を読んでいると「不確実性」という言葉を目にすることが多い。

それもそのはず、シナリオプランニングは「不確実性」に対処するための手法だからだ。

しかし、そのような手法を知り、身につけたから安心というわけにはいかない。

単に道具としての手法を身につけて安心するのではなく、その道具を使う、私たち自身の頭の使い方も変えていかなければいけない。

中でも、これだけ世の中が不確実になってきている今、「学ぶ」ことの意味が変わっていることに目を向けることは重要だ。

新しいことを学ぼうとしている際、自分の中にある「学び」についての考え方が古いままであれば、学ぶ対象として選ぶテーマを見誤ってしまったり、学び方を間違ってしまったりしてしまうかもしれない。

ドネラ・メドウズの知恵のリスト

成長の限界』の主執筆者を務めた人として知られているドネラ・メドウズは、システム・ダイナミクスの専門家として知られている。日本でも『世界はシステムで動く』が翻訳されている。

その、彼女が体験的に学んできたシステムの知恵をまとめた Dancing With Systems というリストがある。このリストの内容は『世界はシステムで動く』にも翻訳されて載っている。

“Dancing With Systems” というリストの名前といい、一番はじめの項目が “Get the beat.” という気の利きぶりといい、このリストを読んでいると、知恵というのは、こうやってこなれた、誰もがつい口にしたくなるような形にまとめることができるんだと感心してしまう。

余談はさておき、このリストの中で、ドネラ・メドウズは “Stay humble. Stay a learner.” という知恵を私たちに与えてくれている。『世界はシステムで動く』を見ると、これは「謙虚であり続け、学習者であり続ける」と訳されています。

ここはぜひ原文、あるいは翻訳書で全文を読んでほしいところだけど、その中でも特に印象に残っている部分を引用すると次のように書かれている。

複雑なシステムの世界では、逸脱を許さない硬直的な指示を手に進んでいくことは適切ではありません。「進路から外れない」のがよい考えであるのは、自分が正しい方向に進んでいると確信できるときだけです。実際はそうではないのに、自分は掌握しているというふりをすると、過ちを招くだけではなく、過ちから学ぶこともできなくなります。学ぶ際に適切なのは、小さなステップで、つねにモニタリングしながら進み、その先に何があるのかがよりわかるにつれ、進路変更を厭わないことです。
(出所:『世界はシステムで動く』292ページ)

伊藤穣一氏によるAI時代の基本原則

このドネラ・メドウズの言葉を読むと、伊藤穣一氏が『9プリンシプルズ』でも紹介している「地図よりコンパス(Compass over maps)」で伝えていることにも通じるなと思う。

「9プリンシプルズ」をコンパクトにまとめたアカデミーヒルズの講演録では、この原則について、こう書いている。

複雑かつスピードの速い世界では、すぐに書き換わってしまう地図を持つよりも、優れたコンパスを持つことが大切です。強い企業はすでにコンパスを持ち、現場で素早く物事を決めていますが、多くの日本企業はいまだに地図を作るために膨大な時間とコストをかけています。見通せない未来という地図を懸命に描こうとしているのです。

シナリオプランニングと結びつけて考えると

自分がシナリオプランニングについて伝えるとき、できあがったシナリオはアウトプットではなく、インプットだと何度も伝えている。

それはシナリオプランニングのテクニックに通じるところとしても伝えつつ、学びというところとつなげてみると「未来のことを見たからといって安心して、そこで考えることを止めてしまってはいけない」ということになる。

たしかにシナリオを作るプロセスは簡単ではない。そのプロセスは、自分や組織の思い込み(メンタルモデル)と向き合うことをとおして、これからの世の中に対する新しい視野を手に入れていくプロセスだと言える。

しかし、そこで新しい視野を得られたからといって、それが固定的な視野になってしまっては意味がない。それでは「苦労して新しいメンタルモデルを手に入れただけ」になってしまう。

「自分の視野」と「世の中」の接点をアップデートし続ける

そこで先ほどのドネラ・メドウズの言葉がヒントになる。

彼女が「複雑なシステムの世界では、逸脱を許さない硬直的な指示を手に進んでいくことは適切ではありません」と伝えているとおり、世の中の決まり切った学びのルート(伊藤穣一氏の言う「地図」)に乗っかって安心してはいけない。

世の中の大きな変化を見て、それを見ている自分の視野(思い込み)にも自覚的になること。この「自分の視野に自覚的になる」というのは、ドネラ・メドウズの言う「謙虚であり続ける」姿勢がないとできないこと。

そのような姿勢で、世の中で必要とされていることと自分の視野との接点を見極め、そこから見えてくる必要だと思うことについての学びを続けていく。

そして、学びを続けることで変わっていく「自分の視野」と、変わり続けていく「世の中」の接点をダイナミックにアップデートし続けながら、時には引き返しつつ、常に変わり続けていくことが、これからの「学び」ではないだろうか。

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Photo by Jakub Kriz on Unsplash

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