見出し画像

「Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow」by Gabrielle Zevin / レビュー

Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow / Gabrielle Zevin

Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow

by Gabrielle Zevin

【作品情報】

ジャンル:フィクション、コンテンポラリー、ロマンス、ヒストリカル
出版:2022年(US: Knopf/ UK: Chatto & Windus)
ISBN:978-1784744649

キーワード:ゲーム、ゲームクリエイター、異性間の友情、創業者、起業、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ボストン、ロサンゼルス

【あらすじ】

1987年、病院のゲーム室で2人の子どもが出会った。Sadieは姉のお見舞いに訪れており、Samは事故によるけがで入院中だった。2人はゲームで意気投合し、長い時間一緒にゲームをして過ごしたが、とある出来事を境に関係が壊れてしまった。8年後、それぞれハーバード大とMITに通う大学生になった2人は駅で再会。SadieがMITのコンピューターグラフィックスの授業で作ったゲームに可能性を感じたSamは、一緒にゲームを作ろうとSadieに持ち掛ける。貧しく社交的とは言えないSamとは真逆の、裕福で人懐こくハンサムなMarxをプロデューサーに携え、3人はゲームを作り始める。

Kindle版


【感想】

主人公たちの出会いが、ゲーム室で「スーパーマリオブラザーズ」を一緒にやったことだったり、Samの祖父母の営む店に「ドンキーコング」のゲームマシンが置いてあったり、SamのルームメートのMarxが日本人と韓国人のミックスドレースであったりするので、日本的な雰囲気があって親しみやすかったです。90年代が中心なので「たまごっち」とかも出てきたりしてノスタルジックな気分になりました。ゲーム制作者の話ですが、登場人物たちの人間関係を中心に、それぞれの壁や葛藤を描いているので、ゲームに詳しくなくてもストーリーは問題なく楽しめます。

主人公は、交通事故で心身共にトラウマを負っていた裕福でない韓国人とユダヤ系のミックスドレースのSamと、女性でありながらMIT(当時、女性はかなりの少数派)に通い、男子学生との性差を肌で感じていたSadie。そして2人を支えるのが日本人と韓国人の両親を持つこちらもミックスドレースのMarxです。それぞれにトラウマや葛藤があるのですが、残酷で不可避な彼らの現実世界と、彼らが創り出すゲーム世界の完璧さとの対比が個人的には面白かったです。

ゲーム世界では、死んでも生き返れるし、失敗した部分を成功するまで何度でもやり直せる。ゲーム世界には筋書きや秩序があって、それに従って進めていけば成功(ゴール)できるけど、現実世界は予測不能で理不尽なことも起きるし、死んだら生き返ることはできない、というもの。

ゲームの中が理想郷であるかのような考え方は、現実を生きる身としては絵空事のようにしか思えないはずですが、読んでるうちに本当にそれが究極の理想のように思えてしまうので不思議でした。本を開くとすぐにSamたちの世界に入って一緒に体験しているような気持ちになれるので、読むのが楽しかったです。著者の文章力はさすがです。

彼らの関係の変化、成功がもたらす影響、得たもの失ったもの、目指すべき場所はどこなのか…。誤解や意見の相違ですれ違いながら、彼らは人生の荒波を泳いでいきます。

SamとSadieはゲームという情熱を共有する親友かつライバルのような仲ですが、単なる仕事仲間という関係ではなく、ソウルメートのように引き寄せられ、互いに大切に思う間柄。そういう相手は、見つけようとして見つかるものではないですし、出会うべくして出会うような、それでいて幸運に導かれるような感じですよね。そんな2人が抱く愛情は、性愛なのか友愛なのか、はたまた友愛は性愛に発展するのかどうか、といったところも見どころ(読みどころ)の1つです。

中盤まで割と穏やかに過ぎるので気が散りがちになりましたが、2人がどうなるか気になって読み続けました。結果、中盤以降はジェットコースターのような展開であっという間に読み終わりました。Sadieの言動や判断にはいまいち共感できませんでしたが、Samは個人的に最高でしたし、Marxも存在自体がイケメンすぎて泣けてきました。

日本語版はまだありません。でもこれはもう勝手な推察ですが、この本はきっとすでにアンテナの良好な出版社が版権を取って翻訳に取り掛かっていることでしょう!(笑)

【訳書情報】

日本語版なし(2023年現在)

#洋書


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?